渋滞の高速。一台一台のカーステレオが、いかにもそのドライバーが好きそうな音楽を流している。ひとりの女性が我慢できずにドアを開け、路上で踊り始める。呼応して、まわりのみんなが微笑みながら壮大な群舞を……ここまでを長回し一発撮り。この時点で、「ラ・ラ・ランド」の“勝ち”だ。観客のわたしはノックアウトをくらいました。
近ごろめずらしく長大な画面サイズ。なつかしのシネマスコープであることを大々的に宣言したこの映画は、エンディングでハリウッド製であることも強調する。
カタカナで書くとわかりにくいが、原題はLA LA LAND。つまり、映画製作のメッカであるハリウッドに代表されるロサンゼルス=LAのお話。いかにも嘘っぽいセットで展開される苦いラブストーリー。逆に言うと、シリアスなお話を虚飾でコーティングして心浮き立つミュージカルに仕立ててある。
ジャズを愛するがゆえに業界でうまく立ち回ることができず、部屋にビル・エバンスのポートレイトを貼り、ホーギー・カーマイケルがすわった椅子を後生大事にすえるピアニスト。なんと演ずるのは「ドライヴ」で寡黙な“逃げ屋”だったライアン・ゴズリング。彼は、オーディションに落ちてばかりの女優志願のウェイトレス(エマ・ストーン)と恋に落ちるが……
通俗なストーリーではあるけれど、ジャズがやりたいのにロックバンドで食べて行かざるをえず、苦い顔でa-haの「テイク・オン・ミー」(この曲のMTVが、日常にうんざりしている若い女性をコミックの世界に誘う設定なのは偶然ではないはず)をプレイしている設定や、「理由なき反抗」のジェームス・ディーンなめのヒロインの立ち姿、クルマのリモコンキーの音でリズムをきざむ工夫など、センスのかたまりのような映画だった。もちろん、楽曲のすばらしさがなにより強いのだが。
監督はおととしのワーストにわたしが選んだ「セッション」のデイミアン・チャゼル。まだ31才の彼は、前作で音楽に対する愛憎にけりをつけ、頭でこねくりまわすのではなく、エモーションで語る覚悟ができたのだろう。「セッション」を経過したからこその傑作なのかもしれない。映画館で観なければ意味をなさない作品ですよ。急げ!