春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「学期末成績評価」

2020-02-09 00:00:01 | エッセイ、コラム
20200215
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録・日本語教師日誌(6)学期末成績評価
 
 春庭、70歳過ぎた3月末で退職という規定により、私立大学の日本語教育研究という授業、めでたく卒業となりました。2000年から続けてきた日本語教師養成講座の受け持ちが終了となり、ちょっと寂しくもありますが、無事講座を続けられたのもまじめな学生たちのおかげ、かぜをひいたくらいの病気のほかは大病をせず、擦り切れながらも持ちこたえてきた体力のおかげ。膝が痛いとか肩がこるとかの老化は仕方ないことですが。
 最後の学生たちには、これまで以上によい成績を大盤振る舞いして、おひらきとしました。

 春庭の日本語教室だよりを再録しています。
~~~~~~~~~

2006/02/02 木
ニッポニアニッポン語教師日誌>学期末成績評価

 国立A大学留学生クラスの成績、つけ終わりました。やれやれ、ふぅ。
 学部交換留学生の成績、日本でとった単位が自国の大学の単位にふりかえられる。成績次第で次年度の奨学金に影響するという学生にとって、成績は大問題。

 スエーデンやドイツからの留学生、自国では大学の入学金授業料はいっさい無料の制度ですが、成績によっては進級できずに留年となるから、やはり成績の問題は大きい。

 日本語口頭表現(会話)の評価。
 学生でペアを組む。二人でトピック(テーマ)を決めて、相互インタビューを2分ずつ。他の学生から質問を受ける。質問への受け答えを2分ずつ。という各ペア10分程度の会話をテープにとり、発音文法語彙、談話(ディスコース)能力、流暢さなどの観点から評価します。

 ネパール女性ボリビア女性のペアは、互いの国の地理と観光がテーマ。エベレスト山とチチカカ湖について紹介し質問しあいました。
 ドイツ男性とタイ男性のペアは、専門の研究について。どうして自動車工学をめざすようになったのか、電子工学の難しいところはどんなことか。

 オーストラリア女性とスエーデン男性は、長期ホームステイの功罪について。日本語力は確実に伸び、家族と楽しい時間をすごせるが、門限が10時など、家族のルールを守らなければならないのはたいへん、など、抜群の語彙力で流暢に話しました。
 合気道サークルに入っているアメリカ男性と、ロックバンドでベースギターを受け持っている韓国男性ペア。互いの趣味について冗談をいれたりしながら、紹介しあいました。

 各ペア、私からの質問にもうまく答えられて、中級会話力を十分に評価できる内容でした。

 私立B大学の留学生成績、私立C大学日本人学生成績、どちらも評価が終わっていません。悩みながら優良可の評価を検討中。
 試験の点数だけで成績をつけるのではなく、普段の授業参加を重視する、とも言ってきたので、皆熱心に発表を行い、グループ活動も積極的にしています。さて、どう評価するか。
 私としては、全員に「優」でいいと思うのだが、大学側は、「優」は在籍学生数の何パーセント、良は何パーセントなど、差をつけるよう求めてくる。みんな真面目な学生なので悩んでしまいます。

 積極的に授業内の活動に参加してきた学生であるなら、テストの成績が悪いというだけで不可にしたことはありません。
 発表などの授業中活動をちゃんとしていれば不可にしませんよ、と学生にも説明しているのだけれど、中には単位がもらえるかどうか、心配でたまらないと言う学生もいます。

 日本事情のクラスで、他の学生に比べて日本語が上達していないアリさん。他の学生はフリガナ無しのテスト問題。アリさんにはフリガナ付きのテスト問題を配布しました。
 しかし、日本史のテスト、他の学生が楽々こなした問題に、彼はひとりミスを重ねました。
 
 「明治時代、政府がめざしたことのひとつ。選択肢の中から正しいものを選びなさい」という三択問題。A:国際興業(こくさいこうぎょう) B:殖産興業(しょくさんこうぎょう) C:吉本興業(よしもとこうぎょう)

 Aは、大学近辺を走っているバス路線を持つ会社の名前。(かってロッキード事件にかかわった小佐野賢治が社主をしていた会社)
 Cは、留学生達も話題にすることがある、大阪の芸能の会社。

 サービス問題のつもりだったのですが、他の学生が「吉本興業」の部分を読んでクスリと笑ったりしている中、彼の答えはA:国際興業、でした。
 明治政府は外交を重視していたので、「国際」が重要だろうと思った、とアリは弁解しました。

 仲良しの学生がテキストの明治時代のページを開いて、ほら、ここに「殖産興業の説明書いてあるよ」
 まちがえたのは自分ひとりらしいとわかって、アリはしおれています。
 
<つづく>

2006/02/03 金
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(8)成績心配メール

 漢字が苦手なアリ、町へ出ても、いつもアルファベットでの表記をたよってしまいます。
 そうするとバスの横に書いてある「国際興業」という文字が目に入らない。国際興業はバス会社の名前だ、という他の学生が皆知っている「日本事情」に気づかない。
 漢字は、日本の社会を理解するのに欠かせない情報なのです。

 教科書に出ている語句、明治時代のページには、「殖産興業」「文明開化」「憲法発布」などのことばが並んでいます。
