(いわしぐも/やむかおつきも/いってつに)
私は、一度も父に逆らったことがない。というよりも怖くて逆らえなかった。ところがどういう訳か、私は父から殴られた記憶がない、なのにどうして父を恐れたのか。「やはり、タバコの火」か。
18才の時、家出同然に家を出た。そして、日本中を放浪して、7年振りに家に帰ってみると、父からあの威圧感はなくなっていた。今考えると、父が変わったのではなく、私が変わったのだ、と思う。
絶対的に強い父と従順だった息子の関係も、時間が経つと自然に逆転する。但し、柔和になったとはいっても、軍隊帰りの父の顔は、最期まで威厳を保っていた。
サクラタデ(桜タデ)