私は目の前の彼女の反応から、No, orangeでよかったのだと悟りました。するとオレンジジュースが無いのだわ、このオレンジ色の瓶の物はオレンジジュースじゃないのね、と、半信半疑ガラスケースの中のオレンジ色の液体が入ったガラス瓶を眺めました。彼女は、真顔になると、再び私にNo orangeを繰り返し、NOという事を身振りで示しました。手ですっぱりと無いという身振りです。そして「…、○○ジュース、△△ジュース。□□ジュース」と、それらならあるという事を伝えて来ました。
彼女の言葉が早かったので、私は指を折りつつ、頭の中でジュースの名前を思い出しつつ、Pleas, repeat more slowly.が咄嗟に出てこなかったのです、アップルジュースに思い当たると、
❛Apple juice, please.❜
と言って一息つきました。
彼女はこれに機敏に反応すると、直ぐにケースから牛乳瓶に入ったそれらしい琥珀色のジュースを出してくれました。私は彼女から値段を聞くと財布からコインを何枚か出して、自分の掌の上で物色しました。代金の金額のコインが目についた私はそのコインを選ぼうとしました。と、その瞬間、向かい側にいた彼女がピン!と、私の掌の上のコインを見てすかさずこれだという身振りを示しました。そして彼女がそのコインを指さす間もあればこそ、さっとその1個のコインを選び取り持って行ってくれました。私は彼女のその素早さと目の良さに感服しました。自然っていいなぁと、ケアンズで見た先住民の方のやり投げの正確さを思い起こし、何方も目が良くなければできない事だと感じました。その目の良さはというと、自然の中で自然の風物を当たり前のように見ている生活から来ているのだと感じ入ったのです。私も就学前は目が良かったのよ、と内心思いました。