実際、先程迄、私の指は私の意思通りに動いていたのだ。
『冷たい指でも、ちゃんと動いていたじゃ無いか。』
そう思うと、私は妙な緊迫感を感じてドギマギした。その奇妙な緊迫感は不安となり恐れと化すと、安定していた私の感情の堰を切って、私の胸の底から怒涛の如くにどうっと湧き上がって来る。
「違う、私の指は変じゃ無い!。」
私は焦ってそう叫んだ。と、クラッと立ち眩みの様な目眩を感じた。急激に目の前が真っ暗になって行く。が、私は、私を飲み込もうとして来るその闇に必死で堪えた。私は足を畳に踏ん張ると、クラクラ来る頭を振った。そうこうしながら、私は必死で闇に飲み込まれる我が身を持ち堪えた。が、ほっとしたのも束の間だった、直ぐにぐらっと上半身が揺らいだ。と思うと、私の平衡感覚は急激に崩れ、体全体が傾き、足元も覚束無くなった。到頭私は堪えようも無くドンと畳に倒れ込んだ。
…と思ったのだが、意識がはっきりして来ると、私の目の前には玄関と居間の間に渡してある仕切り、戸か壁の様な木造りの面が有った。横に目を移すと格子戸が目に入る。『目の前にこれ等が有るという事は…』、私は立っているのだ!、てっきり倒れたと思っていたのに。と私は嬉しい驚きをした。さぞや痛い思いをした事だろうと、私は自身が倒れた時の痛みを想像していただけに、倒れずに済んだ身の無事を知りほっと安堵した。
「何を騒いでたんだい。」
声に振り向くと、私のすぐ後ろには祖母が鎮座していた。「お祖母ちゃん⁉︎」、私は意外に思って少々驚いた。てっきり彼女は未だ廊下の先にいると思っていたからだ。