Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

美湾

2017-12-03 22:31:19 | 日記

 壁を乗り越え、尾根を渡り、頂上に達するまでの間、何時頃の事でしょうか、私は登山者の列の中にとても奇麗な金髪の人を見つけました。

『美しいな!』

と、その煌くような金髪に思いました。この出来事で、私は一瞬登山の事はお留守になってしまいました。私はそれほどに綺麗な金髪の人を見るのは生まれて初めての事でした。海外旅行は2度目でしたが、最初の旅行でもこれだけ印象に残るような輝く金髪の人を見た記憶がありません。登山者の列の中にその輝く色を見つけて、思わず目が釘付けになってしまうのでした。実は、私は美しい物が大好きでした。これは、ぜひ近くによって観察したいと希望するのでした。

 最初にその金髪を持つ男性を見つけた時には、私との間には結構距離があるようでした。これでは近くで観察できそうに無いなとがっかりしました。が、休憩や何かで、いつの間にかその人との距離は縮まって行きました。まだ若い青年のようでした。輝く金髪もそうですが、確りした体格で背丈もある人でしたから、猶の事目を引くのでした。スタイルがいいといった方が分かり易いでしょう。

 何回かの休憩、向こうにしても私にしても、の後に、私はうまく彼の後方に位置をつけることが出来ました。そこで、きらきらする綺麗な髪の毛を憧れと好奇心で見上げてみました。日の光を反射する様子や、その金色の線になる髪の毛の空中に1本2本と舞うさまを、お日様の反射をあちらこちらの角度からみたいと、自分の顔をあちらこちらへ向けてみます。また、お日様との反射の具合を見るために、太陽の位置関係を図ったりして日差しの差す方向をながめたりしていました。本当に、日に透ける様な美しい髪でした。1本2本など、風に舞うさまは、其の儘大気の中に髪が光となってとけこんでいくようでした。美ですよね、美、正に黄金の細い線のたゆとう美でした。


美湾

2017-12-03 21:49:41 | 日記

 こんな場所でも休憩出来るのだと信じられない気持ちでしたが、私が登山道を進む内に、岩に寄り添い人が休んでいる様子を何人か見て来て、内心そろそろ休憩したくなった所で、

「こんな所でも休憩できるんですね。」

と、岩に寄り沿った人に質問して声を掛けると、そこに居た人がにこやかにそうですと言い、

「どうぞここで休憩してください。」

と自分がいた場所を空けて登って行ってくださいました。

 どうやら順繰り順繰りに、皆そうやって入れ代わり立ち代わりして休憩していたようです。私も後から来た同じツアーの新婚さん夫婦に同じように声をかけられて、同じようににこやかに応対し、場所を譲って登山道に復帰しました。

 絶壁を登ると、割合平坦な頂に出ました。そこをまた鎖に沿って超えて行くのです。尾根というのでしょうか、その尾根に達した頃、丁度朝日がウルルの壁に差し込み、登山者の後方に出来た自身の長い影が岩肌に映ります。私は前を行く人から後方を振り向くよう促されて、自分達の影が長く伸びて赤茶色のウルルの壁に投影されているのに気付きました。その事を教えられて、

「ここで自分の影を写真に撮るといいですよ。」

そう言われました。先の人から後の人へ、この位置で順に岩に映る自分達の影の事を云い伝えるようです。私は撮影しようか如何しようかと迷いましたが、バックからカメラを取り出して撮影する間も惜しいような気がしました。次に来た人に影の事と撮影の事を申し送りをすると、せっせとその先を急ぎました。頂上までどの位なのでしょう、この時の私は先の見えない登山に時間的な大事を取って、唯々先を急ぐ気持ちで一杯でした。


美湾

2017-12-03 21:07:32 | 日記

 ほぼ垂直に近いと感じる岸壁を、鎖を確りと手に握って登って行きます。鎖にぶら下がって登っているのですが、どうせ垂直な壁ならと、足の裏で壁を押すようにして体をくの字に曲げ鎖をぐっと引っ張ってみます。この方がぶら下がって上るより腕が楽になりました。脚の方も楽でした。『成る程、何でも工夫だな。』と思います。

 えいえいと鎖を思いっきり引っ張り登って行くと、金属の杭に鎖が激しくぶつかり、ジャランジャランと大きな音を立てます。かなり派手だと自分でも思い、鎖や杭の根元など、外れないかと心配になって注意して観察してみました。杭の根元はびくともせずに岩に打ち込まれていてほんの少しの揺らぎも無いのでした。

 『これだけの人数を支えて、びくともしないなんてすごい物だ。』と私は大層感心しました。杭にしろ、鎖にしろ、そう太いというものでは無く、軍手をはめた女性の私の拳の中にさえ、容易く握り込まれてしまう程のごくごく普通の何の変哲もない金属に見えました。金属に詳しくない私には素材が何なのかさっぱり分からないのでした。

 絶壁での休憩中、岩肌にぴったり寄り添うようにして腰を下ろすと、目の前遥かに地平が広がっています。真下や登山道の様子などはもう見ようとも思いません。唯、真っ直ぐ目に映って来る平原を遥かに見やっているだけなのでした。真っすぐと言っても平地が見えるのですから、やや下向きな視界には違いありません。風も上空にいるだけにその強さを感じます。風音も耳を擦ってびょうと聞こえるくらいで、髪の毛を激しく噴き上げて行きます。風に吹き飛ばされそうな恐怖心も湧いてきます。が、少し休んで景色を眺める余裕が出来ると、高いだけに素晴らしく見晴らしのよい光景なのでした。何しろ高い山など無い平原がずーっと眼下に続いているのです。霞がかったようなぼうっとした色彩の残る、まだ曙の国立公園の風景なのでした。