いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

車谷長吉、『赤目四十八瀧心中未遂』の風景;狂女との邂逅場所 東京 小石川植物園の通り

2023年04月19日 20時26分28秒 | 東京・横浜


愚記事(東京散歩;文京区・東洋文庫ミュージアム ⇒ 小石川植物園)より

 かつての記事に「車谷長吉、『赤目滝四十八瀧心中未遂』の風景、京都、柿傳」があり、"聖地巡礼"を行った。さらには、この時の京都旅行では別の『赤目滝四十八瀧心中未遂』の"聖地巡礼"も行った(車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』に今宮通り、小山花ノ木町が出てくるので、見物することにした。

 最近、『赤目滝四十八瀧心中未遂』を読み返してみて、自覚なしに"聖地巡礼"をしていたことに気づいた。

 忘れる得ぬ他人といえば、 去年の秋梅雨のころのある日、 傘を差して、小石川植物園の塀に沿うた道を歩いていると、いきなり「どこへ行くの。」と、見知らぬ女に声を掛けられた。 思わず 「図書館。」と答えると、 「あら、じゃ、一緒に行きましょう。」と、 女は恰も こちらのことをよく知っているかのように 近づいて来、 並んで歩きはじめた。この物怖じしない素振りが私を不安がらせた。 四十過ぎの、家庭の主婦とも思えない、化粧ッ気のない女である。 足を速めると、女も 足を速め、 また元の歩調に戻すと、女も無言で合わせて来る。 どうあっても付きまとうて来る気配である。
 図書館へ着くと、併し女は自然に別の本棚の方へ行ったので、ほっとしていると、しばらくしてまた近寄って来た。 厚い 博物図鑑を私の前へ 広げ、「この虫は食べられるでしょうか。」と言う。見れば、大きな芋虫の極彩色の絵が描いてあった。 
 驚いて女の顔を見返すと、目を血走らせて、「いいえ 、私たちは食べていました。」と言う。その切迫した物言いが、全身の毛が凍るほどに恐ろしかった。ー 私もまた 「芋虫を食べて。」生きて来たに相違なかった。

車谷長吉、『赤目四十八瀧心中』

上の画像は、東京は文京区の小石川植物園の塀の外側の道である。画像に向かって左手が植物園。まさに、『赤目四十八瀧心中』で主人公、生島与一が「狂女」と出会う道である。



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