「巨人の力を持つのはすばらしい……しかしその力を巨人のように使うのは暴虐だ」
聞いてるかトランプ。
シェイクスピアの至言からスタートするこの探偵映画は、誰でも気づくようにあの「チャイナタウン」と相似をなしている。
男性が帽子をかぶり(帽子屋のディスプレイが何度も映される)、みんな盛大にどこでもたばこを吸っていた時代。
探偵事務所に助手として勤務するライオネル(エドワード・ノートン)は、ボスであるフランク(ブルース・ウィリス)の「自分を乗せた車を追え」の指示を守り、急追する。しかし、ほんのわずかなすきにフランクは撃たれてしまう。彼が遺した言葉は「フォルモサ」という意味不明なものだった。ライオネルは驚異的な記憶力を武器にニューヨークの闇に挑んでいく……
ニューヨークとロサンゼルスという違いはあれど、私立探偵が、ウィスキーをあおり、巨大な利権を背景にした犯罪を(図書館で記事を破るなどして)暴いていく。その犯罪の中心には邪悪なセックスがからんでいることまで共通。
しかし「チャイナタウン」のジャック・ニコルソンとエドワード・ノートンには大きな違いがある。
ニコルソンが警察を辞めた過去を背負ったオトナだったのに比べ、ノートンはまだ若く、自分を孤児院から救い出してくれたボスへの尊敬がモチベーションになっている。なにより、ライオネルはトゥレット症候群で、いきなり「イフ!」とか下品な言葉を叫んでしまうという障がいを持っているのだ。かっこいいヒーローになるのはきつい。
しかし見せる。脚本、監督、製作、主演を兼ねたエドワード・ノートンは、そんな奇矯な主人公を次第に魅力的に感じさせてくれる。
ジャズが物語の柱のひとつになっていて、クラブのシーンで、その素晴らしさにたまげた。すごいミュージシャンじゃないのこの人。メイキングを見たら吹いていたのはウィントン・マルサリスでした。現代最高のラッパ吹きまで起用するか。
ウィリアム・デフォー、アレック・ボールドウィンなど、いかにもなキャスティングもうれしい。そしてそして「母のいないブルックリン」というタイトルが泣かせる。ブルックリンとは、孤児院にいたライオネルにフランクがつけたあだ名。傑作です。