第21章はこちら。
監督はリドリー・スコット。「ブレード・ランナー」「エイリアン」でおなじみ。
わたしは彼の「グラディエーター」が大好き。マルクス・アウレリウス(歴史知らずのわたしだって五賢帝のひとりだってことは承知しています)の後継を狙うコモドゥスによって家族を殺され、奴隷の身に落とされた将軍マキシマスのお話。剣闘士(グラディエーター)として復活するマキシマスの物語は、考えてみればエクソダスとよく似たストーリーだ。
マキシマスはラッセル・クロウが演じていたのでひたすらエネルギッシュだったが、こちらのモーゼはクリスチャン(無色透明)ベールなので、むしろうっすらとした懊悩が似合う。ところが、戦術家としても有能だったモーゼは、エジプトを攻めるにあたって
「人数が多いときは正攻法でいい。しかし人数が少ないときは別の戦い方がある」
と、なんと補給路を急襲する。モーゼ、あんたのやってることはテロじゃないか。
しかし上には上があるもので、モーゼが山で出会った神はもっと過激。
「お前は休んでろ」
と命じて自らがエジプトに天罰をくだす。これがかの有名な十の災厄と呼ばれるもの。
1. ナイル川の水を赤い血に変える。
2. 無数の蛙でエジプトの地を覆う(このシーンはマジで目をつぶってました)。
3. 塵が蚋(ブヨ)に変わり、エジプトの民や家畜に害を及ぼす。
4. 虻(アブ)の群れによる災害。
5. 牛馬への疫病。
6. 塵がエジプトの民や家畜に付き、膿み腫れを起こす。
7. 雹による災害
8. いなごによる災害
9. 暗闇の災害
10. 幼児虐殺
……だめでしょ神様ぁ。特に、最後の災厄=殺戮の天使のために、ヘブライ人たちは子羊の血を戸口に塗ることでその虐殺を逃れる。これが、いわゆる「過越しの祭」ってやつだ。ああまたお勉強になってしまった。以下次号。
第二十章「ノア 約束の舟」はこちら。
読者の社会科教師は夫婦で見て
「お~、ラムセスⅡ世か、ガナシュの戦い?戦車戦だ~。それにしてもテロまで……見方によればイスラムの狂信集団も同じかもねえ?」
と喜んでいる。なんだよモーゼのお話だったのか。っていうかエクソダスってタイトル(出エジプト)なんだから早く気づけよおれ(笑)。
モーゼとくれば「十戒」ですよね。チャールトン・ヘストン版(1956)でわたしにはおなじみ。あれ?お若い方にはどうなんだろう。
「『十戒』って知ってるよね。海が割れるヤツ。」
と飲み屋のお姉さんに確認。
「……お父さんがビデオ持ってました。」
あら。
「エクソダス」は、歴史好きか、その「十戒」を見た人なら何も解説しなくてもストーリーは知っているはず。あるいは、キリスト教徒。旧約聖書のお話ですからね。わたしは無宗教だし文学部出身だからいちおうおさらいしておくと……
時は紀元前13世紀。エジプトの王家で、王子のラムセスと兄弟同然に育てられた養子のモーゼは、出自がヘブライ人(ユダヤ人)であることで放逐される。放浪の果てにシナイ山のふもとで羊飼いの一族と合流し、妻もめとったモーゼは、神のお告げによってエジプトの圧政に苦しむヘブライ人たちを約束の地へと導くことになる。
脱出の過程で紅海が割れ、シナイ山にこもるモーゼのところへ炎が飛んで来て石に十の戒めが刻まれる……見たことあるでしょう?
