ジョン・デリンジャーをジョニー・デップが演じ、監督はマイケル・マン。これで期待するなという方がどうかしている。初日にかけつけました。
実在のアウトローであるデリンジャーは、わたしの世代ではウォーレン・オーツ(パイオニアのカーステ、ロンサム・カウボーイのCMが日本人にはおなじみか……あのCMは石上三登志という高名な映画評論家にして電通社員の作品なんですよ)主演のジョン・ミリアス初監督作品でおなじみ。「パブリック・エネミーズ」ではクリスチャン・ベイルが演じているGメン、メルヴィン・パーヴィスをベン・ジョンソンがしぶーく演じててそちらも必見です。
むさいオーツ版との違いは、ジョニー・デップが愛人にする女性にこんなセリフをかますことで歴然。
「おれが好きなのは、野球、映画、高い服、速い車、ウィスキー……そしてきみだ」
これはデップにしか語れませんて(笑)。そしてこれらが、すべてストーリーにからんでくる脚本が周到。
クローク係であるフランス人とネイティブ・アメリカンの混血女性を演じるのはマリオン・コティヤール。彼女がデリンジャーに心を奪われるのは、高級レストランでひとりだけ安物の服を着ていることへのコンプレックスをデリンジャーが蹴散らしたからだ。刑務所から脱走するデリンジャーが乗るのは保安官の私物のV8だし、映画好きのデリンジャーが最後に観るのは(実話らしいが)クラーク・ゲーブルの「男の世界」。死刑執行を前に悠然としているゲーブルを、デップが観客席から見つめるシーンは意味深だ。
FBIが形成されていく過程を描いた作品としても十分に面白い。帝王としてあの組織に君臨したフーヴァーが、議員から
「君自身は何人逮捕したのかね?」
と痛いところをつかれる描写は、本人が生きていたら激昂しただろう。逆に、デリンジャーのように州境を越える犯罪者の存在が連邦警察の出現を後押ししたのだと理解できるようになっている。
追う立場のパーヴィスの悩みも深い。無能な部下や嫉妬深いフーヴァーに苦しめられ、ベビーフェイス・ネルソンを射殺する際に一般人を犠牲にしてしまう。のちにそのことが彼を追いつめるのだけれど、ベイルの演技は例によって無機的(「ダークナイト」でも「ターミネーター4」でもそうだったじゃないですか)なのでどの程度苦悩しているのか感じとれないようになっている。っていうかそれが狙いなのかもちょっとよくわからない(笑)。
デリンジャーたちが孤立を深めるのは
「あいつらは“州から州へ(state to state)”だけどこっちは“全米(coast to coast)”だぞ」
と、シンジケートが判断したことも影響している。すでにデリンジャーは時代遅れの存在になりつつあったわけだ。
そんな背景はともかく、ジョニー・デップとクリスチャン・ベイルの激突だけでもお腹いっぱいになる。男二人の丁々発止に音楽をからめ、派手な銃撃戦で決めるマイケル・マンの演出はあいかわらず。魅力的な女優を使いながら、彼女の見せ場は失禁シーンだけってあたりもいつものマン。「ヒート」「マイアミ・バイス」「インサイダー」「コラテラル」……彼は同じ曲の変奏曲を常に奏でているみたい。
男がいつも帽子をかぶり、きちんとタイを結んでいた時代におけるアウトロー……ジョニー・デップが本気を出すとこれだけかっこいいかと中年男でもため息がでる。死に際のセリフまで(そしてそのひとことを観客に提示する手法まで)ひたすらスタイリッシュな映画。
こりゃあ諸君、デップのルックスに匹敵する自信のある人(いるのかよ)以外、妻や恋人に見せてはいけません。