20180118
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>質問に答えます(1)発音・音声教育
期末に「日本語、日本語教育、日本文化について、なんでも質問受け付けまず。ただし、答えられない質問はパス」という学生からの質問受け付け時間を設けています。寄せられた質問にできる限り答えるという企画です。
例年同じような質問が重なりますが、さしつかえない範囲で答えています。
<発音・音声教育>
質問1 日本語や外国語でそれぞれ存在しない音があったり、発音が難しい音があるのはなぜか
[回答]
人間が唇、歯、舌、のど、声帯などを使って作り出す音(音声)は、いくつあるでしょうか。無限大です。微妙な違いを聞き分けられる人にとっては、さまざまな音色の違いが感じられるでしょう。
人間の赤ん坊は、生まれてきたときは、どんな音も口のなかで作り出す能力を持っています。しかし、周囲の人(養育者)の音声を聞き分け、言語音に必要な音のみを発音することによって、必要な音を選び取っていきます。
日本語は、母音が5つと子音の種類が14で、音素数は20ほど。音節数は115ほどです。(学者によって数え方がことなる)
音素が100くらいある言語もあるそうですが、赤ん坊は、それぞれの養育者の言語音を聞き分け、発音できるようになっていきます。
言語として音声を使うには、無限にある音の違いは必要ありません。
日本語は世界の言語の中でもごくわずかな音声を使って、豊かな語彙を表現できる言語です。日本語の音節はわずか115ですが、これで森羅万象なんでも表現できます。
言語によって採用されている音素音節は異なるため、母語にない音は、聞き分けるのも難しく、発音もむずかしいです。日本語母語話者には「L」と「R」は同じ音にきこえるため、電灯のライトlightと、右のライトrightは、同じ音に聞こえます。日本語にはこの区別は必要ないからです。
自分の母語にない音の発音は難しい。当然のことです。
日本語は音節数が少なくて、発音は難しくない言語です。しかし、日本語の促音(小さい「つ」で書き表している)が自分の母語にない学習者にとって、促音は難しいです。
なぜ、外国語の発音はむずかしいのか。赤ちゃんのときは発音していたはずの、多様な発音を忘れて、母語(養育者のことば)に必要な発音を選び取ることで言語が習得できるようになるからです。無限大のすべての発音を保持したままで、すべての言語を習得することはできません。
母語(思考していくための言語)は、ひとつで十分だからです。社交のビジネスには多言語が必要になる人もいますが、思考言語(頭のなかで考える言語・内言語)は、ひとつかふたつに絞らないと、考えることが分裂してしまうと言われています。
それぞれの言語にそれぞれ独自の発音が含まれていること、その違いや発音の多様性を知ることも、言語学習の楽しみだと思えるように、語学教育に携わりたいものです。
質問2 以前、韓国・中国の留学生と話したことがありますが、彼らの「た行」の発音が気になりました。他の言葉は上手なのに、「ちゅくる(つくる)」「ちゅよい(つよい)」という様に、た行だけ正しく発音できていませんでした。
これは、韓国と中国の留学生で共通していましたが、他の国では た行の発音はどのようになっているか疑問に思いました。また、韓国と中国が共通してこのような発音になるのは何故でしょうか。
[回答]
留学生の母語に日本語の「つ」IPA[t͡sɯ]̈ の音がなければ、発音が難しいです。
日本語の「tsu」[t͡sɯ]という発音を持たない言語は多数あります。英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、インドネシア語、マレーシア語、タイ語、ラオス語、ベトナム語、カンボジア語、ビルマ語、アラビア語、トルコ語など。これらの言語を母語とする人は、練習しないと「つみき」「おつかれ様」などが言いにくいです。
「つ」の発音練習。
「つ」は、tの口構えをしてから、その直後すぐに「す」を発音するという音です。「つ」が発音できない場合は、舌先を下の歯の裏につけてからすぐに「す」と言うように教えると、だんだんできるようになります。
(この回答は、東外大ページ参照)
質問3)日本語母語話者のナチュラルスピードのテープ音声を聞き、学習者の反応を見たとき、どんなことを工夫することができますか。
[回答]
ネイティブスピーカーのナチュラルスピードは、初級学習者にはとてもはやいと感じられるようです。CDの録音を聞いた学習者の反応が悪く、聞き取れていないことが明らかなときは、教師がスロースピードで言い直すこともあります。
しかし、できるだけ初期の段階からなるべくナチュラルスピードになれさせたほうが、結局は聞き取りの力が伸びていく例が多いように思います。
