20190725
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(9)平成の漢字かな交じり文
春庭コラムの中、漢字について書いたものを再録しています。
~~~~~~~~~~~
2005/12/23(金)
日本語相談(8)漢字とひらがな(最近のエッセイ)
ごく最近の文章をみてみよう。2005年12月9~15日の「R25」
「R25」は、25歳前後の男性勤労者を対象としたフリーマガジン。私、25歳でも、男性でもないけれど、無料大好きなので愛読中です。
巻末に連載されていた、石田衣良のエッセイ。 若者向けのエッセイなので、ひらがな、カタカナがぐんと多くなる。
「このコラムを読んでいるそこのあなた、つぎの日曜日に簡単な料理をはじめてみませんか。最初はオムレツとか野菜炒めなんかでいいと思う。オムレツなら好きなチーズでもいれてみる。野菜炒めなら肉にちゃんと下味をつける。それくらいでぐんとおいしさがアップする。どちらの料理も火加減が肝心なので、よくフライパンを焼いておくこと。失敗しても自分でつくった料理はいとしいもの。ファッションなんかより、料理のできる男のほうが、ずっと合コンでのポイントも高いのだ。 みんな、がんばれ!」
カナモジ会の主張ほどカナが多くはないが、一般的には漢字で書かれる「始めて→はじめて」「作った→つくった」など、仮名書きが多いことがわかる。
近頃のカタカナ外来語の多さ、漢字表記の少なさをお嘆きの方のためにこのエッセイを「できるだけ漢字で」「外来語なしで」表記するなら、
「 此の囲み記事を読んで居る其処の貴男、次の日曜日に簡単な料理を始めて見ませんか。最初は洋風卵焼きとか野菜炒め等で良いと思う。洋風卵焼きなら、好きな酪酥醍醐も入れて見る。野菜炒めなら肉にちゃんと下味を付ける。其れ位で群と美味しさが上昇する。どちらの料理も火加減が肝心なので、良く揚げ物用平鍋を焼いて置く事。失敗為ても自分で作った料理は愛しい物。流行衣服等依り、料理の出来る男の方がずっと男女合同懇親会での点数も高いのだ。皆、頑張れ 」
内容は同じこと書いてあるのに、印象がまったく変わってしまうことがわかる。
この漢字表記だと、おそらく「R25」の読者は、ページをひらいても、読まないだろう。紙面の字面がたいへん重苦しく、おいしいオムレツもお腹にもたれる感じがしてしまう。
私は、石田衣良の「ひらがな多めエッセイ」の表記法、読みやすいと感じた。
ただし、子どもや学生が漢字を覚えなくてよい、という意味ではない。
漢字教育をおろそかにすることには、反対。
漢字語彙は、日本言語文化の根幹ともいうべき財産である。漢字語彙、漢字文化を学び取ったのちに、自分の文章をひらがなで開いていくことは、かまわないが、最初から漢字を知らないのでは、2000年間に培われた知的財産を放棄することになる。
(「培われた」を「つちかわれた」と、ひらがなにするか、迷ったけど、漢字覚えろという部分なので、一応漢字表記)
漢字教育とはすなわち語彙教育であって、漢字を知らないと日本語の語彙の重要部分を担う漢字熟語を使いこなせないことになる。
ろくじょうさんから「渙発」という熟語についてコメントをいただいた。ろくじょうさんの母上から戦地の父上にあてた手紙の中にあった言葉。
「大詔渙発」という言葉について、戦後生まれは見たこと使ったことなく、知らないままでした。和語でいうと「すめらみこと、みことのりをのたまふ」でもって、取り消しはきかないよ、っていう意味。
コメントへの返信。
「大詔が渙発されました」の「渙発」、ろくじょうさんの日記ではじめて見ました。
「綸言汗のごとし」は知っていたけど、「渙汗」は知らなかった。ほんと、勉強になります。
才気煥発の「煥」も、「渙」も常用漢字表からもれて、使われなくなった。それでも才気煥発のほうは、四字熟語の本などに載ることがあったので、忘れられなかったけれど、「大詔渙発」のほうは、歴史を勉強していない私には「死語の世界」でした。
==============
大詔渙発の渙、才気煥発の煥、常用漢字からはずれた→学校で教えず、印刷物に載ることがなくなる→読める人がいなくなる→死語の世界へ
私は高校時代、古文は好きだったが、返り点レ点一二点上下点というのが面倒で漢文はさぼった。だから、漢文脈の文体を駆使できる人、すごいなあとその文体に見とれてしまう。
