日経ビジネスONLINEに掲載されている、岩崎夏海氏のシリーズ記事「なぜ浅田真央は僕の胸を打つのか」。第3弾の「モスクワで浅田真央さんの世界選手権を見てきました(前篇)」を読んだ。
岩崎氏は「もしドラ」こと「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者として有名な人。「もしドラ」のような本を書いてほしいといってきた編集者に、「今興味のあることしか書きたくない」というと「じゃ何に興味があるのか?」その答えが「任天堂と、浅田真央」。そこから浅田真央について本を書くことになり、2010/2011シーズンから取材を始めたそうだ。
フィギュアスケートについては普通の観客同様の“素人”だけれど、これまで掲載された記事を読むと、とても丁寧に、真摯に取材していると思う。また、スポーツ関連記者ではないだけに、視点が観客やファンに近い気がする。
今回の記事では、「モスクワの豊かさ」「ウィンタースポーツ先進国のロシア」という印象が興味深かった。会場となったメガスポーツアリーナの地下に練習用リンクがあるなんて話を聞くと、その合理性にロシア人を見直してしまう。あの開会式を見て芸術を大切にする国だと思ったが、「観客席に傾斜があって見やすく、コンパクトで一体感がある。演劇やバレエなどの観劇文化の伝統と関係あるだろう」という記述にすごく納得した。
浅田真央の公式練習を見て「花びらのように“ひらひら”」と感じ、「やせている」と気づく。そのときは「軽くなって跳びやすくなるだろう」と考えたが、ショートプログラムでトリプルアクセルを成功させられず、佐藤信夫コーチは「パワーが足りなかった」とコメント。そこで練習で見ていたことが腑に落ちたという。
今シーズンを振り返って、「失敗のシーズン」「自ら選択した、失敗を覚悟でそれを超える成長を期して新しいことに挑戦した」と評する。「ぼくはそこにこそ、真央さんが多くの人の胸を打つ、一番の理由が潜んでいるような気がするのだ。」
天才といっていい才能に恵まれた選手が、あえて挑戦しなくても十分評価される成績をあげていながら、そこに安住せずに理想を求めて挑戦する姿。それは天才だからこそ許され、また天才だからこそ求められることかもしれない。
岩崎氏の今後の取材と、いつか出版される本に期待したい