ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ムカシトンボの上陸ヤゴ

2017-04-02 19:52:28 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボの上陸ヤゴ・・・ほとんどのトンボ類のヤゴ(終齢幼虫)は、水中から草木につかまりながら水上に出て、数十分から数時間後には羽化を始めるが、生きた化石と言われるムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889)のヤゴ(終齢幼虫)は、羽化の前およそ一ヵ月の間、陸上で過ごすという特異な生活をしている。今回、知人のS氏と都内の生息地を訪れて、その生態の不思議に迫った。尚、生息地を示す情報や上陸した場所の周囲の状況写真等の掲載は控えたいと思う。

 ムカシトンボは、日本固有種で北海道、本州(千葉県以外)、四国、九州に分布しているが、日本以外ではヒマラヤムカシトンボ (Epiophlebia laidlawi Tillyard,1921)がヒマラヤ山脈周辺に(Epiophlebia sinensis Li&Nel,2012)が中国黒竜江省に、また2012年に新種として報告された(Epiophlebia diana sp.n.)が四川省西部の山岳地帯に分布するのみで、他の国や地域には分布していない、トンボ目の中でもたいへん特異なグループである。  その生態も他のトンボ類とは違っている。生息域は主に山地の渓流だが、ヤゴ(幼虫)の期間が長く、5~8年を要すると考えられている。また特筆すべきことは、羽化の1ヶ月ほど前に上陸し、湿った落ち葉や石の下などで生活するのである。この間に鰓呼吸から気門、つまり空気呼吸への切り替えを行っていると考えられている。  これまで、成虫の写真では、オスのホバリングやメスの産卵の撮影を行い、水中の若齢幼虫の写真は撮っていたが、上陸ヤゴと羽化の様子は未撮影であった。そこで、いつも撮影を行ってきた生息地へ行ってみることにした。

 東京都内のある支流の源流部は、比較的生息密度が高く、生育ポイントも分かっているのだが、岸辺の石を1つ1つどかしても、なかなかムカシトンボの上陸ヤゴは見つからない。次に、そこから離れた別のポイントで探してみることにした。最初のポイントに比べて、ひじょうに日当たりが良く、平坦な岸辺が広い。流れから3mくらい離れたところの、拳二つ分の浮石をひっくり返したところ、その下にムカシトンボの上陸ヤゴが1頭、土の上にいるのを発見。その場から1m先の別の浮石でも発見した。こちらは、握り拳より少し大きめで、石の裏にへばり付いていた。  (撮影しやすいようにしたが、撮影後は、元の環境に戻したのは言うまでもない。)

 目的は達成したが、このヤゴが、いつ上陸したのかが分からない。成熟した成虫が飛び回り、産卵が行われるのが5月の中旬頃であるから、逆算すれば上陸したばかりであると考えられるが、本日撮影した上陸ヤゴの写真では、翅の付け根部分である前胸部に白い筋が入っているのが分かる。これは、翅芽が発達してきていることを示している。つまり、上陸してからある程度、日数が経過していることさす。産卵が観察できる日当たりの悪い場所においては、上陸ヤゴが発見できなかったことからも、同じ生息地においても、日当たり(気温)の条件によって、上陸時期に差があるのかもしれない。  また、興味深いのは、冷たい水の中で7年ほどを過ごしたヤゴが、上陸の時期をどうやって見極めているのかということである。ゲンジボタルの幼虫の上陸には日長時間が関与しているので、 ムカシトンボのヤゴも体内時計で計っているのかもしれない。ある日長時間になったら上陸すると決められていて、その時期は、上陸後の気温によって日本各地の生息地毎に差があるのではないかと思われる。今回、訪れた場所は標高が高く、麓においても、まだ梅が満開という状況であり、当然ながら気温が低かった。ただし、日当たりによっては、その差も大きい。今後、検証する必要がある課題だ。

 上陸後から羽化までの日数は、ホタル同様に有効積算温度で決定されるということであるから、今度は、未撮影である「羽化」のシーンを狙って訪ねてみたい。

参照:ムカシトンボ

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ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫) Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F6.3 1/20秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(石の裏にへばり付いていた個体) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(石の裏にへばり付いていた個体) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

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