動悸も収まってきて、冷静になり、残りのドームの後半の180度を眺め始めると、側面には何もいなくて遥かに続く灰色のコンクリート造りの飼育場が見えていました。
私の位置が元の視線の位置に戻ると、視界はトカゲ口内になりました、2度目なのでもう直ぐに分かりました。しかも、これは最初に見たものの口内でしょう、先程可愛いと思い、ガラス越しに手で指などちょろちょろと撫でたトカゲです。
『分かりました、トカゲ君。さようなら、もう飽きました。』
私はこのトカゲの攻撃性、凶暴さに決別する事にしました。それで軽く微笑むと、何方かというと寂しく微笑むとでしたが、ドームから離れることにしました。私はこの時、本来の野生動物は人など好きではないのだ、彼等にとって人間は餌なのだ、そんな事を悟っていました。私はドームから頭を下げてこの部屋を後にしました。通路に戻ると、まだ奥へ行く道があったかもしれませんが記憶になく、その後は進んだのか戻ったのか、私は元の出口から外へ出て来ました。
出て来て一息ついた私は、何だかぼーっとして気が沈んだような気分でした。でも、貴重な体験が出来た事は嬉しい物でした。ガラスが無ければ自分は今頃生きてここにはいない、岩場の荒野に出たなら肩より高い位置の岩場には近付かない方が良い、そこではいつ何時大トカゲが飛びかかって来て、バックリと自分の頭に食いつくかもしれないのだ、そんな未曽有の貴重な体験が安全の内に出来た事は嬉しい事でした。私はこの事で自然の厳しさに対する1つの教訓を得たのでした。そして、自分の驚いた様子を思い浮かべると、何だかクスリと可笑しくなってしまいました。
「何かありましたか?」
声に気が付くと、ご家族連れのお母様が目の前におられました。中で何かありましたか?何だか心配そうに声をかけてくださいます。
(これは以前に載せた写真です。可愛いですよねオウムやコアラ。当時、私はこの大トカゲがオーストラリアの荒野にいるのだと思っていました。オーストラリアの荒野は危険な場所なのだと思い、この国の人は郊外に行くと大変なのだなと思っていました。
しかし、現在、大トカゲで検索してみると、この時の動物園で見た物はコモドオオトカゲ、コモドドラゴンという種類のようです。確証はありません。
そうすると、この大トカゲはオーストラリアに棲息しているものではなく、インドネシアの島々に住んでいるようです。)