夏の終わりになると、磯ではベラの幼魚が目に付くようになる。ホンベラの子は緑色っぽいので目立つし、ブチススキベラは逆に枯れた海藻に擬態していて目立たない。オハグロベラも海藻の中にいて、茶色い体が保護色になっているのだろう。
高速で泳ぎ回るカミナリベラもまた、この時期の磯ではよく見ることができるベラの一種である。ベラ科・カンムリベラ亜科・カミナリベラ属。日本では新潟県佐渡・千葉県から琉球列島にまで分布し、日本海岸でも見ることができる。
カミナリベラの雌
幼魚は体に暗色の縦線が2本あり、背鰭後方に青黒い斑がある。雌は体に縦線があり、頭が赤く腹部に黒い点があるだけという色彩の種であるが、性転換して雄になると青色の線が出て派手な色彩になる(写真はない)。ベラの仲間は雌雄あるいは幼魚と成魚で色彩や斑紋が大きく異なっているものが多く、それぞれ別の種標準和名がついていたりした。
カミナリベラの幼魚
カミナリベラの生息する場所は浅海の岩礁域で、紅藻がある場所で多く採集したような記憶がある。あるいはその周辺の砂底。四国の太平洋岸では数が多くごく普通に見ることができた。しかし防波堤で釣ることはできなかった。防波堤でも数多く見られ、釣れなかった理由は不明だが、ニシキベラなどほかの食欲旺盛なベラがいたからかもしれない。だから今回紹介しているカミナリベラはすべて小型の個体なのである。夜間は砂の中で眠るのだが、私は夜間岸壁についていた海藻の中から本種の幼魚を採集したことがある。その時は下はごろた石で、眠れそうな環境ではなかったからかもしれない。
アカオビベラの幼魚
琉球列島でも見られるという本種であるが、あまり見たことはない。この間訪れた喜界島ではアカオビベラが多かった。アカオビベラはサンゴ礁の礁湖で小さな群れで見られた。前回は港の奥の方でハラスジベラも見かけている。このほか私は採集していないのであるが、オニベラも採集されている。しかしカミナリベラは全く見ていない。
カミナリベラに似ているものでカットリボンラスStethojulis interrupta (Bleeker, 1851)というものもいるが、雄の体側の帯がつながっているのが特徴のようだ。カットリボンラスは日本からの記録はなく、フィリピンから南アフリカまでのインドー西太平洋に広く分布し、日本や朝鮮、中国、あるいは台湾、東沙といったところにはカミナリベラが分布している。実際にこの2種は別種とされていることが多い。
ただしカミナリベラとカットリボンラスの差異は小さいともいわれ、亜種とされたり、同一種の地域変異とされている場合もある。ちなみに日本産魚類検索 第三版のカミナリベラの学名はStethojulis interrupta terina Jordan and Snyder, 1902であり、加藤昌一氏によるベラ&ブダイ図鑑でのカミナリベラの学名はStethojulis interruptaの学名である(記載者は記述無し)。一方比FishbaseではStethojulis terina Jordan and Snyder, 1902とされているものがカミナリベラなんだと思われる。いずれにせよこの問題の解決が待たれるところである。
カミナリベラ属の魚の飼育は意外と難しいところがある。元気に飼育できていると思っても砂から長いこと出てこなかったりする。強い性格の魚臭われると引きこもりになってしまうのかもしれない。おとなしい魚との飼育がよいと思われる。この仲間は観賞魚店で販売されることはほとんどないため、飼育したいと思ったら自分で採集してくるしかない。
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