Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 73

2020-11-17 11:46:47 | 日記
 それからの祖父は、「家の物は皆何をしているんだろう?。」、そう不思議そうに呟いた。
 
 主や内の子供がこんな状態になっているというのに、誰一人見にも来ないとは…、一体この家はどうなっているのだろう。そう静かだが不満げに呟いた。私は祖父を見上げていたが、お祖父ちゃんと言って声を掛けた。しかし、祖父の方は私の声に全然気付かない様子だった。
 
 声が聞こえないのだろか?私は不思議に思ったが、その後も数回彼に対して声掛けしてみた。が、全く祖父は私の声が耳に入らない無い様子だった。私はじれったくなり、自分の体を動かしてみる事にした。すると、祖父がおやっというようなそぶりを見せた。
 
 「お前、生きているのか!。」
 
そんな事を彼が言う物だから、私は手短にうんと答えた。こくりと微かに首も動かした。すると祖父は非常に驚いた顔付きをした。彼はえーっと、ビックリ仰天したと言ってもよい位の反応をした。そうして、バタバタと私の視界から彼の顔が消えると、私はゆらゆらどんどんとした振動を、自らの体に感じた。そこで地震かしらと思ったくらいだった。
 
 私が自らの視界や体の感覚でよくよく自身の現在の状態を把握してみると、私は階段の中程よりやや上の階に近い場所に身を置いていた。先程祖父といた場所とは違う位置だ。あれっと、如何も腑に落ちない。祖父の態度もそうだが、自身の身の置き様も腑に落ちなかった。怪訝に思うばかりで、呆気に取られている私に、祖父は階下から話掛けて来た。
 
 「おーい智ちゃん、生きているんだね。」
 
ああん、と、私は祖父は何を言っているのだろうと不思議がるばかりだった。すると、祖父は言葉を繰り返すので、云、そうだよと私は答えた。
 
「お祖父ちゃん、変な事ばかり言うんだね。」
 
如何したの?、何かあったのと私は尋ねた。すると私が見詰めている祖父はポカンとした感じでいたが、その内少々微笑んだ。頬など染めたりした。それから、うろうろと数回、行きつ戻りつ往復で歩き回っていたが、うんと覚悟を決めた様子で階段を上って来た。私の傍に来ると、祖父は
 
「智ちゃん良かった、」
 
良かった、良かった、そう言って笑顔で喜んだ。そうしてはははと笑い声等洩らすと彼は急に静かになり、しみじみとした感じで感涙にむせんだ。
 
 ややあって、ああよかった、お前は実に運のよい子だな、あんなひどい落ち方をして助かるとは、と祖父はやや朗らかに言った。私は祖父が、一喜一憂、何を1人でこの様に歓喜しているのか全く分からなかった。目を細めた彼の顔を只々見詰めているばかりだった。
 
 そうして、そうかと思い当たった。『如何も祖父は変なんだな。』、変な人なのだ!。こう思った。そこで、妙な物を見るような眼で自然祖父の顔を私は見詰めてしまう。何しろ、私にとっては訳の分らない事を、祖父はやはり私に言い続け過ぎた感が有ったのだ。この時の私には、訳が分からない、状況を把握できないという苛つきが確かに有った。無理にでも祖父を妙な人に決めつけて仕舞おう、そう決意した。
 
 すると祖父も、この私のわざとらしい、妙な物を見るという視線に気付いた。当然祖父は私のこの素振りを察知して怒り出した。お前、私の事を変な人間だと思っているだろうと言うのである。勿論、そうだよと私は答えた。
 
「だって、お祖父ちゃん、さっきから変な事ばかり言ってるんだもの。」
 
それは当然だろうと、私は不満げに口幅ったい事を彼に言った。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-11-17 11:28:21 | 日記

うの華 95

 『夢だろうか?』これは現実では無く、もしかすると夢という場合もあるかもしれない。私は頬を抓ってみようと思い頬に指を当てがったが、母の顔を見詰めながらこの場面をどう思いあぐねて......

 良いお天気が続きます。小春日和ですね。

 パソコンが、到頭壊れてしまっているようです。それでも、壊れたテレビ宜しくこの様に使えるというのですから、驚きです。私にすると、パソコンは精密機械だと思っていたので、少し調子が悪くなってももう駄目だと思っていました。それで、立ち上げの時に、パツパツ音が入るようになって、これは、何かのハッキングだろうか?と、インターネットのセキュリティ方面を心配していましたが、先週末、家の若者に診てもらった所、壊れているとの事。

 こういう音が出る時は、パソコンを使ってはダメだ、壊れるじゃないかと言われました。でも、立ち上げの時に必ず出る、出ないでパソコンを使えなかった。最初に音が出た時に言ってあると、こちらの言い分を言って、一緒に分解してボックス内を覗いて見ました。ボックス内の、メモリー版の静電気を飛ばすという程度の知識は、私にもあります。(過去に受けたパソコン基本講座のお陰です。)

 その後、駄目、壊れているから新しいのを注文するとの事、ホッとしました。古参品よさようなら。その内、完全に、この今のパソコンは使えなくなる日が来るでしょう。gooへはスマホや、他の端末からログインできますが、使い勝手がパソコン程よくありません。落ち着いて取り組めないんです。

