魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中です。ご容赦願います。 ぶろぐの写真はオリジナルです。無断転載はお断りします。

日本のアカグツ属

2023年02月17日 14時33分00秒 | 魚紹介

昨日、Twitterでアカグツ属について疑問がある方のツイートが私のタイムラインに流れてきた。アカグツ属の同定については写真から難しいこともあるのだが、現状では日本産のアカグツ属魚類はアカグツ、オキアカグツ、ヘリグロアカグツ、トゲアカグツ、テンジクアカグツ、ヒメアカグツの6種と少ないのでポイントを押さえれば同定困難というほどでもないと思われる。なお、トゲアカグツとテンジクアカグツはよい画像を有していないので、申し訳ない。

●アカグツ

この属の中では最も多くみられる種類である。胸鰭は13軟条で胸鰭の縁辺は黒くない(この個体は尾鰭の縁辺が黒いがふつうは黒くない)。ただし、Fishbaseではアカグツの学名を検索していると、アカグツのような、テンジクアカグツのような不思議な色彩の個体が出てくるのである。これはおそらくアカグツとは違うのだと思うが、確証は持てない。腹部はつるつるではなく、微小なビロード状の棘が密集し、触るとざらざらしている。そのためオキアカグツやヒメアカグツなどと見分けられる。背面の模様はアカグツにもオキアカグツにもあるため、これで見分けることはできないだろう。

本種の分布域は新潟県・青森県太平洋岸~九州南岸までの各地である。「講談社の動く図鑑MOVE 魚」に掲載されたのは京都府産の個体である。写真個体は鹿児島県産であるが「鹿児島大学には九州南岸から得た標本がない」と魚類検索第三版にある。ただし実際にはぼちぼち漁獲されているようだ。もっとも、ほとんど水揚げされていないのではないかと思われる。私もアカグツは食べたことはない。消化器官の中にはたくさんの線虫がいるが、これはおそらく消化能力の弱い(と思われる)本種が好むカニやエビなどの甲殻類の消化を助けているのかもしれない。なおこの線虫はほかのアカグツ属魚類にも見られる。

 

●オキアカグツ

アカグツに似ている種である。長崎など東シナ海からくることがある。たとえば長崎「印束商店」さんでアカグツを購入すると、本種であることが多い(逆に私は長崎産のアカグツは見たことがないのでもしいたら教えてください)。背面には特徴的な模様があるが、アカグツにも背面に模様がでる個体が多いため、あまり参考にはならない。

アカグツと違って腹面はすべすべしているので見分けは難しくはない。また胸鰭軟条数も14~15とやや多いので、その点でもアカグツと見分けられるかもしれない。なお、生息水深は100~360mほどとされている。分布域については、長崎のほか、千葉県館山や九州-パラオ海嶺からの報告もあるようだ。ごくまれに釣りなどにより漁獲され、食用になり汁物で美味である。アカグツでは腹面に微小棘があるため皮を入れることは難しいが、本種の場合は腹面に棘がないので腹面の皮なら入れることができる。胃もよく洗って鍋の中に入れると美味しい。なおアカグツ類の線虫はいわゆるアニサキスとは違うようで無害であり、胃袋を突き破り筋肉内に入ることはない。

 

●ヘリグロアカグツ

アカグツに似ているのであるが、胸鰭、尾鰭、臀鰭の縁辺が黒いのが特徴とされている。ただし、Fishbaseでアカグツとされる個体であっても、このヘリグロアカグツのように胸鰭や尾鰭の縁辺が明瞭に黒いものもいる。今後アカグツ属魚類の再検討が必要であろう。分布域は宮崎県、東シナ海であり、遠隔地の産なのであまり手に入らないが、某サイトに掲載されているヘリグロアカグツの小型個体に似たものを2010年に宇和海で採集している。未記載種である。

 

●テンジクアカグツ

テンジクアカグツはヘリグロアカグツに似たところがあるが、腹部に大きめ(背面の棘の半分くらいの大きさ)の棘があるのが特徴。残念ながら写真はない。東シナ海の遠隔地にすむらしく、日本にはほとんどいない、と思いきや近年鹿児島県から2匹相次いで獲れている。その個体(お魚三昧生活 テンジクアカグツ)では、背面の胸鰭の縁辺が薄く黒っぽくなっているのが特徴である。ただ、「日本産魚類検索」で記されている「胸鰭と尾鰭縁辺に黄褐色横帯がある」とされる特徴は見られない。この特徴はFishbaseで掲載されているものに見られる特徴であるが、もしかして複数種いるのではないのだろうか。

 

●トゲアカグツ

トゲアカグツはテンジクアカグツに似ていて腹部の棘が大きいのが特徴とされる。ヘリグロアカグツ同様未記載種であり現在研究が進められていると思われるが、この種はめったに見られないため分類学的研究が進んでいないということもありうる。国内からは九州-パラオ海嶺からの記録はあるが、沼津市戸田沖の駿河湾からも腹面の棘が大きな個体が漁獲されている。この種についても残念ながら画像はない。

 

●ヒメアカグツ

ヒメアカグツはで全長10~15cmくらいである。腹面に小棘がなく、オキアカグツのような模様がないのが特徴である。私が入手したものはまだ小さめだったためか、背中が若干もりあがっていた。千葉県銚子~土佐湾までの太平洋岸、シナ海、インドー西太平洋にすみ、底曳網では水深458m以浅から漁獲されている。写真の個体は150~180mくらいの海底で漁獲された。小型種でありあまり食用とはされない(もっとも、アカグツ属自体はほとんど食用にされないのだが)。

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