ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>十八番ことばの知恵袋(1)ことば収集車(電動アシストつき)
ことばの教師を長年続けてきて、日本語収集にかけては日常生活をして覚えた以上の語彙力はあるつもりでいるのに、まだまだ不足だなあと毎年思いを重ねています。新語流行語、若者言葉カタカナ言葉で新しく知っていくのは仕方がないと思いますが、昔習ったはずの言葉をまったく覚えていなかったり、初めて出会う言葉に出会うと、語彙力自慢の鼻をへし折られるので、これは高慢にならない薬だと肝に銘じています。元々高くもない鼻なのついつい「ことばに関しては、きょうびの学生よりは知っている」という思いで授業に出てしまうのは、よくないことです。
2018年、さっそく知らない言葉忘れていた言葉に出会いました。
1)本初子午線
小学校中学校で、グリニッジ天文台の経度零度が出てきた時に教わったはずだ、ということばなのですが、子午線に本初という接頭語がつくとグリニッジの零度のことだということ、まったく頭の中にありませんでした。「○初子午線」の○に当てはまることば、「元」だろうか、「原」だろうかと頭をひねり、「本初」という語にたどり着けませんでした。
「本初」は、ものごとのはじめ、元になること。子午線は、由来も知っているし、朗読劇「子午線の祭り」も好き。なじみの言葉です。
昔の方位で北が午(うま=時計では12時の方角)、南が子(ね=6時)に当たるから子午線っていうのは知っていたのですが、グリニッジ天文台の経度零度を本初子午線と呼ぶとは、思いつきませんでした。小学校中学校で習った覚えがないのだけれど、本当に習ったのかどうか、思い出せません。
2)由蘖(ゆうげつ)
昨年末に、「蘖ひこばえ」について書きました。しかし、漢語でそれを「由蘖」と書くのだということ、知りませんでした。現代中国語でも「由蘖」はありますが漢詩や学術書の中に用例がありますが、一般的な語ではないようです。手持ちの漢和辞典国語辞書とも由蘖は出ていませんでした。
3)弊竇へいとう、品隲ひんしつ、跼蹐きょくせき
語彙収集訓練として、古い本を読むようにしています。もちろん、自分にとって興味ある内容でなければ、読み続けることができません。今読んでいるのは、原勝郎『南海一見』という戦前の旅行記です。
ジャンクが一杯詰め込んであるために古いパソコン立ち上げまで時間がかかるので、画面がちゃんと出るまで、数分の間読み、どこでもやめられる本として、司馬遼太郎の街道シリーズや、このような古い旅行記は重宝です。『南海一見』は、中公文庫1979の版ですが、元本は大正3年の発行です。大正のはじめに東南アジアを旅行した西洋史の先生が書いた本です。
文庫本48ページに、まったく知らなかった語が2つと、日頃使わない語が1つ出てきました。この3語、手持ちの辞書には出ていません。こんなとき、頼ってしまうネット検索。
・弊竇(へいとう)とは。「竇」は穴の意。弊害となる点。欠陥。(デジタル大辞典)
・品隲(ひんしつ品騭)とは。「隲」はさだめる意。事物の優劣や品物のよしあしを批評し定めること。品定め。品評。品藻。(大辞林第3版)
・跼蹐(きょくせき)とは。身の置き場所もない思いをすること(岩波国語第4版)
跼蹐は、司馬遼太郎の本にでてきたのを覚えていますし、私の辞書にも意味は出ている語なので、それほど使用稀な熟語ではないのでしょうけれど、まったくもって私にとっては、「理解語彙」であるが「使用語彙」ではありません。
この先一生使わないと思う語彙であるけれど、自分は使わない語であっても、頭の中の辞書には入れておかなければ。跼蹐すべき場面はこの先いくらでもありそうな気はするけれど。
我が身顧みて、その品隲こころみるに、弊竇多々あり、跼蹐すべき人物なり。
ふう、使って見ました。これで跼蹐も使用語彙。
ことば収集車、BMBで行く人も電気自動車もありだけれど、私は自転車で集めます。あ、今年は電動アシストつき。現代日本語として「収集車」を検索すると、ゴミ収集車(塵芥収集車)ばかりが登場します。ほかのものは日常生活であまり収集していないのでしょう。そのほかでも、廃油収集車とかいらないものを集めるほうが主流のようです。ことば収集車となると、死語瀕死語を集めるおもむきになるのかもしれません。
「弊竇」など、死語の感がありますが、新しいことばも収集していく、電動アシストつき自転車、ことばの苑を走り、ことばの林をかけぬけ、ことばの海を、、、おっと、自転車では海は行けませぬな。では、海を行くときは小舟に乗り換えて。溺れぬように。
