双頭の、にはさまざまな意味が付与されている。あるタイプの双生児、ハリウッドと上海という遠く離れた、しかし混沌の二都市……ミステリではあのタイプの双生児はおなじみの設定。エラリー・クイーンにしても、江戸川乱歩にしても。皆川博子はそれを承知でぶつけてきたはずだ。
美貌の双生児は分離され、片方は跡取りとして、もう一方は異物として遇される。容貌は驚くほど似ている。
跡取りの方はしかし、ある事件(すでにラストへの伏線になっている)からハリウッドに渡り、映画監督となる。モデルは後書きで明かされているようにシュトロハイム。貴族の血にどうしてもあらがえないあたりは「大いなる幻影」を想起させ、映画ファンとしてうれしい。
もう一方は病院という閉じた世界で子ども時代をすごし、友人(ものすごく重要な存在)とともに戦場に向かう。跡取りであるかのように演じて。
貴族の高潔な、ヨーロッパ的精神の片側に、過剰なほど汚物、糞尿の描写がおかれる対比は計算ずくなのだろう。お互いが感応し合う双生児の物語がむやみに面白いため、しかしミステリにする必要があるのか……と思った瞬間にみごとな背負い投げ。そうきたかあ。
年末のベストはこれで決まりだろう。さて、志水辰夫とどちらをわたしは選ぼうか。
双頭のバビロン 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2012-04-21 |