20200218
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>最後の授業(1)教員養成コース最後の発表会
1988年に第1回日本語教育能力検定試験に合格して日本語教師として仕事を始めて以来、32年。1988-1993は都内の日本語学校で、1994年からは大学の留学生センターなどで留学生に日本語を教える仕事、2000年からは私立大学文学部で日本語教育研究という授業も受け持つようになり、こちらは20年続けてきました。
私立大学の出講も70歳の誕生日を過ぎた3月で終了になります。
20年間に日本語教育研究と言う科目を受講した学生のうち、実際に日本語教師になった学生はそうは多くなかったと思いますが、私は、日本語教育を学ぶことでよりよい日本語の使い手になり、仕事に生かせればよいし、教育という仕事を学ぶことは、必ず人生の糧になると信じて毎週の授業を実施してきました。
20年前にアクティブラーニングという方法で授業を始めたころは、まだそのような授業手法が普及していないころでしたから、とまどう学生もいたし、「私はきちんと教科書どおりにすすめていく授業がいい」と、はっきり批判的なアンケートコメントを残した学生もいました。
教師は学生に「こんなことを考えよう、こんなことをやってみよう」と投げかけ、学生は自分自身で主体的に思考し、答えを導き出す。
教師が「世界に数千、3000言語から7000言語があると言われています」と教科書に書かれていることを学生に教えるのではなく、1)世界に国はいくつあるか。2)世界で日常的に使用されている言語はいくつくらいあるか。3)世界で使われている言語は何言語か。4)日本語はメジャーな言語か、マイナーな言語か
などの質問を投げかけ、ペアやグループで答えを考えさせて、世界と言語に分け入るほうが、ずっと印象深い学びになると信じて20年間続けてきました。
多くの国が公用語に採用している英語や、世界人口の5分の1、14億~15億人が話しているという中国語に比べて、日本語をマイナーと感じている学生が多く1億2千万人の母語話者がいる日本語は、世界のなかでは10位の話者数が多い言語なのだと知ると、「すごいマイナーな言語だと思っていた」と感想を述べる学生がほとんどでした。
他国に話者がおらず、国内だけの使用にとどまっているためにマイナーだと感じるのです。
また、世界のなかで、日本語はむずかしいか、やさしいかと問うと、みな「日本語は世界の人にとって難しいだろう」と考えます。
しかし、モンゴル語や朝鮮韓国語のように日本語とことばの並べ方(文法)が同じ言語の人々に日本語文法は難しくないし、スワヒリ語やイタリア語のように、子音+母音の開音節の発音で母音が5つだと、日本語の発音は難しくない。英語の話者のように、文法も発音も異なる言語の人にとって、難しい面もあるとして、日本語の構造は世界の言語の中では単純で、覚えるのに難しくはないのだ、教え方次第だ、と日本語教師としての自覚に導きます。
日本語が難しいのは、漢字ひらがなカタカナアルファベットを使い分ける表記方法。だから、非漢字圏の学生への漢字教育が成功すれば、あとはそれほど難しくはない。
そんなことから日本語教育概論を4月にはじめ、日本語教授法を同時に教えていきます。耳からの情報が多くなる英語では音声教育を徹底するけれど、日本語は文字教育も同時進行のほうが、語彙が入りやすいので、必ずしも英語教育で発達した教授法ではなく、日本語教育独自の教授法を開発している方が学びの効果がある、ということなどを講義し、9月からは、教材教具研究を行いながらl実践的に授業を学生自身が経験していきます。
今年度は、10月末と11月はじめ、大学祭休暇の1週間に、勤務する日本語学校で就学生相手に日本語初級の模擬授業を体験する、1月に「中級レベルの学生に日本文化を教える」という授業を実践しました。
現在勤務している日本語学校の在学生は、みな中国の大学既卒者で大学院入学をめざしています。模擬授業を行う大学生は3年生2年生ですから、日本語を教わる学生の方が、日本語の先生役の学生より年上です。
しかし、とても礼儀正しく熱心に学ぶ日本語学生なので、日本人学生の授業を楽しんで受講してくれました。
日本語のオノマトペ紹介、日本語の歌をいっしょに歌おう、日本語の演芸文化、大道芸紹介など、日本人学生発表の授業はパワーポイントスライドも工夫されていて、よい発表になり、龍谷人学生もいっしょうけんめい発表に耳を傾けました。
オノマトペの紹介のあと、スライドの絵をみながら「のしのし歩く」「ちょこちょこ歩く」「すたすた歩く」どう違いのか理解したりという、日本語の細かい表現を知ることができました。
大道芸紹介では、ボールのお手玉、ディアボロなどの実演に引き続き、中国人がジャグリングを体験するコーナーありました。
日ごろ学校と寮の往復で日本人と会話をする機会が少ない中国人学生にとっては、日本人の若者と会話するよい機会を作ったつもりでしたが、やはり積極的な学生と内気で「日本語がへただから」と、あまり話せなかった学生がいたのは仕方ないことですが、交流授業を最後に持つことができたことは、日本語教育を学ぶ日本人学生にとっても、よいチャンスでした。
日本語教師になりたい、という学生もいるので、これからの学びに期待したいです。
3月末までは籍はありますが、実際には1月末に成績をつけたら、20年間の「日本語教育研究」講義はおひらき。
最後の受け持ち学生が、ほんとうに熱心でよい学生だったことで、私も気持ちよく日本語教育講座を終えることができました。
春庭の日本語教育研究を受講した日本語教師養成コースの学生たち、若者言葉を教えてくれたり、さまざまな気づきをくれた日々に感謝します。ありがとうございました。
