日本では珍しいテングハギの仲間「マサカリテングハギ」が届いた。
これは前回ご紹介しました「ゴマテングハギモドキ」と同じく、長崎のたくじーさん(闇の中に潜んで生きておられる方なので本名や勤務先はやはり伏せさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願いいたします)よりいただいたもの。ありがとうございます!
マサカリテングハギは日本に生息するものでは、トサカハギという種類によく似ている。トサカハギの仲間は2002年に整理がなされたよう。そのなかで新種記載がなされたようだ。日本では2013年に新しく報告がなされた種類。そのため、「日本産魚類検索 第三版」に載っていないのだ。日本でこれまで採取されているのは確実には2個体で鹿児島県笠沙と伊豆半島東岸の相模湾産である。さらに標本は残っていないようだが、小田原魚市場でも水揚げされている。海外では東アフリカ~ティモール海までのインド‐西太平洋と、台湾に生息しているようだ。今回の個体は鹿児島県産であるが、長崎で水揚げされたもの。長崎の船がハタなどを釣るためシナ海を鹿児島方面に下っていくよう。
テングハギの仲間は、昨日のゴマテングハギモドキのように吻がとがっていない種もいるが、吻部に特徴があるものが多い。本種の場合は吻の突起が突出し、その吻突出部が角ばっているのが特徴である。トサカハギという種にも似ているが、トサカハギの場合は体の背縁が盛り上がるのが特徴だが、本種はそうはならない。大型種で全長70cmほどになるが、大型の個体は体が細長くなるのも特徴のようだ。
WEB魚図鑑では2個体が登録されているが、いずれもフィリピンのものである。最初はトサカハギだと思っていたが、あとでこの種かと思い瀬能 宏博士にお伺いしたが、やはりマサカリテングハギとのことであった。同定ありがとうございました。なお、参考にした文献(※)はフィリピンの分布についての記述はみられないが、台湾とティモール海にもいるのだから、当然その間の海域にもいるのだろう。この仲間の大型個体が鹿児島や相模湾で採集されているが、これらは大型個体が黒潮に乗ってやってくるという説(この仲間は遊泳力がかなり強い)や、幼生の期間が長く、沖縄を飛ばして九州や本州に辿りつきやすいという説があるようだ。実際にこの仲間はインド—汎太平洋域の広い範囲に分布しているものもいるのだ。
頭部背面には緑色で「V」の字のような模様がある。この模様については文献には記述がない。おそらく冷凍したり標本にしたりすると消失するのかもしrwない。しかしながらインターネットで検索をかけてみる(学名でぐぐる)と頭部にこのような斑紋をもつ大型個体の写真がヒットした。
なおこの個体は標準体長で450mmであり、全長は514mmである。おそらく計測しているものの中では日本最大の個体であろうKPM-NI25077よりも標準体長では15mmほど小さかった。先ほど述べたように大きなものは70cmほどになる。
標準和名は頭部の角ばった形状と細長い体形が「まさかり」を連想させることにちなむ。英語名Squarenose unicornfishというのは「正方形の鼻のテングハギ」という意味。英語名も標準和名もその角ばった頭部の形が名前の由来である。もちろん本種もテングハギの仲間なので尾柄部に二つの骨質板がある。クロハギ属の魚ほどではないが、とがっていて武器に使われると危ない。またテングハギ属は腹鰭軟条が3本しかないので5本あるクロハギ属、サザナミハギ属、ニザダイ属、ヒレナガハギ属の魚と区別することができる。
マサカリテングハギもほかのテングハギ属同様食用にすることができる。今回はカルパッチョとお刺身で食したがどちらも美味しい。内臓は猛烈ににおうため刺身はやめておこうか、と思ったが身は全くそんなことなし、刺身でも結構美味である。なおテングハギの仲間はフライやバター焼きなどいろいろ使うことができる。
※瀬能 宏・御宿明彦・伊東正英・本村浩之. 2013. 日本初記録のニザダイ科テングハギ属の稀種マサカリテングハギ(新称)とその分布特性. 神奈川県立博物館研究報告(自然科学), (42):91-96.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます