Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

美湾

2017-12-16 17:59:29 | 日記

   動悸も収まってきて、冷静になり、残りのドームの後半の180度を眺め始めると、側面には何もいなくて遥かに続く灰色のコンクリート造りの飼育場が見えていました。

 私の位置が元の視線の位置に戻ると、視界はトカゲ口内になりました、2度目なのでもう直ぐに分かりました。しかも、これは最初に見たものの口内でしょう、先程可愛いと思い、ガラス越しに手で指などちょろちょろと撫でたトカゲです。

   『分かりました、トカゲ君。さようなら、もう飽きました。』

私はこのトカゲの攻撃性、凶暴さに決別する事にしました。それで軽く微笑むと、何方かというと寂しく微笑むとでしたが、ドームから離れることにしました。私はこの時、本来の野生動物は人など好きではないのだ、彼等にとって人間は餌なのだ、そんな事を悟っていました。私はドームから頭を下げてこの部屋を後にしました。通路に戻ると、まだ奥へ行く道があったかもしれませんが記憶になく、その後は進んだのか戻ったのか、私は元の出口から外へ出て来ました。

 出て来て一息ついた私は、何だかぼーっとして気が沈んだような気分でした。でも、貴重な体験が出来た事は嬉しい物でした。ガラスが無ければ自分は今頃生きてここにはいない、岩場の荒野に出たなら肩より高い位置の岩場には近付かない方が良い、そこではいつ何時大トカゲが飛びかかって来て、バックリと自分の頭に食いつくかもしれないのだ、そんな未曽有の貴重な体験が安全の内に出来た事は嬉しい事でした。私はこの事で自然の厳しさに対する1つの教訓を得たのでした。そして、自分の驚いた様子を思い浮かべると、何だかクスリと可笑しくなってしまいました。

 「何かありましたか?」

声に気が付くと、ご家族連れのお母様が目の前におられました。中で何かありましたか?何だか心配そうに声をかけてくださいます。

 (これは以前に載せた写真です。可愛いですよねオウムやコアラ。当時、私はこの大トカゲがオーストラリアの荒野にいるのだと思っていました。オーストラリアの荒野は危険な場所なのだと思い、この国の人は郊外に行くと大変なのだなと思っていました。

 しかし、現在、大トカゲで検索してみると、この時の動物園で見た物はコモドオオトカゲ、コモドドラゴンという種類のようです。確証はありません。

 そうすると、この大トカゲはオーストラリアに棲息しているものではなく、インドネシアの島々に住んでいるようです。)


美湾

2017-12-16 11:35:00 | 日記

 さて、大トカゲの観察ドームに戻ります。

 私はガラス製のドームを覗きながらぐるぐる回転して地上のトカゲ達の様子を観察していました。遠くにいる物は小さく全体像が見えます。そしくるっと頭を回すと、最初の位置から180度の反対側、自分の頭があった位置を見ました。一瞬真っ暗で何もない世界、視界に何も映らなくなり不思議に感じました。透明なドームのはずが真っ暗です。日食でもあるまいし、と、狐につままれたような感じでした。

 『おや?』何だろうと思う間も無く、青空の破片や、何かのずり動く影を感じたと思ったら、いきなりガバッと!顔に食らいつかれました。それは分かりました。

 一瞬!、キャー!またはギャーっと叫びそうになり私は息を飲みました。驚愕と恐怖の戦慄を覚え、一瞬稲妻のような衝撃が背筋を走ったのですが、如何いう訳か叫び声は口から出て行かず、そのまま声は口の中に留まりました。驚きました、全くの完璧な恐怖体験でした。私はドームの外にいた大トカゲに大きな口でバクリと勢いよく飛びかかられて、予期せぬ無防備な自身の顔に食いつかれたのです。それは頭というべきかもしれません。

 ドームに覆いかぶさる黒い影が、トカゲの大きな口の内側だと気付くのに一瞬の間がありましたが、身を返した大トカゲが再び私に勢いよく飛びかかって来て、顔にガブっと食いついたので、呑気な私にも事の事情が緊急な事態だと呑み込めました。どういう訳か恐怖の叫び声も飲み込みました。そしてトカゲと私の間にガラスドームがあることを思い出すと、私はほっと溜息を洩らした事でしょう。安堵しました。ドキドキと早鐘のように打つ心臓に手をやりその動悸を静めながら、『落ちついて。』と冷静にドームの向こうを見つめ始めました。

 ガブッと、身を引いてもう一度ガブッと、ドームに飛びかかって食いついてガジガジと頭を振ってガシガシガシと大きくガブリ!

身を震わせ、頭を振って攻撃してくる大トカゲに、私は眉をひそめて、目の前にはガラスがあるからと気持ちを落ち着かせ、その動きをざっと一頻観察してみます。

『この大トカゲって、凶暴なんだ。凄く!』私は納得しました。

 この建物の中から聞こえていた声、行き違った人々の声掛けや様子、ドームを先に覗いていた女の子の反応、等。その全てがこの事態で身をもって分かりました。将に『百聞は一見に如かず』でした。