<つづく>
ことばの教師を長年続けてきて、日本語収集にかけては日常生活をして覚えた以上の語彙力はあるつもりでいるのに、まだまだ不足だなあと毎年思いを重ねています。新語流行語、若者言葉カタカナ言葉で新しく知っていくのは仕方がないと思いますが、昔習ったはずの言葉をまったく覚えていなかったり、初めて出会う言葉に出会うと、語彙力自慢の鼻をへし折られるので、これは高慢にならない薬だと肝に銘じています。元々高くもない鼻なのついつい「ことばに関しては、きょうびの学生よりは知っている」という思いで授業に出てしまうのは、よくないことです。
2018年、さっそく知らない言葉忘れていた言葉に出会いました。
1)本初子午線
小学校中学校で、グリニッジ天文台の経度零度が出てきた時に教わったはずだ、ということばなのですが、子午線に本初という接頭語がつくとグリニッジの零度のことだということ、まったく頭の中にありませんでした。「○初子午線」の○に当てはまることば、「元」だろうか、「原」だろうかと頭をひねり、「本初」という語にたどり着けませんでした。
「本初」は、ものごとのはじめ、元になること。子午線は、由来も知っているし、朗読劇「子午線の祭り」も好き。なじみの言葉です。
昔の方位で北が午(うま=時計では12時の方角)、南が子(ね=6時)に当たるから子午線っていうのは知っていたのですが、グリニッジ天文台の経度零度を本初子午線と呼ぶとは、思いつきませんでした。小学校中学校で習った覚えがないのだけれど、本当に習ったのかどうか、思い出せません。
2)由蘖(ゆうげつ)
昨年末に、「蘖ひこばえ」について書きました。しかし、漢語でそれを「由蘖」と書くのだということ、知りませんでした。現代中国語でも「由蘖」はありますが漢詩や学術書の中に用例がありますが、一般的な語ではないようです。手持ちの漢和辞典国語辞書とも由蘖は出ていませんでした。
3)弊竇へいとう、品隲ひんしつ、跼蹐きょくせき
語彙収集訓練として、古い本を読むようにしています。もちろん、自分にとって興味ある内容でなければ、読み続けることができません。今読んでいるのは、原勝郎『南海一見』という戦前の旅行記です。
ジャンクが一杯詰め込んであるために古いパソコン立ち上げまで時間がかかるので、画面がちゃんと出るまで、数分の間読み、どこでもやめられる本として、司馬遼太郎の街道シリーズや、このような古い旅行記は重宝です。『南海一見』は、中公文庫1979の版ですが、元本は大正3年の発行です。大正のはじめに東南アジアを旅行した西洋史の先生が書いた本です。
文庫本48ページに、まったく知らなかった語が2つと、日頃使わない語が1つ出てきました。この3語、手持ちの辞書には出ていません。こんなとき、頼ってしまうネット検索。
・弊竇(へいとう)とは。「竇」は穴の意。弊害となる点。欠陥。(デジタル大辞典)
・品隲(ひんしつ品騭)とは。「隲」はさだめる意。事物の優劣や品物のよしあしを批評し定めること。品定め。品評。品藻。(大辞林第3版)
・跼蹐(きょくせき)とは。身の置き場所もない思いをすること(岩波国語第4版)
跼蹐は、司馬遼太郎の本にでてきたのを覚えていますし、私の辞書にも意味は出ている語なので、それほど使用稀な熟語ではないのでしょうけれど、まったくもって私にとっては、「理解語彙」であるが「使用語彙」ではありません。
この先一生使わないと思う語彙であるけれど、自分は使わない語であっても、頭の中の辞書には入れておかなければ。跼蹐すべき場面はこの先いくらでもありそうな気はするけれど。
我が身顧みて、その品隲こころみるに、弊竇多々あり、跼蹐すべき人物なり。
ふう、使って見ました。これで跼蹐も使用語彙。
ことば収集車、BMBで行く人も電気自動車もありだけれど、私は自転車で集めます。あ、今年は電動アシストつき。現代日本語として「収集車」を検索すると、ゴミ収集車(塵芥収集車)ばかりが登場します。ほかのものは日常生活であまり収集していないのでしょう。そのほかでも、廃油収集車とかいらないものを集めるほうが主流のようです。ことば収集車となると、死語瀕死語を集めるおもむきになるのかもしれません。
「弊竇」など、死語の感がありますが、新しいことばも収集していく、電動アシストつき自転車、ことばの苑を走り、ことばの林をかけぬけ、ことばの海を、、、おっと、自転車では海は行けませぬな。では、海を行くときは小舟に乗り換えて。溺れぬように。
<つづく>