ヘストンの十戒は見ていなくても、あなたはこれに関連した映画を観たことがあるんだよ。それは「レイダース/失われたアーク」。インディ・ジョーンズの最初の冒険においてお宝だったのが、十戒の石版をおさめた箱、それがアーク(聖櫃)だったんですよ。お勉強になりましたね。
今回のリドリー・スコット版は、おとぎ話に近いこの脱出劇を、かなりリアルな方向にひっぱったアレンジがなされている。ダーレン・アレノフスキーのノアにタッチは近い。以下次号。
「JAWS」の大ヒットで一躍ハリウッドのトップにのぼりつめたスピルバーグ。でもこの作品では(なにしろ題材が題材なので)不安もあったか、JAWSの方法論を徹底的に再利用している。
クルマの背後から灯りがふたつ。追い越したクルマのドライバーが「道路の真ん中で止まってんじゃないよ!」と激昂。またしても光がふたつ。今度はその光が上に!鮫とUFOの違いはあれど、稚気あふれる感じがうれしい。
おそらくはUFO文献を読み込んでつくりあげた脚本(書いたのはスピルバーグ自身)だろうが、フィラデルフィア・エクスペリメントとして有名なエピソードや、目撃者が日焼けするあたりのセレクトもうまい。
何度も見ているのでマザーシップの巨大さにはもう驚かないが、音階によってコミュニケイトするあたりも考えてあるなあ。「コンタクト」における素数とか、いろいろと考えますねえ科学者って。
この映画のしかし最大の美点は、俳優としてフランソワ・トリュフォーを起用したことだろう。彼が亡くなったいま、元気な姿は映画ファンにとっての珠玉のプレゼントになっている。ヒッチコックの手法がトリュフォーを経由してスピルバーグに継承されているとしたら、この映画はその意味でも歴史に残る。
万城目学は今回もまた直木賞をとれなかった。いや、西加奈子の受賞には文句ないんだけれど、「悟浄出立」が候補作のなかで最初にふるい落とされたあたりがどうもなあ。
これで5回も候補になっていて……でも万城目はまだいい。佐藤正午にいたっては、候補にすらなっていないんだよ。一度もですよ。
どういうことなんだろう。「永遠の1/2」ですばる文学賞をとって順調なデビュー。以来、「リボルバー」「恋を数えて」「個人教授」「Y」「ジャンプ」そしてあの「身の上話」など、傑作を連発しながら、しかし賞にはとんと縁がない。
その分、映像化では恵まれていて、映画史に残る傑作「リボルバー」(監督藤田敏八)や、NHKでドラマ化されるとは思いもしなかったが「書店員ミチルの身の上話」は最高だった。
賞には恵まれなくても世の中には“正午派”と呼ばれる彼のファンが数多くいて、この久しぶりの長篇を待っていたのである。わたしも待ってました。
この「鳩の撃退法」は、しかしなかなか一筋縄ではいかない。一家失踪事件を中心とした人物たちがまず登場。そこに、彼ら登場人物たちに起こったことは“こうだったかもしれない”と記述する作家があらわれ、彼自身も事件にからんでいく。
この小説家はもちろん佐藤自身がモデルになっていて(モデルの方は直木賞を二回とっています!わはは)、一人称と三人称が入り乱れ、時系列は激しく往復し、事件の真相への到達に上下巻が必要になったわけ。
とっつきは悪そうだけれど、しかしいつもの佐藤タッチは健在で、特に会話のおかしさには何度も吹き出した。こういう、淡彩なおかしみってのが直木賞に向かない理由なのかしら。万城目もそういえば、にじみ出るユーモアの人だしね。
とりあえずまたまた映画化希望。主役には……週刊現代で日本でいちばんうまい俳優にランキングされた堤真一が作家で、“あの男”には長谷川博巳でいかがでしょうか。
おととし亡くなった連城さんが(あとがきを編集者が書いていて泣かせる)、90年代後半に雑誌連載していた大長編。ここまで単行本化されなかったのはなぜだろう。
語り手の「私」は、戦後生まれなのに東京大空襲の記憶があり、それどころか南北朝、そして邪馬台国の時代まで……はたしてそれはなぜか。もんのすごい大風呂敷を広げ、これ、どう始末するつもりなのかと不安に思っていたらそうきたか。連城さんらしい、というよりも島田荘司みたい(笑)。
はたして邪馬台国とはどこにあり、どんな生活だったかは想像もできないので、きっとこの小説のとおりなのだろうとわたしは結論づけました。歴史好きはこの異形の作品をどう評価するのだろう。
邦画篇はこちら。
さあ今度は洋画編。キネ旬のベストテンはこうなっている。
(1)「ジャージー・ボーイズ」(米 WB クリント・イーストウッド)
(2)「6才のボクが、大人になるまで。」(米 Uni リチャード・リンクレイター)
(3)「罪の手ざわり」(中=日 ビターズ・エンド ジャ・ジャンクー)
(4)「エレニの帰郷」(ギリシャ=独=露=カナダ テオ・アンゲロブロス)
(5)「ブルージャスミン」(米 SONY ウディ・アレン)
(6)「インターステラー」(米=英 Par=WB クリストファー・ノーラン)
(7)「リアリティのダンス」(チリ=仏 アレハンドロ・ホドロフスキー)
