20190702
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(1)部首・鳥と馬
6月末に季節のことば「本朝七十二侯小満」を紹介しました。
渋川春海編纂の本朝七十二侯には、自然をよく観察して動植物を季節の指標としているところがあります。
立春次侯「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」、春分初侯「雀始巣(すずめはじめてすくう)、清明初侯「玄鳥至(つばめきたる)」、清明次侯「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」など、鳥の生態を季節のメルクマールにしている侯も多い。
白露次侯「鶺鴒鳴(せきれいなく)」、白露末侯「玄鳥去(つばめさる)」、寒露初侯「鴻雁来(こうがんきたる)」小寒末侯「雉始雊きじはじめてなく」
さて、七十二侯の中の鳥指標をとりあげたのは、季節に関してでなく、鳥の漢字について、あれこれ考えて遊んだからです。
漢字辞典を覗いてみると、鳥を部首とする漢字、たくさんあります。辞典によって数はことなりますが、だいたい200以上はあるみたい。一生のうちにぜったいに使うこともない漢字もありますが、鳥部首の漢字、生活の中でよく使うものも多い。
2010年に改定された2,136字の常用漢字を含めて、新聞雑誌などで日常目にする鳥を部首とする漢字を 訓読みアイウエオ順で以下に出してみると以下のような漢字が出てきます。( )は、音読み。音読みがないのは、日本国字(日本で作られた漢字)。
ァ行)う鵜(テイ) うぐいす鶯(オウ) うずら鶉(ジュン) おしどりオス鴛(エン) おしどりメス鴦(オウ) おおとり鴻(コウ) おおとり鳳(ホウ) おおとり鵬(ホウ) おうむ鸚鵡(エイ・ム)
カ行)かいつぶり鳰(ニオ) かささぎ鵲(セキ) がちょう鵞(ガ) かも鴨(オウ) かもめ鷗(オウ) からす鴉(ァ) けり鳧(ウ)
サ行)さぎ鷺(ロ) しぎ鴫(国字) せき・れい鶺鴒(セキ・レイ)
タ行)たか鷹(ヨウ) つぐみ鶫(国字) つる鶴(カク) とき鴇(ホウ) とび鳶(エン)
ナ行)にわとり鶏(ケイ)ぬえ鵺(ヤ)
ハ行)はと鳩(キュウ) ひよどり鵯(ヒ) ひわ鶸(ジャク) ふくろう梟(キュウ)
マ行)もず鴃(ゲキ)
ワ行)わし鷲(シュウ)
この部首の漢字を見て、yokoちゃんが感じた疑問。「なぜ、偏ではなく、旁にまたはアシに鳥があるのか」
京都桂川にいた鷺2018年11月

形が似ている部首に「馬」があります。馬を部首とする漢字を並べてみると。
こんどはよみではなく、画数で並べます
12画 馮 馭
13画 馴 馳 馯 馵 馲 馰 馱
14画 駅 駆 駄 駁 馼 駃 馹 馺 馽
15画 駐 駒 駕 駈 駟 駛 駑 駘 駝
16画 駮 駱 駭 駢 駲 駰 駫 駬 駪
17画 駿 駻 騁 駸 駴 騃 駽 騂 駾
17画 験 騒 騎 騅 騏 騈 騐 騊
加彩馬俑 唐時代8世紀 MOA美術館蔵

馬の場合、偏ではなく旁や足になっている字は、ごくわずか。駕籠の駕や馵(シュ:足が白い馬)くらいです。駑(ド:にぶくのろい馬。現代では駑馬(ドバ)にも劣る、という成語でみかけるくらい)。
日常でよくつか文字で偏ではないのは「驚く」くらいでしょう。驚くは、馬がおびえて騒ぐ、と言う意味から作られました。
そのほかの馬が偏になっている字は、駅(馬をつなぎとめておく宿)、馭者(馬をあやつる人)、馳(馬を走らせること)など。
ちなみに、馬を走らせて食材を集めたことが馳走(ちそう)丁寧語の「ご」をつけて「ごちそう」。
馬を使用して何かを行うときの言葉が馬偏のことば。馬偏で馬そのものを指すのは、常用漢字では、駒(コマ=若い馬)くらいです。
馬との比較で分かってきたこと。馬偏のことばは、馬そのものを指し示すのは駒のほかは、駑(ド:にぶくのろい馬)、馵(シュ:足が白い馬)のように、偏ではなく、足や頭の位置に部首がくる。
偏の場合は、「騎=馬に乗ること」「驟=馬が早く走ること」「験=ためす」のように、馬を利用して行う行動や状態をさすものがある。馬が偏になっていて、馬の種類を表す漢字もありますが、鳥と比べると、「葦毛の馬」や「黒毛の馬」などの、馬の毛並みの違いを表すくらいで、馬とは別種の文字は、「驢馬ロバ」くらいです。
2018年オークス記念の馬飾り