<おわり>
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>最後の授業(1)教員養成コース最後の発表会
1988年に第1回日本語教育能力検定試験に合格して日本語教師として仕事を始めて以来、32年。1988-1993は都内の日本語学校で、1994年からは大学の留学生センターなどで留学生に日本語を教える仕事、2000年からは私立大学文学部で日本語教育研究という授業も受け持つようになり、こちらは20年続けてきました。
私立大学の出講も70歳の誕生日を過ぎた3月で終了になります。
20年間に日本語教育研究と言う科目を受講した学生のうち、実際に日本語教師になった学生はそうは多くなかったと思いますが、私は、日本語教育を学ぶことでよりよい日本語の使い手になり、仕事に生かせればよいし、教育という仕事を学ぶことは、必ず人生の糧になると信じて毎週の授業を実施してきました。
20年前にアクティブラーニングという方法で授業を始めたころは、まだそのような授業手法が普及していないころでしたから、とまどう学生もいたし、「私はきちんと教科書どおりにすすめていく授業がいい」と、はっきり批判的なアンケートコメントを残した学生もいました。
教師は学生に「こんなことを考えよう、こんなことをやってみよう」と投げかけ、学生は自分自身で主体的に思考し、答えを導き出す。
教師が「世界に数千、3000言語から7000言語があると言われています」と教科書に書かれていることを学生に教えるのではなく、1)世界に国はいくつあるか。2)世界で日常的に使用されている言語はいくつくらいあるか。3)世界で使われている言語は何言語か。4)日本語はメジャーな言語か、マイナーな言語か
などの質問を投げかけ、ペアやグループで答えを考えさせて、世界と言語に分け入るほうが、ずっと印象深い学びになると信じて20年間続けてきました。
多くの国が公用語に採用している英語や、世界人口の5分の1、14億~15億人が話しているという中国語に比べて、日本語をマイナーと感じている学生が多く1億2千万人の母語話者がいる日本語は、世界のなかでは10位の話者数が多い言語なのだと知ると、「すごいマイナーな言語だと思っていた」と感想を述べる学生がほとんどでした。
他国に話者がおらず、国内だけの使用にとどまっているためにマイナーだと感じるのです。
また、世界のなかで、日本語はむずかしいか、やさしいかと問うと、みな「日本語は世界の人にとって難しいだろう」と考えます。
しかし、モンゴル語や朝鮮韓国語のように日本語とことばの並べ方(文法)が同じ言語の人々に日本語文法は難しくないし、スワヒリ語やイタリア語のように、子音+母音の開音節の発音で母音が5つだと、日本語の発音は難しくない。英語の話者のように、文法も発音も異なる言語の人にとって、難しい面もあるとして、日本語の構造は世界の言語の中では単純で、覚えるのに難しくはないのだ、教え方次第だ、と日本語教師としての自覚に導きます。
日本語が難しいのは、漢字ひらがなカタカナアルファベットを使い分ける表記方法。だから、非漢字圏の学生への漢字教育が成功すれば、あとはそれほど難しくはない。
そんなことから日本語教育概論を4月にはじめ、日本語教授法を同時に教えていきます。耳からの情報が多くなる英語では音声教育を徹底するけれど、日本語は文字教育も同時進行のほうが、語彙が入りやすいので、必ずしも英語教育で発達した教授法ではなく、日本語教育独自の教授法を開発している方が学びの効果がある、ということなどを講義し、9月からは、教材教具研究を行いながらl実践的に授業を学生自身が経験していきます。
今年度は、10月末と11月はじめ、大学祭休暇の1週間に、勤務する日本語学校で就学生相手に日本語初級の模擬授業を体験する、1月に「中級レベルの学生に日本文化を教える」という授業を実践しました。
現在勤務している日本語学校の在学生は、みな中国の大学既卒者で大学院入学をめざしています。模擬授業を行う大学生は3年生2年生ですから、日本語を教わる学生の方が、日本語の先生役の学生より年上です。
しかし、とても礼儀正しく熱心に学ぶ日本語学生なので、日本人学生の授業を楽しんで受講してくれました。
日本語のオノマトペ紹介、日本語の歌をいっしょに歌おう、日本語の演芸文化、大道芸紹介など、日本人学生発表の授業はパワーポイントスライドも工夫されていて、よい発表になり、龍谷人学生もいっしょうけんめい発表に耳を傾けました。
オノマトペの紹介のあと、スライドの絵をみながら「のしのし歩く」「ちょこちょこ歩く」「すたすた歩く」どう違いのか理解したりという、日本語の細かい表現を知ることができました。
大道芸紹介では、ボールのお手玉、ディアボロなどの実演に引き続き、中国人がジャグリングを体験するコーナーありました。
日ごろ学校と寮の往復で日本人と会話をする機会が少ない中国人学生にとっては、日本人の若者と会話するよい機会を作ったつもりでしたが、やはり積極的な学生と内気で「日本語がへただから」と、あまり話せなかった学生がいたのは仕方ないことですが、交流授業を最後に持つことができたことは、日本語教育を学ぶ日本人学生にとっても、よいチャンスでした。
日本語教師になりたい、という学生もいるので、これからの学びに期待したいです。
3月末までは籍はありますが、実際には1月末に成績をつけたら、20年間の「日本語教育研究」講義はおひらき。
最後の受け持ち学生が、ほんとうに熱心でよい学生だったことで、私も気持ちよく日本語教育講座を終えることができました。
春庭の日本語教育研究を受講した日本語教師養成コースの学生たち、若者言葉を教えてくれたり、さまざまな気づきをくれた日々に感謝します。ありがとうございました。
<おわり>