(8)「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」(米=仏 CBS コーエン兄弟)
(9)「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(米 Par マーティン・スコセッシ)
(10) 「ラッシュ プライドと友情」(米=英 Uni ロン・ハワード)
……観てねー(泣)。これも言い訳させてもらえれば、庄内で公開されたのは「ブルージャスミン」「インターステラー」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「ラッシュ」だけじゃないか。トップのイーストウッド作品は山形のフォーラムで見るはずだったのに、会議が長引いてギブアップ。見たかったなあ。
うちの奥さんは「ブルージャスミン」と「グランド・ブダペスト・ホテル」をDVDで見ているようだ。新作もバリバリ借りる派なのでうらやましい。
「どうして新作を借りないの?考えてみれば安いものじゃない?」
うん、いや、それはまあそうなんだけど、なんかこだわりが……。
ここは鶴岡まちキネも気合いを入れて、DVD発売後であってもベストテン特集として上映してくれないかな。「罪の手ざわり」「ジャージー・ボーイズ」「6才のボクが、大人になるまで。」「リアリティのダンス」「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」なら、わたしはちゃーんとお金を払いますよ。ほんとよ。
ということでわたしのベストスリーは
(1)「インターステラー」
(3)「ハンナ・アーレント」
です。
2014年10月児童手当号「何かを忘れてる……」はこちら。
おかげさまで本校職員は、給料もボーナスも全員全額口座振込です(差額だけが現金になっている人がいて泣いた。泣いた泣いた)。児童手当についても全員全額。ありがたいことです。
もっとも、公務員は職場(教職員は教育事務所)経由で支給されるのですが、ふつうは市町村から口座に振り込まれます。現金受給は基本的にできないことになっている。
ところが、ある一部の人たちには、現金で受け取りませんかと役所の側から連絡が。それは
「保育料を払っていない人」
です。要するに保育園に子どもを通わせながら(あるいは過去に通わせていながら)保育料が未納滞納となっている人は、現金で受け取りませんか(そのままこっちで徴収するから)という“相談”を受けることに。
どこかで聞いたような話です。そう、実は学校集金、特に給食費の未納についても同様の措置が可能になっていて、実際に酒田市でやっている学校もあります。
未納の保護者が指定した時間に、市役所の窓口で三者(保護者、学校、子育て支援課、場合によっては教育委員会)が落ち合うことになる。ただ、この相談については保護者の同意を必ずとりつけなければならず、そんな同意をえられる保護者なら最初から集金を滞納したりは……(泣)
ということで本日のあなたの児童手当受給額は0,000円。ちゃんと口座に入っているはずです。
去年のわたしのベストワン日本映画は石井裕也(くっそー、満島ひかりの旦那です)の「ぼくたちの家族」。なかでも特筆ものなのが“ひきこもりの過去をもつ兄(妻夫木聡)と距離をおきながら、余命一週間と宣告された母(原田美枝子)を救う軽薄な次男坊”という難役をこなした池松壮亮。「紙の月」では宮沢りえと壮絶なベッドシーンを。くっそー。
2015年6月児童手当号「子役」につづく。
北米興行成績篇はこちら。
キネマ旬報決算特別号ついに発売。邦画ベストテンは以下のとおり。
(1)「そこのみにて光輝く」(東京テアトル 呉美保)
(2)「0.5ミリ」(彩プロ 安藤桃子)
(3)「紙の月」(松竹 吉田大八)
(4)「野のなななのか」(PSC 大林宣彦)
(5)「ぼくたちの家族」(ファントム・フィルム 石井裕也)
(6)「小さいおうち」(松竹 山田洋次)
(7)「私の男」(日活 熊切和嘉)
(8)「百円の恋」(SPOTTED PRODUCTIONS 武正晴)
(9)「水の声を聞く」(シネマインパクト 山本政志)
(10)「ニシノユキヒコの恋と冒険」(東宝映像事業部 井口奈己)
(10)「蜩ノ記」(東宝 小泉堯史)
▽監督賞=呉美保
▽脚本賞=高田亮
▽主演女優賞=安藤サクラ
▽主演男優賞=綾野剛
▽助演女優賞=小林聡美
▽助演男優賞=池松壮亮
▽新人女優賞=門脇麦
▽新人男優賞=東出昌大
……うわああ例によって観てないなあ。11本中「ぼくたちの家族」「小さいおうち」「蜩ノ記」の三本しか観ていない。まあ、言い訳すれば、山形県の庄内地方で公開されたのって、他に「紙の月」ぐらいじゃない?「私の男」はやったんだっけか。
そんなわたしの邦画ベストスリーは
(1)「ぼくたちの家族」
(2)「もらとりあむタマ子」
(3)「るろうに剣心 京都大火編」
かな。タマ子は本来は一昨年の作品だろうけれど。それにしても、奥田瑛二の娘たちは優秀ですねえ!