大学入試から漢文必修がなくなって、今や漢文読解は、高校国語教育においても風前の灯火。
若い方々、どうぞ、漢字漢文をケギライしないでくださいネー。(自分は棚に上げていう)
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2005/12/24(土)
日本語相談(9)漢字とひらがな(漢字率計算)
明治の随筆(幸田露伴)と、最近のエッセイ(石田衣良)の漢字率を出してみよう。分節で分かち書きをして、漢字を含む分節と、含まない文節を数える。(ただし、分節の分け方は、学者によってことなるので、日本語教科書の分節基準による。)
(分節は、基本の自立語に、助詞や接辞が附属したものをいう。小学校では「ネ」を入れて読め、と教える。「春さんはネ 昨日ネ 学校をネ 休んだんだネ。」この文は、分節4つ。)
「 棊は 支那に 起る。博物志に、尭囲棊を 造り、丹朱 これを 善くすと いい、晋中興書に、陶侃荊州の 任に 在る 時、佐史の 博奕の 戯具を 見て 之を 江に 投じて 曰く、囲棊は 尭舜 以て 愚子に 教え、博は 殷紂の 造る 所なり、諸君は 並に 国器なり、何ぞ 以て 為さんと いえるを 以て 夙に 棊は 尭舜時代に 起るとの 説 ありしを 知る。然れども 棊の 果して 尭の 手に 創造せられしや 否やは 明らかならず、猶博物志の 老子の 胡に 入つて 樗蒲を 造り、説文の 古は 島曹博を 作れりと いうが如し、此を 古伝説と 云う可きのみ。」
71分節あるうち、ひらがな表記の分節は3つ。漢字率、約 96%
「 この コラムを 読んでいる そこの あなた、つぎの 日曜日に 簡単な 料理を はじめてみませんか。最初は オムレツとか 野菜炒めなんかで いいと 思う。オムレツなら 好きな チーズでも いれてみる。野菜炒めなら 肉に ちゃんと 下味を つける。それくらいで ぐんと おいしさが アップする。どちらの 料理も 火加減が 肝心なので、よく フライパンを 焼いておくこと。失敗しても 自分で つくった 料理は いとしいもの。ファッションなんかより、料理の できる 男の ほうが、ずっと 合コンでの ポイントも 高いのだ。 みんな、がんばれ 」
52分節あるうち、ひらがな表記の分節は31。漢字率約40%
ふたつのエッセイだけの比較では断定できないが、100年のうちに、漢字使用率が大幅に少なくなっていることがわかる。
常用漢字表にない漢字は使用しないのが原則であるが、「愛がん動物」とか、「長年当校で教べんを取られた先生」など、漢字ひらがな混じり熟語というのは、なんだか、まぬけな気がする。
「敵の間ちょうを捕らえた」など、「間ちょう」って何?っていうことになり、「間諜(かんちょう=スパイ)」であると理解するのに時間がかかる。「愛玩動物」「教鞭」「間諜」と漢字で書いて、ふりがなを振ったほうが、わかりやすい。
私の表記基準。非自立語、接続詞、副詞、感嘆詞などは、できるだけひらがなで書く。ひらがなで書いても、意味が通じる和語動詞(訓読み動詞)」は、ひらがなで書くことを優先する。
「かく」は「書く」「掻く」「欠く」などがあり、「よんでいる」は「読んでいる」「詠んでいる」「呼んでいる」などと、まぎらわしいので漢字で書くが、「労る→いたわる」「捧げる→ささげる」「傾げる→かしげる」など、ひらがなで書いても他の語とまちがえることが少ない動詞は、ひらがな書き優先。
常用漢字外の熟語にはできるかぎり、ふりがなをつける。という方針で、表記していこうと思っている。
最後に、もう一度、確認を。
「個人の表現は、他者を傷つけない限り、どのような表現も自由」。
漢字とかな表記、「基準はあるけれど、基準だけを墨守する必要はない。要するに誤解を生むことなく、自分の表現したいことが、的確に伝わること」、これができればよいのだから。
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20190725
漢字とひらがなカタカナの混ぜ具合、文章の内容にもよりますが、文体によって印象が変わります。みなさま、それぞれのお好みで漢字表記をお使いください。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(9)平成の漢字かな交じり文
