2003年に、厚生労働省がおこなった日本の企業へのアンケート結果によると、新入社員に期待する能力は、一番がコミュニケーション力でした。
大学で演習の授業をしていると、この結果は、納得がいきます。くどいほど、疑問や意見を口に出すように言わないと、学生は貝のごとく、口を閉じたままですから。もっともこれは、コミュニケーション力以前の問題ですが。
ただ、学生にも同情すべき点があります。15年間も、学校という場でのコミュニケーションに慣れ親しんできています。授業という場での沈黙も、それはそれで素直に先生の話を効けるということならば、コミュニケーション力の一つです。それを、就職したとたん、職場コミュニケーションがうまくできないから、といってとやかく言ってもはじまりません。
もう一つ、おもしろいデータを紹介しておきます。 日本の大学生に723名に「社会での頭が良い」とはどういうことから尋ねると、次のような項目を挙げます(石田・藤永による)。
・話し上手 ・積極的 ・皆の話しをうまくまとめる ・話題が豊富 ・リーダーシップがある ・臨機応変 ・決断力がある
「リーダーシップがある」「決断力がある」以外は、コミュニケーション力に関係しているのがわかります。学生も、コミュニケーション力の大切さをよく知っているのです。ただ、それの身につけ方、発揮の仕方を知らないということだと思います。本書はそんな大学生にも、役立つようにと思ってかかれました。
さて、コミュニケーションは、その場にふさわしいものであることが大事です。そこで、本書では、コミュニケーションが重要視されるビジネス現場の「場」として、「接客」「営業」「企画プレゼン」「会議」「会話」「電子メール」を想定してみました。
そして、それぞれの場で、最適なコミュニケーションをするための指針やスキル(技能)を心理学の立場から考えてみました。
コミュニケーションには、はからずも自分が出てしまうようなところと、舞台(場)で演技するようなところとがあります。前者が自己表現としてのコミュニケーション、後者がスキルとしてのコミュニケーションです。 本書では、もっぱら後者のほうに重点を置くことになりますが、「自己と一体になったコミュニケーション・スキル」を身につけるのが理想であることは、言うまでもありません。それに少しでも近づけるために、本書がお役に立てれば幸いです。
平成16年8月末日