<つづく>
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>質問に答えます(1)発音・音声教育
期末に「日本語、日本語教育、日本文化について、なんでも質問受け付けまず。ただし、答えられない質問はパス」という学生からの質問受け付け時間を設けています。寄せられた質問にできる限り答えるという企画です。
例年同じような質問が重なりますが、さしつかえない範囲で答えています。
<発音・音声教育>
質問1 日本語や外国語でそれぞれ存在しない音があったり、発音が難しい音があるのはなぜか
[回答]
人間が唇、歯、舌、のど、声帯などを使って作り出す音(音声)は、いくつあるでしょうか。無限大です。微妙な違いを聞き分けられる人にとっては、さまざまな音色の違いが感じられるでしょう。
人間の赤ん坊は、生まれてきたときは、どんな音も口のなかで作り出す能力を持っています。しかし、周囲の人(養育者)の音声を聞き分け、言語音に必要な音のみを発音することによって、必要な音を選び取っていきます。
日本語は、母音が5つと子音の種類が14で、音素数は20ほど。音節数は115ほどです。(学者によって数え方がことなる)
音素が100くらいある言語もあるそうですが、赤ん坊は、それぞれの養育者の言語音を聞き分け、発音できるようになっていきます。
言語として音声を使うには、無限にある音の違いは必要ありません。
日本語は世界の言語の中でもごくわずかな音声を使って、豊かな語彙を表現できる言語です。日本語の音節はわずか115ですが、これで森羅万象なんでも表現できます。
言語によって採用されている音素音節は異なるため、母語にない音は、聞き分けるのも難しく、発音もむずかしいです。日本語母語話者には「L」と「R」は同じ音にきこえるため、電灯のライトlightと、右のライトrightは、同じ音に聞こえます。日本語にはこの区別は必要ないからです。
自分の母語にない音の発音は難しい。当然のことです。
日本語は音節数が少なくて、発音は難しくない言語です。しかし、日本語の促音(小さい「つ」で書き表している)が自分の母語にない学習者にとって、促音は難しいです。
なぜ、外国語の発音はむずかしいのか。赤ちゃんのときは発音していたはずの、多様な発音を忘れて、母語(養育者のことば)に必要な発音を選び取ることで言語が習得できるようになるからです。無限大のすべての発音を保持したままで、すべての言語を習得することはできません。
母語(思考していくための言語)は、ひとつで十分だからです。社交のビジネスには多言語が必要になる人もいますが、思考言語(頭のなかで考える言語・内言語)は、ひとつかふたつに絞らないと、考えることが分裂してしまうと言われています。
それぞれの言語にそれぞれ独自の発音が含まれていること、その違いや発音の多様性を知ることも、言語学習の楽しみだと思えるように、語学教育に携わりたいものです。
質問2 以前、韓国・中国の留学生と話したことがありますが、彼らの「た行」の発音が気になりました。他の言葉は上手なのに、「ちゅくる(つくる)」「ちゅよい(つよい)」という様に、た行だけ正しく発音できていませんでした。
これは、韓国と中国の留学生で共通していましたが、他の国では た行の発音はどのようになっているか疑問に思いました。また、韓国と中国が共通してこのような発音になるのは何故でしょうか。
[回答]
留学生の母語に日本語の「つ」IPA[t͡sɯ]̈ の音がなければ、発音が難しいです。
日本語の「tsu」[t͡sɯ]という発音を持たない言語は多数あります。英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、インドネシア語、マレーシア語、タイ語、ラオス語、ベトナム語、カンボジア語、ビルマ語、アラビア語、トルコ語など。これらの言語を母語とする人は、練習しないと「つみき」「おつかれ様」などが言いにくいです。
「つ」の発音練習。
「つ」は、tの口構えをしてから、その直後すぐに「す」を発音するという音です。「つ」が発音できない場合は、舌先を下の歯の裏につけてからすぐに「す」と言うように教えると、だんだんできるようになります。
(この回答は、東外大ページ参照)
質問3)日本語母語話者のナチュラルスピードのテープ音声を聞き、学習者の反応を見たとき、どんなことを工夫することができますか。
[回答]
ネイティブスピーカーのナチュラルスピードは、初級学習者にはとてもはやいと感じられるようです。CDの録音を聞いた学習者の反応が悪く、聞き取れていないことが明らかなときは、教師がスロースピードで言い直すこともあります。
しかし、できるだけ初期の段階からなるべくナチュラルスピードになれさせたほうが、結局は聞き取りの力が伸びていく例が多いように思います。
<つづく>