ふたりの映画監督の評伝を読む。どちらも巨匠でなど絶対にないが、しかし全盛期には日本映画界を席巻したふたりだ。
まずは「鬼才・五社英雄の生涯」。若き映画史研究家、春日太一が五社の娘(週刊誌の記者をしている)からアプローチされ、毀誉褒貶の激しかった彼の足跡をたどっている。
まず、この人はひたすら無茶だ。フジテレビで「三匹の侍」を大ヒットさせ、映画界に進出。「御用金」で三船敏郎と仲代達矢がケンカして三船が降板する(黒澤明の悪口を三船が言ったので仲代が怒ったらしい)トラブルがありつつ、松竹で「雲霧仁左衛門」など、時代劇大作を連発。ところが銃刀法違反で逮捕され、全身に刺青を彫り、すべてを失った彼の復帰作が「鬼龍院花子の生涯」で……と波乱万丈。
しかしこの書で語られないことの方がわたしは重要だと思った。
彼は生涯にわたってテレビ出身の監督であることにコンプレックスを持っていたとおぼしい。はっきりとは書かれないけれども、黒澤明を壮絶に意識していたこともうかがえる。評論家たちからはほとんど無視され(キネ旬ベストテンに彼の作品がランクインしたことは一度もない)、だからこそむき出しの娯楽志向をさらに強めた。
心の奥では怒りや怯えが交錯していたはず。盟友の丹波哲郎が語っていたように、自殺衝動と常に闘っていたのだろう。
この本の成り立ちから、家庭や女性関係があまり描かれないのは仕方がない。奥さんが大借金をこしらえて出奔した事情や、松尾嘉代との関係は実はどうだったのかなど、知りたいことはたくさんあったのだが。こちらは、いずれ別の人が描いてくれるのを期待するしかないかな。
村川透篇につづく。