春庭コラムの中、漢字について書いたものを再録しています。
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2005/12/23(金)
日本語相談(8)漢字とひらがな(最近のエッセイ)
ごく最近の文章をみてみよう。2005年12月9~15日の「R25」
「R25」は、25歳前後の男性勤労者を対象としたフリーマガジン。私、25歳でも、男性でもないけれど、無料大好きなので愛読中です。
巻末に連載されていた、石田衣良のエッセイ。 若者向けのエッセイなので、ひらがな、カタカナがぐんと多くなる。
「このコラムを読んでいるそこのあなた、つぎの日曜日に簡単な料理をはじめてみませんか。最初はオムレツとか野菜炒めなんかでいいと思う。オムレツなら好きなチーズでもいれてみる。野菜炒めなら肉にちゃんと下味をつける。それくらいでぐんとおいしさがアップする。どちらの料理も火加減が肝心なので、よくフライパンを焼いておくこと。失敗しても自分でつくった料理はいとしいもの。ファッションなんかより、料理のできる男のほうが、ずっと合コンでのポイントも高いのだ。 みんな、がんばれ!」
カナモジ会の主張ほどカナが多くはないが、一般的には漢字で書かれる「始めて→はじめて」「作った→つくった」など、仮名書きが多いことがわかる。
近頃のカタカナ外来語の多さ、漢字表記の少なさをお嘆きの方のためにこのエッセイを「できるだけ漢字で」「外来語なしで」表記するなら、
「 此の囲み記事を読んで居る其処の貴男、次の日曜日に簡単な料理を始めて見ませんか。最初は洋風卵焼きとか野菜炒め等で良いと思う。洋風卵焼きなら、好きな酪酥醍醐も入れて見る。野菜炒めなら肉にちゃんと下味を付ける。其れ位で群と美味しさが上昇する。どちらの料理も火加減が肝心なので、良く揚げ物用平鍋を焼いて置く事。失敗為ても自分で作った料理は愛しい物。流行衣服等依り、料理の出来る男の方がずっと男女合同懇親会での点数も高いのだ。皆、頑張れ 」
内容は同じこと書いてあるのに、印象がまったく変わってしまうことがわかる。
この漢字表記だと、おそらく「R25」の読者は、ページをひらいても、読まないだろう。紙面の字面がたいへん重苦しく、おいしいオムレツもお腹にもたれる感じがしてしまう。
私は、石田衣良の「ひらがな多めエッセイ」の表記法、読みやすいと感じた。
ただし、子どもや学生が漢字を覚えなくてよい、という意味ではない。
漢字教育をおろそかにすることには、反対。
漢字語彙は、日本言語文化の根幹ともいうべき財産である。漢字語彙、漢字文化を学び取ったのちに、自分の文章をひらがなで開いていくことは、かまわないが、最初から漢字を知らないのでは、2000年間に培われた知的財産を放棄することになる。
(「培われた」を「つちかわれた」と、ひらがなにするか、迷ったけど、漢字覚えろという部分なので、一応漢字表記)
漢字教育とはすなわち語彙教育であって、漢字を知らないと日本語の語彙の重要部分を担う漢字熟語を使いこなせないことになる。
ろくじょうさんから「渙発」という熟語についてコメントをいただいた。ろくじょうさんの母上から戦地の父上にあてた手紙の中にあった言葉。
「大詔渙発」という言葉について、戦後生まれは見たこと使ったことなく、知らないままでした。和語でいうと「すめらみこと、みことのりをのたまふ」でもって、取り消しはきかないよ、っていう意味。
コメントへの返信。
「大詔が渙発されました」の「渙発」、ろくじょうさんの日記ではじめて見ました。
「綸言汗のごとし」は知っていたけど、「渙汗」は知らなかった。ほんと、勉強になります。
才気煥発の「煥」も、「渙」も常用漢字表からもれて、使われなくなった。それでも才気煥発のほうは、四字熟語の本などに載ることがあったので、忘れられなかったけれど、「大詔渙発」のほうは、歴史を勉強していない私には「死語の世界」でした。
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大詔渙発の渙、才気煥発の煥、常用漢字からはずれた→学校で教えず、印刷物に載ることがなくなる→読める人がいなくなる→死語の世界へ