しかし、鳥が部首になっている漢字は、ほとんどがさまざまな種類の鳥を表す漢字であり、鳥の行動の意味を表している漢字は「鳴く」くらいです。
漢字の組み合わせには、会意文字や形成文字があります。月と日を合わせて「明」や、木がふたつで「林」みっつで「森」など二つの漢字を組み合わせるのが会意文字。数が少ない。ほとんどは形成文字です。意味を表す偏と、読みを表す旁、という組み合わせが基本。
馬部首の漢字と鳥部首の漢字を見て、動物の種類を表すには偏ではなく、旁がいいのかと思ったのですが、、、、動物部首のうち、羊を調べてみると。
羚羊かもしか、群むれ、羨うらやむ、羹あつもの、、、、
2018年夏のオーベルジュの羊

偏に動物部首があると、馬部首のように、動物を利用した「人の行動」。偏にいろいろな読みがあって旁が鳥になっていると鳥の種類さまざまを表す、ということでもないようで、結局、わかりませんでした。
動物の部首、ほかに鼠と犬が部首になっています。犬は、偏になっている字は辞書になく、旁や足。「献:犬を神にささげる」も「状:犬の形から、姿かたちのこと」も、旁ですが、犬の種類のさまざまを表しているのではない。
となると、形成文字の組み合わせは、片方が意味を、片方が音を表す、という以外に言えることは少なく、「なぜ、部首の鳥は偏にならないか」という疑問には、回答がみつかりませんでした。
でも、yokoちゃんの疑問から、動物が部首になっている漢字を眺め渡してああでもないこうでもないと考える時間、脳活になりました。ありがとうyokoちゃん。
以後、しばらく漢字について書き留めた春庭コラムの再録を続けます。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(1)部首・鳥と馬
6月末に季節のことば「本朝七十二侯小満」を紹介しました。
渋川春海編纂の本朝七十二侯には、自然をよく観察して動植物を季節の指標としているところがあります。
立春次侯「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」、春分初侯「雀始巣(すずめはじめてすくう)、清明初侯「玄鳥至(つばめきたる)」、清明次侯「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」など、鳥の生態を季節のメルクマールにしている侯も多い。
白露次侯「鶺鴒鳴(せきれいなく)」、白露末侯「玄鳥去(つばめさる)」、寒露初侯「鴻雁来(こうがんきたる)」小寒末侯「雉始雊きじはじめてなく」
さて、七十二侯の中の鳥指標をとりあげたのは、季節に関してでなく、鳥の漢字について、あれこれ考えて遊んだからです。
漢字辞典を覗いてみると、鳥を部首とする漢字、たくさんあります。辞典によって数はことなりますが、だいたい200以上はあるみたい。一生のうちにぜったいに使うこともない漢字もありますが、鳥部首の漢字、生活の中でよく使うものも多い。
2010年に改定された2,136字の常用漢字を含めて、新聞雑誌などで日常目にする鳥を部首とする漢字を 訓読みアイウエオ順で以下に出してみると以下のような漢字が出てきます。( )は、音読み。音読みがないのは、日本国字(日本で作られた漢字)。
ァ行)う鵜(テイ) うぐいす鶯(オウ) うずら鶉(ジュン) おしどりオス鴛(エン) おしどりメス鴦(オウ) おおとり鴻(コウ) おおとり鳳(ホウ) おおとり鵬(ホウ) おうむ鸚鵡(エイ・ム)
カ行)かいつぶり鳰(ニオ) かささぎ鵲(セキ) がちょう鵞(ガ) かも鴨(オウ) かもめ鷗(オウ) からす鴉(ァ) けり鳧(ウ)
サ行)さぎ鷺(ロ) しぎ鴫(国字) せき・れい鶺鴒(セキ・レイ)
タ行)たか鷹(ヨウ) つぐみ鶫(国字) つる鶴(カク) とき鴇(ホウ) とび鳶(エン)
ナ行)にわとり鶏(ケイ)ぬえ鵺(ヤ)
ハ行)はと鳩(キュウ) ひよどり鵯(ヒ) ひわ鶸(ジャク) ふくろう梟(キュウ)
マ行)もず鴃(ゲキ)
ワ行)わし鷲(シュウ)
この部首の漢字を見て、yokoちゃんが感じた疑問。「なぜ、偏ではなく、旁にまたはアシに鳥があるのか」
京都桂川にいた鷺2018年11月

