20180814
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>夏のことば(5)慟哭 by 大平数子
祈りとしての夏の朗読。
「慟哭」は、吉永小百合さんによる朗読が有名ですが、どうぞ、ご自身の声で朗読してみてください。
大平数子(1923-1986 広島の爆心地より2.2kmの地点で被爆。体内被曝の次男は、生後間もなく死去。夫も被爆により死亡。
『少年のひろしま』より
「あい」
逝ったひとはかえってこれないから
逝ったひとは叫ぶことが出来ないから
逝ったひとはなげくすべがないから
生きのこったひとはどうすればいい
生きのこったひとは何がわかればいい
生きのこったひとは悲しみをちぎってあるく
生きのこったひとは思い出を凍らせて歩く
生きのこったひとは固定した面(マスク)を抱いて歩く
(原爆より三日目に吾が家の焼けあとに呆然と立ちました)
めぐりめぐってたずねあてたら まだ灰があつうて
やかんをひろうてもどりました
でこぼこのやかんになっておりました
「やかん」
やかんよ
きかしてくれ
親しい人の消息を
やかんがかわゆうて
むしように
むしようにさすっておりました
坊さんが来てさ
くろいものを着てさ
かねをならしはじめると
母さんに見つめられて
あかるい灯明のむこうに
おまえたち
てれているのさ
ぽろ ぽろ
いとすいせんの匂う下で
母さんに叱られたとき
おまえたち
やったように
ちょっと泣き顔なのさ
「月夜」
もう寝たかい
もうねたかい
まだかい
もうねたろう
はよう
ねてくれよ
よんでいる
だれかよんでいる
むこうのほうでよんでいる
くずれながら
よせてきながら
母(ママン)ー
どこかでよんでいる
母(ママン)ー
沖の方でよんでいる
夕方
花やの前を通ると
花たちがいっせいにこっちを見る
チューリップも
アネモネも
スイートピーも
ヒヤシンスも
それからフリージアも
みいんな
手を出して
連れてかえってくれという
母さんに抱かれていたい言う
「失ったものに」
まちにあったかい灯がとぼるようになった
ふかふか ふかしたてのパンが
ちんれつだなにかざられるようになった
中学の帽子が似合うだろう
今宵かじるこのパンを
たべさしてやりたい
はらいっぱいたべさしてやりたい
女夜叉(おんなやしゃ)になって
おまえたちを殺したものを
憎んで、憎んで、憎み殺してやりたいが
今日は
母さんは空になって
おまえのための鳩を飛ばそう
まめつぶになって消えていくまで
とばしつづけよう
「慟哭」(しょうじ=次男)(やすし=長男)
しょうじ よう
やすし よう
しょうじ よう
やすし よう
しょうじ よおう
やすしい よおう
しょうじい よおう
やすしい よおう
しょうじい
しょうじい
しょうじいい
「母」
風さん 風さん 風さん
あなたが世界中をくまなく吹いて
どこかでわたしの子どもを見かけたら
わたしが
待って待って
待ちくたびれて
それでも
のぞみを捨てないで
まだ
待っているからと
あの子に伝えて下さいな
お月さん お月さん お月さん
あなたは
1年 365日
そうして歩いておいでだから
あなたは何でも見えるでしょうから
私の子どもが
道が多くて帰れないと
泣いていたなら
迷わずまっすぐ帰ったらいいと
おしえてやって下さいな
つばめさん つばめさん
あなたがいた みなみの国に
もしや わたしの子どもが
帰るのを忘れて 遊んでいやしないでしょうか
あの子はものおぼえのいいこだから
きっとわたしを
思いだしてくれるでしょうけれど
南の国はあったかいから
南の国はいっぱいいっぱい花が匂うているから
花の香りにむせて
私の子どもが帰るのを忘れているかも
しれないのです
もし
あなたが私の子どもを見かけたら
私が待っているからと
あの子に伝えて下さいな
ザクザクザク
山里にみぞれ降る
ゆきの重さ
悲しみの重さ
とてつもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
とてるもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
「こどもたちへ」
こどもたちよ
あなたは知っているでしょう
正義ということを
正義とは
つるぎをぬくことでないことを
正義とは
”あい”だということを
正義とは
お母さんを悲しませないことだということを
みんなお母さんの子だから
子ども達よ
あなたは知っているでしょう。
吉永小百合朗読(ピアノ坂本龍一) 峠三吉「にんげんをかえせ」大平数子「慟哭」
オックスフォード大学での朗読
https://www.youtube.com/watch?v=lEalWrdso8w
*大平泰(やすし1942~ 広島県榎町生まれ。2歳2ヶ月で被爆。父、弟、祖母が被曝死。中国新聞論説委)。
