その1はこちら。
1940年。英米との関係が悪化の一途をたどっている時代。
おそらくは特高警察がイギリス商人を連行する場面から始まる。貿易商の福原優作(高橋一生)は商売相手である彼を救うが、妻の聡子(蒼井優)の幼なじみである憲兵、津森(東出昌大)は優作に警告する。彼らを相手にするのは控えた方がいいと。
優作は「もう行けなくなってしまうかもしれないから」と満州に向かう。気遣う聡子。そして、満州から帰ってきた彼は、何かが変わっていた……
うかつにストーリーは言えません。なぜなら「スパイの妻」というタイトルすら一種のひっかけになっているくらい。途中からは夫と妻の頭脳合戦の様相まで。
そんなやりとりを、黒沢清はお得意のホラー的演出で押しまくる。観客の身体はこわばり、見終えるとへとへとになる。
脚本は黒沢と、彼の教え子たちの共同。NHKがBS8Kでオンエアしたドラマの劇場版。それにしてはみごとなセットではないか……「いだてん」のセットをそのまま使ったのだとか(笑)。
蒼井優が複雑な役を力演。ラストの大芝居はおみごと。高橋一生は、得体の知れない感じがいい。妻は
「いい男ねえ」
と陶然としていました。ま、わたしも彼には(ちょっとだけ)負けてると思いました。
劇中に山中貞雄の「河内山宗俊」が挿入されているんだけど、これは戦病死した山中への黒沢からのリスペクトだろうか。それとも、この映画でブレイクすることになった原節子の存在に何かをシンボライズしたのだろうか。
そんなことも深読みしたくなる作品。頭使いますわ。ヴェネツィア映画祭監督賞受賞作品。