事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「北京から来た男」(上・下) ヘニング・マンケル著 創元推理文庫

2017-02-22 | ミステリ

スウェーデンの寒村。老人だけが住む過疎の村で、18人の老人と少年がひとり惨殺される。少年以外は、まるで処刑されるように……

八つ墓村」の32人には及ばないが、壮絶なオープニング。なぜ老い先短い、共通点がないかのような老人たちが殺されたか。そしてなぜ特定の村人は殺されなかったのか。

捜査にあたるのは有能な女性警官。別の方面から事件に関わるのは女性裁判官。このふたりは実に味がある。特に裁判官の方はわたしと同い年という設定で、夫との関係が……ま、いいですそこは。

北欧ミステリの巨匠、ヘニング・マンケルを初めて読む。タイトルは英語版からとって「北京から来た男」だけれど、原題ははっきりと「中国人」。横溝正史ばりの事件は、次第に中国の近現代史の闇に集約されていく。

いきなりだけど、昔「燃えよ!カンフー」というアメリカ製テレビドラマがオンエアされていたのを見たことはないですか。デビッド・キャラダイン演ずる米中のハーフの僧が少林寺拳法の達人で、彼が西部を放浪するという思いきり無理のある設定。

このドラマにはたくさんの弁髪をした中国人が出てくる。どうして清代末のアメリカ西部にこんなに中国人がいたか、この作品を読んで理解できました。拉致です。食いつめた中国人をはるか彼方のアメリカに運ぶ、その描写が凄い。そして彼らは大陸横断鉄道の建設に駆り出され、簡単に使い捨てにされる……

この、清代末と現代が交差する局面で起きたのが最初の殺人。スウェーデン人にとっても、中国の闇は決して無縁のものではなく、それどころか女性裁判官たちは若いころに毛沢東語録を手に革命を語っていたことがドラマを深いものにしている。

マンケルは左翼の人だから毛沢東を断罪はしない。中国共産党が奴隷的な生活から多くの人を救ったのは確かだと。しかし彼の壮絶な失敗(文化大革命)についても冷静に語っていて、お恥ずかしいことながら東洋人として勉強になった。中国がアフリカに投資する背景に何があるのか、新たな植民政策ではないのか、と告発する書でもある。

あ、事件の方は途中からあまり関係なくなってきます(笑)。しかし2015年に亡くなったマンケルの気合いが伝わる入魂の書。

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