私は疲労感を覚えた。特にそう運動した訳でも無いのに…。と、如何したのだろうかと自分の体調について考える事でさえ、私自身酷く疲れて来そうだった。
『階段か…。』
ふっと、嘆息して、私はその2階に続く焦茶色の段々の重なりを目にして思った。
『何か起こった様な気がする…』
歩み寄った私は階段の手摺りにチョンと自分の片手を載せてみたりした。しかし私の脳裏には何も浮かんで来なかった。
何をしようと思っていたんだっけ?。ふと気付いた私は目の前にある部屋、居間に向けて進もうとしていた。私の頭は昼寝から覚めた時の様にぼんやりとしている。視界の方もそうだ。縁の部分が霞んで見える。そこで私は確りしなければと目を擦り、時にはよろけそうになる足に力を込めグッとばかりに踏みしめた。そうして、自分の意識をハッキリした物に呼び覚まそうとして盛んに努力した。
『そうだ!居間だ!、居間に行くんだった。』
意識と視界がはっきりして来ると、私は自分の目的を思い出した。未だぼんやりとしていた頭も漸くすっきした頃、私は居間の入り口へと到達した。開けられた部屋の仕切りの戸に手を掛けて、私は部屋を隅々まで眺めて見る。それを数回繰り返して、私は自分が何を探しているのだろうかと、自分のこの動作を不思議に思った。居間に誰かいる筈も無いのに。何でそんな事をと思うと我ながら可笑しくなった。
くすくすと、自分の事を自ら笑いながら、私が居間に足を踏み入れて行くとちらりと廊下の入り口で動く物が有った気がした。宙空に誰かの服の一部が見えた様な気がしたのだ。誰かいるんだろうか?、私は足を止めた。眺めると廊下の方はシンとした様子で、私にはそこにいる、誰というものの気配を感じ取る事が出来ないでいた。気のせいだったのかと思い直し、私はまた自分の歩を進め始めた。が、私はやはり廊下に何かしらの声らしい音を聞き取り身を固くした。
じいっと耳と目を澄まし、私は居間から廊下へと入る、影の差す長方形の暗い空間に意識を注いだ。そこには私の未知のものがいるようだ。『音や気配に覚えが無さそうだ。』、そう考えると、私に予想の付かない出来事がそこで起こっている気配を私は感じ取った。誰か、人というより何かしらの動物がそこにいる様にさえ私には思われる。『何か、動物が廊下に潜んでいるんだろうか?。』そんな風にも私は考えていた。犬だろうか、動物園で見た猿の様な獣だろうか、正体の分からないものの気配に、私はブルっと身震いした。
その時、もう戻っておいで、と、女の人の声が掛かるのが遠くから小さく聞こえた。トントンと軽く足音の様な振動が伝わってくる様子だ。何かしら、廊下のこちら側いた正体不明のものは女性の声がした廊下の先へと去った様だ。こちらの廊下には何等不安を感じとる様な気配が無くなり、私の胸はホッとした安堵の気持ちに満たされた。緊張感が溶けて気分が明るくなり、私は自分の身が軽くなったのを感じた。