Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 116

2021-03-01 12:12:38 | 日記
 従兄弟はハッとした。そして私と自分の顔の位置が近過ぎる事に改めて気付くと、思わず数歩ぴょんぴょんと両足を揃えて軽く後退りした。

「取り憑かれたいのかお前。」

焦った様子で顰めっ面を振り向けて、私の父は従兄弟を見据えた。「それならそれで、自分はこれ以上我が子の不始末の責任は取ら無いからな。」と、こう言い捨てた彼は、憮然として腕組みをすると顔を元通り自分の正面に戻し、その儘彼は私の従兄弟に背を向けた。この私の父の態度に、従兄弟の方はぽかんとした顔をして口を開けた。そうしてあれっと言う感じで合点の行か無い顔をすると振り返り、居間方向の障子の紙を見詰めた。そこは先程従兄弟が耳を欹てていた辺りだった。それから従兄弟はまたこちらの、自分の叔父である私の父の頭辺りに目を戻し彼を見上げた。

 やっぱり変だね。叔父さん知ってるんでしょ…。そんな小さな話し声が奥の障子方向から上がっていた。ぽそぽそとした女の子の話し声だ。これは私の耳にさえ、微でも聞き取る事が出来たのだから、私より襖に近い場所にいた従兄弟にすれば、この声を確実にその耳に取り込めた事だろう。その証拠に従兄弟の方も自分の耳に注意を向けた様子だ。居間の声に集中すると従兄弟の目付きやその様子は徐に考え込む気配となった。

 「分かったのか、お前危なかったんだぞ。」

と私の父は、彼に対して無言の儘返事をして来ない私の従兄弟に向き直った。従兄弟の意識は未だ障子の向こうに飛んでいるのだろう、父や私からその顔は背けられ、その耳の注意が向かう所は居間である。自分から顔を背けて、彼を無視していると感じたのだろう、私の父はよしと、やおら従兄弟の側に歩き出し直ぐにその足を止めた。そうして彼の注意は、彼の背後にいて2人を見守る私へと向けられた。

「お前一寸あっちに戻っていてくれるか。」

父は私の顔を振り返ってこう言った。「お前がここにいると話がややこしくなるからな、こっちはお父さんに任せて、さっ。」と、普段の父の様に微笑して、手で指図しながら彼は言った。

 私は座敷を離れる事にした、が、ここで、あっちとはどこの場所だろうか、と言う疑問が突如として湧いた。座敷の出口に続く部屋か、その隣にある居間だろうか?。こう父に尋ねると、ここへ来る前にいた所だとのみ彼は口にするのだ。そこで私は、「居間だね」と、彼に相槌を打った。

 父は半ば意外そうに居間?、と口にした。父は続けて階段の部屋じゃぁと言い掛けたが、そうかと言うと、何やら合点したらしく、ぶるっと武者振るいして私を見直した。彼はその視線を私の足元に落としてじっとその場所を仔細に観察していたが、その後私の顔に彼の視線を戻した。彼はふんと言って一瞥をくれると、そうかと口にしてさっとばかりに勢いよく私から離れた。父は私の従兄弟の目前へと歩み寄って行った。

 私は父が歩み出すのを見てから身を翻すと、この場から座敷を後にした。出口を通り過ぎるとすぐに階段の濃く深い天然色が私の目に入った。私はそこで何とは無く感じる思いに一息吐いた。

うの華3 115

2021-03-01 10:17:38 | 日記
 そんな事を言われても、思い当たる事が無い。合点の行かない私は蛇に睨まれた蛙の如く、がまの油売りに出て来る鏡の前の蝦蟇同様にといえばよいだろうか、父に射竦められて出て来るのはたらりとした冷や汗ような物ばかりだった。一向に考え等浮かんで来ない、私の内心には焦る気持ちが湧くばかり、父の問う答えは皆目浮かんで来なかった。

 「何って、」

何と、そんな焦燥感で萎縮した私に助け舟を出してくれたのは目の前の従兄弟だった。従兄弟は続けて私の父に言った。

「さっき叔父さんに言った通りだよ。養子の約束を取り付ける事だ。」

はぁ?。私には何が何やら、この従兄弟の父への回答も訳の分からない物だった。思わず驚いてしまった。目を白黒して従兄弟を見詰めてしまう。と、父を見守る従兄弟がふらりと身を揺らすと、よろける様に数歩私の目の前からゆるゆる横へと移動して行く。そうしていつの間にか従兄弟は私の立つ場所から遠ざかった。

 そんな従兄弟の様子を怪訝に思いながら、私は父の顔へと視線を移した。父の方は未だ厳つい顔をして私を見据えていたが、その勢いは少々怯んだ様子に見える。私は父を上から下へと観察してみた。すると腰の下に降ろされた父の片掌だけが横によいよいと動いている。何だろう?。

 やがて父は気落ちした様に私から視線を外すと、しゅんとして彼の視線を畳に落とした。そのまま彼の動きは全く静止した。そんな父から、私は元の様に従兄弟へと視線を移してみた。すると、驚いた事に従兄弟と私の距離は先程よりも可成り開いていた。従兄弟の現在位置はというと、既に居間に近い障子戸の近くに達していた。先程迄は部屋中央に近い場所に従兄弟はいたのだ。如何したのだろうか?。私は従兄弟の側に走り寄ろうと構えた。

 はぁっ、と、父が大きく溜息を吐いた。見ると父も私を見詰めていた。先程のきつい目付きでは無く、その目の中には困惑した色が見て取れた。思えばこれが普段の私を見る父の目付きだ。私はこう思うと何だかほろ苦い気がしてくすっと笑みが漏れた。すると父はきゅんとした様子になり、何やら思う所がある様子になった。彼はつと片手を彼の両目頭に当てて俯いた。何だか父は暗く沈み込んだ様子だ。従兄弟はそんな父の様子を部屋の隅で窺っていたが、ここでちらと斜め後方に位置する私の方を眺め遣った。父の方はそんな従兄弟の様子には無頓着で、俯いた儘その儘で身動きし無い状態となった。

 座敷の中はしんとしていた。私は身動きし無い父と従兄弟の様子を交互に眺めていた。従兄弟の方は私の方へ自分の顔を振り向けたり、また戻したりしていたが、その内障子の向こうの居間に注意が向いた様子で襖に近付き、じっと耳を傾け始めた。父の方はというと、目に当てた手を戻すとぼんやりした様子で佇んでいた。父の立つ位置は丁度座敷の真ん中に当たるなと、この時の私は天井を見上げ、電灯の傘の位置と父の頭の位置を見比べて見たりしていた。

 やがて従兄弟は、さり気ない普段の足取りで私と父の立つ場所近くに戻って来た。その様子はと言うと、従兄弟の方も何やら考え込んでいる気配だ。時折私の視線と従兄弟の視線が合った。父は私の顔付きから従兄弟の接近に気付いた様だ。はっとして自分の横に視線を遣ると顔を斜め後方に振り向けた。

「あっちに行っていろと言っただろう。」

合図したのにお前何故戻って来たのだと、父は思わずの様に私の従兄弟を叱責した。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-03-01 10:14:06 | 日記

うの華 170

 この日1つ目の訪問先のお店から退散して、私は往来に佇んだ。私は散歩の出鼻をくじかれた感じで、朝早々からやや肝が冷えた感じを覚えた。大人なら験が悪いと家に引き返す所だ。私も1度はこ......
    昨年は1日に何作か作って、割合元気で意欲的でしたね。
    今日は良いお天気で、暖かいようです。南風が入る予報です。