20190722
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(7)漢字表記の基準
春庭コラムの中、漢字について書いたものを再録しています。
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2005/12/15 木
日本語相談>(2)漢字表記について
k****さんは、40歳以上年下の中国から来日した奥様と、自船での沖釣りを愛する、悠々自適の太公望。奥様の日本語上達のために、日本語学校への送迎と、日本語学習への援助を続ける愛妻家です。
k****さんからの質問。
お早う御座います!チョッとお尋ね致します。
漢字の事ですが、こと・を漢字では「事」と書きますね。
今は漢字の「事」を使用しないで「こと」と書くのですか?
嫁さんの日本語学校では「事」と書くとバツなのです。今は、ひらがなで「こと」と書かなければならないそうです。
先生、この事はどうなのでしょう。教えて下さい。 (2005 12/12 9:19)
返信)漢字の基準
現在の文部科学省国語審議会による「表記基準」や新聞社表記基準によると、名詞としての実体を有している単語は漢字で表記するが、文のなかで、単語としての独自性を持たない(自立語ではない)語については、ひらがな表記をする、という方向がしめされています。
原則>自立語は漢字で、文中の機能を担う助詞、助動詞、補助動詞などはひらがなで。
たとえば、「いる」という動詞。「昨日、寒かったので、ずっと家に居た」という場合、「居る」は、動詞としての実体を有しているから、漢字で書いてよい。
しかし、「一日中、遊んでいるばかりで、仕事をしていない」というとき、「遊んで居る」と書かない。この場合の「いる」は補助動詞(アスペクト継続相をあらわす)であって、本動詞の働きとは異なるから。
名詞も同じ。「事を荒立てる」などは名詞としての実体があり「事件」「ことがら」という意味があるので、漢字で書くのはOK。
しかし、「中国へ行ったことがあります」の「こと」は、「行く」を名詞化するための、補助的な用法であり、「中国へ行くのは来年です」の中の「の」と同じです。この場合の「こと」は、「形式名詞」であり、補助的な働きをしています。
「の」をひらがなで書くように、補助的な「こと」は、ひらがなで書く方がのぞましいとされています。
ただし、表記は、あくまでもひとつの指針であり、個々の表現者が「これは漢字で表記したいと思ったとき、「遊んで居る」と書いても「行く事」と書いても、間違いとは言えないのです。表現は自由。
日本語学校の先生は、原則を原則通りに杓子定規にバツをつけているのだと思いますが、テストの場合、基準を設けて採点しなければならないので、原則優先にしているのでしょう。
日常の手紙などでの漢字表記は、ひらがなでも漢字でも、自由に書いてよいと思います。(2005-12-12 11:10:45)
明治時代の文章などでは、漢文脈の文章では特にそうだが、今ではひらがなで書くような語も、できる限り漢字で表記しようとしている。
漢字とかなの混ぜ具合に心をくだいた文章家もいるほどで、どの語を漢字で書き、どの部分をひらがなで書くかは、書き手の文体意識に左右される。
また、「カナモジ会」運動をすすめた人々のように、漢字で書かないと意味が区別できない同音語以外は、できるかぎり平仮名で書こうとする人もいる。
原則はあるが、ある語を漢字で書くかどうかは、表現者それぞれに任されている。以下、ABC,お好みで。
A: 分かち書きで表記しない場合、漢字は単語と単語を区別する、目で見る「単語」区別の役割も担っている。
B: わかちがきで表記しないばあい、漢字はたんごとたんごをくべつする、目でみる「たんご」くべつのやくわりもになっている。
C:わかちがきでひょうきしないばあい、かんじはたんごとたんごをくべつする、めでみる「たんご」くべつのやくわりもになっている。」
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20190721
だれもが気楽に文章をパソコンワープロやスマホで書けるようになった現代。漢字変換も、クリックひとつで手軽にできます。そうすると、昔は漢字で書いていたけれど、最近の常用漢字基準ではひらがなで書くようになった語も、漢字変換の候補に出てくるようになり、若者の中には、「こういう漢字だったのか、ちょい、かっこいいかも」と使う人も出てきました。
私はひらがなで表記している「ありがとうございます」を「有難う御座います」と書く人もいるし、「しかしながら」を、漢字変換で出てきた「併し乍ら・然し乍ら」という表記を使う若者もいます。
「表記は、個人の好みで」というのが私の方針ですが、私は、漢字で書かなければ意味が通じにくい、という場合以外は、できるだけひらがなで書きたい。
漢字は自立語と付属語を分かつ目印にもなっているので、漢字にしたほうが、意味が通じやすい場合には漢字を、ひらがなで書いても意味がまぎらわしくない場合にはひらがなで。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(7)漢字表記の基準
春庭コラムの中、漢字について書いたものを再録しています。
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2005/12/15 木
日本語相談>(2)漢字表記について
k****さんは、40歳以上年下の中国から来日した奥様と、自船での沖釣りを愛する、悠々自適の太公望。奥様の日本語上達のために、日本語学校への送迎と、日本語学習への援助を続ける愛妻家です。
k****さんからの質問。
お早う御座います!チョッとお尋ね致します。
漢字の事ですが、こと・を漢字では「事」と書きますね。
今は漢字の「事」を使用しないで「こと」と書くのですか?