 教科書にある地租改正Land Tax Reform 文明開化civilization and enlighterment 自由民権運動freedom and people's rights movemennt、など、語句の内容を理解することも必要です。

 しかし、歴史上の語句を丸暗記することだけが、「日本事情」授業の目的ではありません。日本社会文化全体に目を配ってほしいのです。
 吉本興業という文字を見て、若者に人気の芸能のマネジメントをする会社、と知ることも、現代日本の大衆文化を理解していくきっかけのひとつです。

 「来来軒」の文字を見たら、そこが寿司屋ではなく、中華料理店やラーメン屋であるだろうと推測し、「工事中につき頭上注意」の看板を見かけたら、上から何か落っこちてくるかも知れない、と気づくことも「日本事情」の目的。

 アリさんは、日本史の勉強でも、英文の「Japanese History」などを読んでいるからだいじょうぶ、と考えてしまうことが問題。
 英文で「日本の歴史」を読み頭に入れただけでは、日本社会全体を理解したことにはならないことに気づいてくれるといいのですが。

 学部留学生日本事情の試験実施の日、「点数が足りず、追試験をしなければならない場合、12月31日までに連絡するから、帰国する予定のある人は前もって連絡先を書いておくこと。31日までに連絡がなかった人、とりあえず合格、不可ではないので、安心してください」と学生達に言っておきました。

 試験の解答用紙が埋められなかったことを気にしていたアリさんがメールをよこしました。

 アリさんからのメール。
「 先生、いつも私に助けてくれてありがとうございます。
  試験の成績はとても心配ので先生にメールで送りますs。日本語の試験の成績は合格しますか。もし不合格ので私に言っていただきますか。一月の試験の日や時間や教室など教えていただきます。お願いいたします。アリ(2005/12/30 19:04)

 このメール文だけで採点したなら、とても合格にするわけにはいかない。アリは、クラスで一番日本語の力が弱い学生です。
 しかし、漢字に強い中国人学生や日本語と語順が同じ韓国語の学生の中にまじって、彼はいっしょうけんめい努力を続け、漢字もずいぶん読めるようになってきました。

 31日までに連絡すると言っておいたのに、心配で心配で、12月30日に問い合わせのメールを発信してきました。

 返信は31日をすぎてから。不可の場合に31日までに連絡と言ったので、合格の連絡は1月1日になってから送信しました。

<つづく>

2006/02/04 土
ニッポニアニッポン語教師日誌>学生からのメール(9)新年快楽!!祝!立春

 アリさんへ、教師からの返信
「 新年おめでとうございます。そして、日本事情、日本語作文の成績、合格点獲得おめでとうございます。
 試験前に、学生に伝えたように、2005年12月31日までにメール、電話などで連絡のなかった学生は、合格です。
 今、2006年1月1日になりましたから、不合格の連絡がなかったアりさんは、合格というわけです。12月31日まで心配させてしまいましたね。

 日本事情、日本語作文は、テストの点数だけで成績をつけるのではありません。作文をきちんと提出したこと、「日本の文化」「日本と自国との交流史」の発表を積極的に行ったことなど総合してつけます。アリさんは、作文もいっしょうけんめい書き、発表もしっかりやりましたから、合格です。

 もちろん、アりさんは漢字の力がまだ足りないし、日本史の知識も不足しています。あと2年間いっしょうけんめい勉強して、必ずお国のために、立派な日本語の先生になってくださいね。では、2006年がアりさんにとって、すばらしい1年になりますように。(2006/01/01 00:04)」

 アリは、2年後に国に帰ったあと、すぐ日本語教師として教壇にたつ。公立校日本語教師のポストがすでに用意されている、恵まれた立場の「政府派遣留学生」である。自国政府からの奨学金をもらって勉強するのだから、祖国の期待にこたえるだけの学習はしなければならない。

 他の学生に比べて、日本語力が不足している面もあるのだけれど、努力に免じて、大まけの合格点をあげましょう。

 学生たち、1月中の試験やレポート提出をこなし、春休みはアルバイトや旅行、帰省で忙しくなります。
 試験終了祝いと兼ねて、中国韓国の学生たちは、集まって「新年祝い」のパーティをひらく。1月29日は、太陰暦(旧暦・農暦)の元旦です。

 新年快楽!!中国や韓国などでは、新暦の元旦より、こちらの旧暦新年を盛大に祝います。家族親族が集まって、ごちそうを食べ、友達も旧交を温めます。
 中国や韓国の留学生たち、日本人の友達や先生には、新暦でごあいさつ、そして旧暦正月は、家族や国の友達と楽しいひとときをすごします。

 新暦正月、メールタイトルが「あけましておめでとう」、差出人のなまえが「? ??」というメールが届きました。一瞬あやしいメールかと思ったけれど、添付もないので開けてみました。

「 先生、昨年は大変お世話になりました。
ハガキではなく、ネットで挨拶をすること、お許しください。
今年からは授業が聞けなくなって残念ですが、先生の教えだけはちゃんと心にしまっておきます。
くれぐれもお体に気をつけてください。
それでは先生にとって素敵な一年になりますように。。」


<つづく>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする