外国人の漢字学習の認知心理学的諸問題
ー問題の整理と漢字指導法への展開ー
1 本稿のねらい
外国語の指導法については、特に英語のそれについては、数多くの効果的な方法がすでに開発されている。
そのいくつかは、日本語を外国語として学ぶ外国人に対する指導法としても援用できるし、事実、これまでつかわれてきた。しかし、世界の文字体系の中で独特の位置を占める漢字については、そうした方法の援用だけでは、指導の効果は期待できない。なんらかの独自の指導法を開発することが焦眉の急となっている。そのためには、外国人の漢字学習の認知メカニズムを明らかにして、それを踏まえた指導法を開発する必要がある。そこで、本稿では、外国人に対する漢字指導を射程においた、漢字学習の認知心理学的な諸問題を網羅的に取り上げ論じてみる。
ところで、成人の外国語の学習には、次のような特徴がある。
・ 母国語の原語活動に必要な認知系の機能、および言語知識は、十全に準備されている。この点で、子供の母国語の原語学習とは著しく異なる。かくして、子供の言語学習の知見は、ここではあまり役立たない。
・ しかし、外国語の学習にあたっては、母国語に関して習得した機能と知識を援用して行われる。ここでは、学習の転移が深くかかわってくる。
・ 熟達するにつれて、ほぼ独立した二つの言語システムが併存するようになる。ここでは、同時通訳者が行っているであろうような異なる言語システム間の変換の問題がかかわってくる。
こうした特徴を踏まえた上で、外国人の漢字学習の認知メカニズムについて議論していく。学習者の認知過程への配慮を欠いた指導法は、学習者に多大の認知的な負荷を課すことになり、結局は、非効率的なものとなってしまうからである。
ー問題の整理と漢字指導法への展開ー
1 本稿のねらい
外国語の指導法については、特に英語のそれについては、数多くの効果的な方法がすでに開発されている。
そのいくつかは、日本語を外国語として学ぶ外国人に対する指導法としても援用できるし、事実、これまでつかわれてきた。しかし、世界の文字体系の中で独特の位置を占める漢字については、そうした方法の援用だけでは、指導の効果は期待できない。なんらかの独自の指導法を開発することが焦眉の急となっている。そのためには、外国人の漢字学習の認知メカニズムを明らかにして、それを踏まえた指導法を開発する必要がある。そこで、本稿では、外国人に対する漢字指導を射程においた、漢字学習の認知心理学的な諸問題を網羅的に取り上げ論じてみる。
ところで、成人の外国語の学習には、次のような特徴がある。
・ 母国語の原語活動に必要な認知系の機能、および言語知識は、十全に準備されている。この点で、子供の母国語の原語学習とは著しく異なる。かくして、子供の言語学習の知見は、ここではあまり役立たない。
・ しかし、外国語の学習にあたっては、母国語に関して習得した機能と知識を援用して行われる。ここでは、学習の転移が深くかかわってくる。
・ 熟達するにつれて、ほぼ独立した二つの言語システムが併存するようになる。ここでは、同時通訳者が行っているであろうような異なる言語システム間の変換の問題がかかわってくる。
こうした特徴を踏まえた上で、外国人の漢字学習の認知メカニズムについて議論していく。学習者の認知過程への配慮を欠いた指導法は、学習者に多大の認知的な負荷を課すことになり、結局は、非効率的なものとなってしまうからである。