嫁さんの日本語学校では「事」と書くとバツなのです。今は、ひらがなで「こと」と書かなければならないそうです。
先生、この事はどうなのでしょう。教えて下さい。 (2005 12/12 9:19)
返信)漢字の基準
現在の文部科学省国語審議会による「表記基準」や新聞社表記基準によると、名詞としての実体を有している単語は漢字で表記するが、文のなかで、単語としての独自性を持たない(自立語ではない)語については、ひらがな表記をする、という方向がしめされています。
原則>自立語は漢字で、文中の機能を担う助詞、助動詞、補助動詞などはひらがなで。
たとえば、「いる」という動詞。「昨日、寒かったので、ずっと家に居た」という場合、「居る」は、動詞としての実体を有しているから、漢字で書いてよい。
しかし、「一日中、遊んでいるばかりで、仕事をしていない」というとき、「遊んで居る」と書かない。この場合の「いる」は補助動詞(アスペクト継続相をあらわす)であって、本動詞の働きとは異なるから。
名詞も同じ。「事を荒立てる」などは名詞としての実体があり「事件」「ことがら」という意味があるので、漢字で書くのはOK。
しかし、「中国へ行ったことがあります」の「こと」は、「行く」を名詞化するための、補助的な用法であり、「中国へ行くのは来年です」の中の「の」と同じです。この場合の「こと」は、「形式名詞」であり、補助的な働きをしています。
「の」をひらがなで書くように、補助的な「こと」は、ひらがなで書く方がのぞましいとされています。
ただし、表記は、あくまでもひとつの指針であり、個々の表現者が「これは漢字で表記したいと思ったとき、「遊んで居る」と書いても「行く事」と書いても、間違いとは言えないのです。表現は自由。
日本語学校の先生は、原則を原則通りに杓子定規にバツをつけているのだと思いますが、テストの場合、基準を設けて採点しなければならないので、原則優先にしているのでしょう。
日常の手紙などでの漢字表記は、ひらがなでも漢字でも、自由に書いてよいと思います。(2005-12-12 11:10:45)
明治時代の文章などでは、漢文脈の文章では特にそうだが、今ではひらがなで書くような語も、できる限り漢字で表記しようとしている。
漢字とかなの混ぜ具合に心をくだいた文章家もいるほどで、どの語を漢字で書き、どの部分をひらがなで書くかは、書き手の文体意識に左右される。
また、「カナモジ会」運動をすすめた人々のように、漢字で書かないと意味が区別できない同音語以外は、できるかぎり平仮名で書こうとする人もいる。
原則はあるが、ある語を漢字で書くかどうかは、表現者それぞれに任されている。以下、ABC,お好みで。
A: 分かち書きで表記しない場合、漢字は単語と単語を区別する、目で見る「単語」区別の役割も担っている。
B: わかちがきで表記しないばあい、漢字はたんごとたんごをくべつする、目でみる「たんご」くべつのやくわりもになっている。
C:わかちがきでひょうきしないばあい、かんじはたんごとたんごをくべつする、めでみる「たんご」くべつのやくわりもになっている。」
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20190721
だれもが気楽に文章をパソコンワープロやスマホで書けるようになった現代。漢字変換も、クリックひとつで手軽にできます。そうすると、昔は漢字で書いていたけれど、最近の常用漢字基準ではひらがなで書くようになった語も、漢字変換の候補に出てくるようになり、若者の中には、「こういう漢字だったのか、ちょい、かっこいいかも」と使う人も出てきました。
私はひらがなで表記している「ありがとうございます」を「有難う御座います」と書く人もいるし、「しかしながら」を、漢字変換で出てきた「併し乍ら・然し乍ら」という表記を使う若者もいます。
「表記は、個人の好みで」というのが私の方針ですが、私は、漢字で書かなければ意味が通じにくい、という場合以外は、できるだけひらがなで書きたい。
漢字は自立語と付属語を分かつ目印にもなっているので、漢字にしたほうが、意味が通じやすい場合には漢字を、ひらがなで書いても意味がまぎらわしくない場合にはひらがなで。
<つづく>