急にピシャっという音と、どん、どすん、という大きな音がした。それは何か物がぶつかり床に落ちる様な音だった。恥を知りなさい。という甲高い声。お前は、小さい子に…。具合が悪いと知っていたでしょう。と言う女性の声。でもでもと言う、取り乱した別の女性らしい声が聞こえて来た。この人がさっき、元気になったって言うから…、心配ないと言う話だったもの。最後は怒った様な声になっていた。
「この人⁉︎」、びっくりした声だ。祖母の様だ。廊下では一体何が起こっているのだろうか?。少なくとも、穏やかな話の場ではない様子だ。私は思った。
「何ですかその態度は、」
私の推し量れない女性達の声だ。「そんな調子では今日の晩御飯は抜きにしますよ。」へー、何処ぞのお上さんと女中さんかしら。そんな感じだと私は思った。そうして私は、そろそろこの廊下の喧騒に聞き耳を立てるのは止めようと思った。女中さんが、お上さんの権力任せに叱られているのだと思うと、使える身の不憫さを感じ、責められている女性が気の毒になったのだ。
私はそれ以上廊下の話を聞く事が厭わしくなった。『大人の話だ、子供の私が聞いてもどうせ分からない。』。そう自分を言い包めると、私は態と廊下から注意を背けた。