チャドウィック・ボーズマンの遺作、ということでいいのだろうか。
日本で映画が公開されたとき、すでにその主役が亡くなっていたという展開は、「燃えよ!ドラゴン」のブルース・リー、「エデンの東」のジェームス・ディーンを思い起こさせる。「ブラックパンサー」でトップスターに昇りつめたというのに……
この刑事アクション映画の撮影中に、すでに彼は大腸がんと闘っていたという。共演者にも知らせずに撮影を続けていた展開は松田優作か。
マンハッタン。
二人組がワイナリーに侵入する。コカイン30キロが保管されているという情報をもとに。しかし実際に保管されていたのは、純度の高いコカイン300キロだった。警官が現れ、銃撃戦開始。結果的に8人の警官が死亡し、2人組は逃亡。
そこで起用されたのがニューヨーク市警の殺人課刑事デイビス(ボーズマン)。亡くなった警官たちと、彼らの家族のためにも犯人を挙げてくれと分署長(J.K.シモンズ)はデイビスに懇願する。デイビスは有能ではあるが、自分の正義にこだわって発砲が多すぎると内務調査を受けている身だった。
「きみが正義を判断するな」
「バッジがしている」
デイビスがとった作戦は大掛かりだった。事件発生から3、4時間が勝負だと、マンハッタン島にある21の橋をすべて封鎖させたのである。レインボーブリッジひとつ封鎖するのに苦労していた警視庁湾岸署とはえらい違い。犯人たちは退役軍人で頭も切れる。頭脳勝負。そして犯人が、自分たちははめられたのではないかと気づき……
荒唐無稽さを排除したリアルなアクション。そして、てんこ盛りなストーリーでありながら99分におさめた編集もすばらしい。
そしてつくづくと“次のデンゼル・ワシントン”になるはずだった彼の早世が惜しまれる。