(われもこう/けんじゅうがきて/わらいおり)
虔十公園林 宮沢賢治
虔十は、いつも繩の帯をしめてわらって、杜の中や畑の間をゆっくりあるいてゐるのでした。
雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ、青空をどこまでも翔けて行く鷹を見付けては、はねあがって手をたゝいてみんなに知らせました。
けれども、あんまり子供らが虔十をばかにして笑ふものですから、虔十はだんだん笑はないふりをするやうになりました。
風がどうと吹いてぶなの葉がチラチラ光るときなどは、虔十はもううれしくてうれしくてひとりでに笑へて仕方ないのを、無理やり大きく口をあき、はあはあ息だけついてごまかしながら、いつまでもいつまでもそのぶなの木を見上げて立ってゐるのでした。
時には、その大きくあいた口の横わきを、さも痒いやうなふりをして指でこすりながら、はあはあ息だけで笑ひました。
なるほど、遠くから見ると虔十は、口の横わきを掻いてゐるか、或いは欠伸でもしてゐるかのやうに見えましたが、近くではもちろん笑ってゐる息の音も聞えましたし、唇がピクピク動いてゐるのもわかりましたから、子供らはやっぱりそれもばかにして笑ひました。
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ウド(独活)の花