形が似ている部首に「馬」があります。馬を部首とする漢字を並べてみると。
こんどはよみではなく、画数で並べます
12画 馮 馭
13画 馴 馳 馯 馵 馲 馰 馱
14画 駅 駆 駄 駁 馼 駃 馹 馺 馽
15画 駐 駒 駕 駈 駟 駛 駑 駘 駝
16画 駮 駱 駭 駢 駲 駰 駫 駬 駪
17画 駿 駻 騁 駸 駴 騃 駽 騂 駾
17画 験 騒 騎 騅 騏 騈 騐 騊
加彩馬俑 唐時代8世紀 MOA美術館蔵

馬の場合、偏ではなく旁や足になっている字は、ごくわずか。駕籠の駕や馵(シュ:足が白い馬)くらいです。駑(ド:にぶくのろい馬。現代では駑馬(ドバ)にも劣る、という成語でみかけるくらい)。
日常でよくつか文字で偏ではないのは「驚く」くらいでしょう。驚くは、馬がおびえて騒ぐ、と言う意味から作られました。
そのほかの馬が偏になっている字は、駅(馬をつなぎとめておく宿)、馭者(馬をあやつる人)、馳(馬を走らせること)など。
ちなみに、馬を走らせて食材を集めたことが馳走(ちそう)丁寧語の「ご」をつけて「ごちそう」。
馬を使用して何かを行うときの言葉が馬偏のことば。馬偏で馬そのものを指すのは、常用漢字では、駒(コマ=若い馬)くらいです。
馬との比較で分かってきたこと。馬偏のことばは、馬そのものを指し示すのは駒のほかは、駑(ド:にぶくのろい馬)、馵(シュ:足が白い馬)のように、偏ではなく、足や頭の位置に部首がくる。
偏の場合は、「騎=馬に乗ること」「驟=馬が早く走ること」「験=ためす」のように、馬を利用して行う行動や状態をさすものがある。馬が偏になっていて、馬の種類を表す漢字もありますが、鳥と比べると、「葦毛の馬」や「黒毛の馬」などの、馬の毛並みの違いを表すくらいで、馬とは別種の文字は、「驢馬ロバ」くらいです。
2018年オークス記念の馬飾り

しかし、鳥が部首になっている漢字は、ほとんどがさまざまな種類の鳥を表す漢字であり、鳥の行動の意味を表している漢字は「鳴く」くらいです。
漢字の組み合わせには、会意文字や形成文字があります。月と日を合わせて「明」や、木がふたつで「林」みっつで「森」など二つの漢字を組み合わせるのが会意文字。数が少ない。ほとんどは形成文字です。意味を表す偏と、読みを表す旁、という組み合わせが基本。
馬部首の漢字と鳥部首の漢字を見て、動物の種類を表すには偏ではなく、旁がいいのかと思ったのですが、、、、動物部首のうち、羊を調べてみると。
羚羊かもしか、群むれ、羨うらやむ、羹あつもの、、、、
2018年夏のオーベルジュの羊

偏に動物部首があると、馬部首のように、動物を利用した「人の行動」。偏にいろいろな読みがあって旁が鳥になっていると鳥の種類さまざまを表す、ということでもないようで、結局、わかりませんでした。
動物の部首、ほかに鼠と犬が部首になっています。犬は、偏になっている字は辞書になく、旁や足。「献:犬を神にささげる」も「状:犬の形から、姿かたちのこと」も、旁ですが、犬の種類のさまざまを表しているのではない。
となると、形成文字の組み合わせは、片方が意味を、片方が音を表す、という以外に言えることは少なく、「なぜ、部首の鳥は偏にならないか」という疑問には、回答がみつかりませんでした。
でも、yokoちゃんの疑問から、動物が部首になっている漢字を眺め渡してああでもないこうでもないと考える時間、脳活になりました。ありがとうyokoちゃん。
以後、しばらく漢字について書き留めた春庭コラムの再録を続けます。
<つづく>