3回程の休憩の後、まだ麓の見える内に、ガイドさんは「私はこれで」と私に言葉をかけて、再度「行かれますか?下山しませんか?」と再確認するように言葉を掛けられました。私が登山を続けると意思表示すると、彼女は挨拶して登山道を下り始められました。
「鎖に沿って登って行ってください。鎖の傍が登山道です。上に行ったら、羅針盤のある場所が頂上ですから。」
彼女は私にそう言い残すと去って行かれました。他の皆にも順次言葉をかけて、彼女は岩壁を下って行かれました。
程無くして、私は出発しようと思い登山道に戻ると鎖に取り付きました。去って行く彼女を振り返って見送ってみると、登って来た岩壁はかなりな急斜面で、地上に食い込むように下りて行っているのがよく分かりました。私は内心もの凄い急斜面だと驚きました。ここを登って来た事が他人事のようで信じられない気持ちでした。私は初めてウルルの登山道の急勾配を目の当たりにしたのでした。
が、それでも私は下りて行かずに登山道の上を見上げました。そうして、このまま進む事にしました。『ここへ来られる事はもう無いだろう。』そう思うと、この今の登山が私にとってのただ唯一のウルル登山となるのだと、ここで終える事が酷く勿体無く感じられるのでした。
私は頂上までの距離も時間も全く把握できない状態でした。ガイドさんと別れた次の休憩かそのまた次の休憩時、私は「時は金なり」を思い浮かべると休んでいる時間さえ惜しく感じるのでした。しかし、登山道に向かって戻り始めた私は、「命あっての物種」の言葉も思い浮かべるのでした。無理は禁物と思いながらも、鎖を手にもう少し先へ進んで見る事にしました。上を見上げれば先には多くの先陣が溢れるほどに隊をなしていました。 まだまだやれそうだ、先陣の隊列の中に交じる年配者の姿に励まされて、私は上を見上げて進むことにしました。鎖に掴まりせっせと歩を運びました。下を見ないで上を見る事がこの登山のコツかもしれないと、自分勝手な考えを心の中で呟きながら、兎に角上へ上へと私は遮二無二向かって行ったのでした。そして、この先、私が鎖を手に見上げる登山道の斜面は、見下ろしたのと同じ様な急勾配を見せ始めるのです。