次回は洋画篇。
興行成績篇はこちら。
さあ今回は北米の興行収入をチェック。近年、日本では洋画の不調がつづいている。2014年は「アナ雪」というブロックバスターがあったのでだいぶ復調したように見えるし、今年も「妖怪ウォッチ」を「ベイマックス」が抜き去るというまさかの展開。しかしアメリカ人の嗜好と、日本人のそれとの乖離はどんどん広がっているような気がするのだ。
1 The Hunger Games: Mockingjay - Part 1 LGF $334,325,799
2 Guardians of the Galaxy BV $333,176,600
3 Captain America: The Winter Soldier BV $259,766,572
4 The LEGO Movie WB $257,760,692
5 The Hobbit: The Battle of the Five Armies WB $249,545,262
6 Transformers: Age of Extinction Par. $245,439,076
7 Maleficent BV $241,410,378
8 X-Men: Days of Future Past Fox $233,921,534
9 Big Hero 6 BV $217,456,064
10 Dawn of the Planet of the Apes Fox $208,545,589
……以下「The Amazing Spider-Man 2」「Godzilla (2014)」とつづく。実は問題は、そのつぎに公開されたばかりの「American Sniper」が飛び込んでいるんだけど(イーストウッドの映画がこんなバカヒットするなんて!)まあそれはともかく。
日本のトップテンに入ったのがアナ雪とマレフィセントとゴジラ。様相がだいぶ違う。「ハンガーゲーム」や「トワイライト」のように、日本ではあまり受けない作品に劇場が占拠されていることのほかに、10本中4本がアメコミ原作なのも影響しているんだろう。
とかいいながら、マイベストでも特集しますが、去年はそのアメコミものが実にいい感じだったので、もうちょっと日本でもかせいでほしかったなというのが正直なところ。
今年はなにより「アメリカンスナイパー」に大期待だし、年末にはスターウォーズの新作がやってくる。ちょっと、うれしいかも。わたしは正直、アメリカ映画が大好きですから。
次回は邦画篇。
非ミステリ篇はこちら。
それでは2014年、日本人は映画館でどんな作品をどれだけ観たかを。
1.「アナと雪の女王」(ディズニー) 259.2億円
2.「STAND BY ME ドラえもん」(東宝) 91.8億円
3.「マレフィセント」(ディズニー) 66.5億円
4.「るろうに剣心 京都大火編」(WB) 53.8億円
5.「るろうに剣心 伝説の最期編」(WB) 45.1億円
6.「テルマエ・ロマエⅡ」(東宝) 43.1億円
7.「名探偵コナン 異次元の狙撃手」(東宝) 40.2億円
8.「思い出のマーニー」(東宝) 36.0億円
9.「ドラえもん 新・のび太の大魔境」(東宝) 34.7億円
10.「GODZILLA」(WB=東宝) 31.4億円
……一瞥してお分かりのようにとにかくアナ雪の年だったのだ。音楽とキャラを有機的に動かすというウォルト以来のディズニーの伝統が守られている。にしても、まさしく雪だるま式の大ヒット。これだけの数字をたたき出した本当の理由は誰にもわからないだろう。
この作品がなかったら全体としては前年割れに追い込まれたかもしれないので、業界としては油断できない。東宝の一社寡占状態が解消され、ディズニー、ワーナーが健闘したのはよろこばしい。ランキングには入っていないけれども、松竹も意外にヒット作が多かったの。
それにしてもアニメはやはり強い。STAND BY MEによってドラえもんの興行はなおも盤石になったし、妖怪ウォッチ人気もあるから東宝は安閑としていられる……わけではないのよね。なにしろ宮崎駿が引退してしまったのだから。
わたしは必ず復帰するとまだ思っているけれど、それにしたって作品を完成するには数年かかる。ここは、勝負どころか。わたしがわからないのは東映だ。仮面ライダー、スーパー戦隊、プリキュアで稼ぐのはけっこうだけれど、ONE PIECEはもうちょっとなんとかならないのか。おとな向けの企画は首をかしげるようなのばっかりだし。
次回は北米興行成績篇。