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>夏のことば(5)慟哭 by 大平数子
祈りとしての夏の朗読。
「慟哭」は、吉永小百合さんによる朗読が有名ですが、どうぞ、ご自身の声で朗読してみてください。
大平数子(1923-1986 広島の爆心地より2.2kmの地点で被爆。体内被曝の次男は、生後間もなく死去。夫も被爆により死亡。
『少年のひろしま』より
「あい」
逝ったひとはかえってこれないから
逝ったひとは叫ぶことが出来ないから
逝ったひとはなげくすべがないから
生きのこったひとはどうすればいい
生きのこったひとは何がわかればいい
生きのこったひとは悲しみをちぎってあるく
生きのこったひとは思い出を凍らせて歩く
生きのこったひとは固定した面(マスク)を抱いて歩く
(原爆より三日目に吾が家の焼けあとに呆然と立ちました)
めぐりめぐってたずねあてたら まだ灰があつうて
やかんをひろうてもどりました
でこぼこのやかんになっておりました
「やかん」
やかんよ
きかしてくれ
親しい人の消息を
やかんがかわゆうて
むしように
むしようにさすっておりました
坊さんが来てさ
くろいものを着てさ
かねをならしはじめると
母さんに見つめられて
あかるい灯明のむこうに
おまえたち
てれているのさ
ぽろ ぽろ
いとすいせんの匂う下で
母さんに叱られたとき
おまえたち
やったように
ちょっと泣き顔なのさ
「月夜」
もう寝たかい
もうねたかい
まだかい
もうねたろう
はよう
ねてくれよ
よんでいる
だれかよんでいる
むこうのほうでよんでいる
くずれながら
よせてきながら
母(ママン)ー
どこかでよんでいる
母(ママン)ー
沖の方でよんでいる
夕方
花やの前を通ると
花たちがいっせいにこっちを見る
チューリップも
アネモネも
スイートピーも
ヒヤシンスも
それからフリージアも
みいんな
手を出して
連れてかえってくれという
母さんに抱かれていたい言う
「失ったものに」
まちにあったかい灯がとぼるようになった
ふかふか ふかしたてのパンが
ちんれつだなにかざられるようになった
中学の帽子が似合うだろう
今宵かじるこのパンを
たべさしてやりたい
はらいっぱいたべさしてやりたい
女夜叉(おんなやしゃ)になって
おまえたちを殺したものを
憎んで、憎んで、憎み殺してやりたいが
今日は
母さんは空になって
おまえのための鳩を飛ばそう
まめつぶになって消えていくまで
とばしつづけよう
「慟哭」(しょうじ=次男)(やすし=長男)
しょうじ よう
やすし よう
しょうじ よう
やすし よう
しょうじ よおう
やすしい よおう
しょうじい よおう
やすしい よおう
しょうじい
しょうじい
しょうじいい
「母」
風さん 風さん 風さん
あなたが世界中をくまなく吹いて
どこかでわたしの子どもを見かけたら
わたしが
待って待って
待ちくたびれて
それでも
のぞみを捨てないで
まだ
待っているからと
あの子に伝えて下さいな
お月さん お月さん お月さん
あなたは
1年 365日
そうして歩いておいでだから
あなたは何でも見えるでしょうから
私の子どもが
道が多くて帰れないと
泣いていたなら
迷わずまっすぐ帰ったらいいと
おしえてやって下さいな
つばめさん つばめさん
あなたがいた みなみの国に
もしや わたしの子どもが
帰るのを忘れて 遊んでいやしないでしょうか
あの子はものおぼえのいいこだから
きっとわたしを
思いだしてくれるでしょうけれど
南の国はあったかいから
南の国はいっぱいいっぱい花が匂うているから
花の香りにむせて
私の子どもが帰るのを忘れているかも
しれないのです
もし
あなたが私の子どもを見かけたら
私が待っているからと
あの子に伝えて下さいな
ザクザクザク
山里にみぞれ降る
ゆきの重さ
悲しみの重さ
とてつもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
とてるもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
「こどもたちへ」
こどもたちよ
あなたは知っているでしょう
正義ということを
正義とは
つるぎをぬくことでないことを
正義とは
”あい”だということを
正義とは
お母さんを悲しませないことだということを
みんなお母さんの子だから
子ども達よ
あなたは知っているでしょう。
吉永小百合朗読(ピアノ坂本龍一) 峠三吉「にんげんをかえせ」大平数子「慟哭」
オックスフォード大学での朗読
https://www.youtube.com/watch?v=lEalWrdso8w
*大平泰(やすし1942~ 広島県榎町生まれ。2歳2ヶ月で被爆。父、弟、祖母が被曝死。中国新聞論説委)。