私は高校時代、古文は好きだったが、返り点レ点一二点上下点というのが面倒で漢文はさぼった。だから、漢文脈の文体を駆使できる人、すごいなあとその文体に見とれてしまう。
大学入試から漢文必修がなくなって、今や漢文読解は、高校国語教育においても風前の灯火。
若い方々、どうぞ、漢字漢文をケギライしないでくださいネー。(自分は棚に上げていう)
~~~~~~~~~~~~~
2005/12/24(土)
日本語相談(9)漢字とひらがな(漢字率計算)
明治の随筆(幸田露伴)と、最近のエッセイ(石田衣良)の漢字率を出してみよう。分節で分かち書きをして、漢字を含む分節と、含まない文節を数える。(ただし、分節の分け方は、学者によってことなるので、日本語教科書の分節基準による。)
(分節は、基本の自立語に、助詞や接辞が附属したものをいう。小学校では「ネ」を入れて読め、と教える。「春さんはネ 昨日ネ 学校をネ 休んだんだネ。」この文は、分節4つ。)
「 棊は 支那に 起る。博物志に、尭囲棊を 造り、丹朱 これを 善くすと いい、晋中興書に、陶侃荊州の 任に 在る 時、佐史の 博奕の 戯具を 見て 之を 江に 投じて 曰く、囲棊は 尭舜 以て 愚子に 教え、博は 殷紂の 造る 所なり、諸君は 並に 国器なり、何ぞ 以て 為さんと いえるを 以て 夙に 棊は 尭舜時代に 起るとの 説 ありしを 知る。然れども 棊の 果して 尭の 手に 創造せられしや 否やは 明らかならず、猶博物志の 老子の 胡に 入つて 樗蒲を 造り、説文の 古は 島曹博を 作れりと いうが如し、此を 古伝説と 云う可きのみ。」
71分節あるうち、ひらがな表記の分節は3つ。漢字率、約 96%
「 この コラムを 読んでいる そこの あなた、つぎの 日曜日に 簡単な 料理を はじめてみませんか。最初は オムレツとか 野菜炒めなんかで いいと 思う。オムレツなら 好きな チーズでも いれてみる。野菜炒めなら 肉に ちゃんと 下味を つける。それくらいで ぐんと おいしさが アップする。どちらの 料理も 火加減が 肝心なので、よく フライパンを 焼いておくこと。失敗しても 自分で つくった 料理は いとしいもの。ファッションなんかより、料理の できる 男の ほうが、ずっと 合コンでの ポイントも 高いのだ。 みんな、がんばれ 」
52分節あるうち、ひらがな表記の分節は31。漢字率約40%
ふたつのエッセイだけの比較では断定できないが、100年のうちに、漢字使用率が大幅に少なくなっていることがわかる。
常用漢字表にない漢字は使用しないのが原則であるが、「愛がん動物」とか、「長年当校で教べんを取られた先生」など、漢字ひらがな混じり熟語というのは、なんだか、まぬけな気がする。
「敵の間ちょうを捕らえた」など、「間ちょう」って何?っていうことになり、「間諜(かんちょう=スパイ)」であると理解するのに時間がかかる。「愛玩動物」「教鞭」「間諜」と漢字で書いて、ふりがなを振ったほうが、わかりやすい。
私の表記基準。非自立語、接続詞、副詞、感嘆詞などは、できるだけひらがなで書く。ひらがなで書いても、意味が通じる和語動詞(訓読み動詞)」は、ひらがなで書くことを優先する。
「かく」は「書く」「掻く」「欠く」などがあり、「よんでいる」は「読んでいる」「詠んでいる」「呼んでいる」などと、まぎらわしいので漢字で書くが、「労る→いたわる」「捧げる→ささげる」「傾げる→かしげる」など、ひらがなで書いても他の語とまちがえることが少ない動詞は、ひらがな書き優先。
常用漢字外の熟語にはできるかぎり、ふりがなをつける。という方針で、表記していこうと思っている。
最後に、もう一度、確認を。
「個人の表現は、他者を傷つけない限り、どのような表現も自由」。
漢字とかな表記、「基準はあるけれど、基準だけを墨守する必要はない。要するに誤解を生むことなく、自分の表現したいことが、的確に伝わること」、これができればよいのだから。
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20190725
漢字とひらがなカタカナの混ぜ具合、文章の内容にもよりますが、文体によって印象が変わります。みなさま、それぞれのお好みで漢字表記をお使いください。
<つづく>