 という訳です、今後記事アップが遅く成ったり、全く無い日が続く事が有るかもしれません。ご容赦くださいね。

卯の花3 72

2020-11-13 11:37:45 | 日記
 いやぁ全く驚いたなぁ、本当に。お前にこんな芸当が出来るとは。それもここ迄やるとは、なんともはやだ。玄人はだしというものだよ。大した役者も顔負けという物だ、何しろ階段から落ちて迄見せるというのだから、これは勲章物だよ。祖父はそう言うと、手等打ち鳴らして独り言ち始めた。

 「お前をここ迄に育てるとは、あれの手柄ばかりではあるまい、そうか、姉さんが上手くやってくれたんだな。これは、姉さんに金の一封も出さないといけないなぁ。」

彼は首を捻り捻り、片手の拳を彼の顎に当てがいながら、夢中になって喋っていたが、何時しかとんとんと階段を降りて仕舞い、階下の畳の上を小さな円を描くようにしてうろうろと、小刻みに歩き回りながら大層感心して、頷きながら、云、上手い、なかなか、等、はしゃいで喋っていた。

 それから足を止めると、彼は斜めに私を見上げ、不審そうな視線を私に対してぶつけて来た。何だろうか?。元より何も分かっていない私の事だ、祖父のこの様な思わせぶりな言動が何を意味しているのか皆目分からない。目をぱちくりさせて彼を見下ろすばかりであった。

 「智ちゃん、お昼になったら呼ぶから、その儘2階で休んでおいで。」

祖父が徐に言うので、ああと、私はお昼ご飯が貰えるらしいと思った。『それは良かった!。』。私は台所から来る廊下での父や、最前の祖父の言葉から、お昼ご飯は無いと思っていたのだ。その為、今祖父から自分に向けて掛けられたこの言葉に対して、極めて嬉しく感じた。『お昼ご飯が食べられる!』、にこにことして手を打ちならし、笑顔が溢れた。

 すると祖父は、ここで私同様に明るくにこやかな笑顔を浮かべた。彼のそれは我が意を得たりという様な感じであった。「お腹が空いていたんだなぁ、それでか。」、そう彼は呟いた。「窮すれば通ずだ。一寸した、そんじょそこらの子供には出来ぬ芸当だと思ったよ。」。彼はふふふとほくそ笑んだ。「飢えだよ、飢えがお前をこんな上流の役者にしたんだよ。」。

 静かにしているんだよ。そう祖父は言ってから、「姉さん、姉さん…、四郎はいないのか。」と、台所に聞こえる様に居間の向こう、廊下へ向かって開け放されている戸口の向こうに向かって、彼は大きな声を掛けた。私の方は、2階の寝室に向かおうと体の向きを変え、次の階段に手を伸ばした。私の背中越しに、皆何処に行ったんだろうという祖父の怪訝そうな声が聞こえていた。 

 「静かにしておいでといっただろうに。」

見上げると、私の目に祖父の顔が映る。何時の間に祖父は私の顔の上に自分の顔を持って来れたのだろう?。私はそんな疑問を持った。

「冗談だったらなぁ。」

これが冗談だったらよかったのに。冗談にしておいてくれたらよかったのになぁ。祖父は元気の無い顔付きで、ぽつぽつとこう私に語り掛けていた。それは彼の独り言の様にも私には取れた。 

卯の花3 71

2020-11-13 10:47:52 | 日記
 すると祖父はフフッと笑って、私も落ちぶれたものだな、こんな小童に案じられるとは、と独り言の様に語った。

 私は、祖父の言葉が少し分かったような気がしたが、その言葉の前後の脈絡という物がさっぱり理解できなかった。私は彼を見詰めた儘黙っていた。

「何か言っておくれ。」

祖父は私に語り掛けて来た。何か言ってくれないと、その儘になったのかと思うからね。そんな事を微笑みながら、穏やかに彼は私に言うのだ。「人のこういう場面には、過去に何度か会っていてね。」、ぽつりぽつりと、祖父は他人事のように淡々として静かに話し出した。特に国同士の争い事では、そりゃあ多かったものだ。もう出会いたくないと思い、そう思っていたが、つい最近もあってね。新しい物は記憶に鮮明だ。…あれからもう、15年は経つのか。そんな事を言った彼は遠い目を伏せて顔を曇らせた。祖父は再び、何か話しておくれと私の言葉を促した。『何を言おうか…。』、私は考えた。

 「さっきね、お祖父ちゃんが階段の下に行った時、」

私は始めた。おうと祖父はほっとした様子で相槌を打った。

「お祖父ちゃんとお父さんが似ていると思った事が有ったの。」

親子仲良く、夫婦仲良く、家族仲良く、そんな言葉が日頃の合言葉のような我が家の事だ、父と祖父が似ているという話題は、祖父を喜ばせる筈だと私は思った。が、しかし、祖父はハッとした顔付になり、思わず「な、何を言うんだ。」と、小さく言葉を口から洩らした。それでも祖父は私の傍で私の顔を見詰めていたが、何故そんな事をと、言うと、「何時、どんな所でだい?、私は暫くの間下にいただろう。」と私に問いかけて来た。

 私は、その時の場面を脳裏に思い浮かべてみる。祖父が同じ位置で足を数歩動かし、怯んで沈んだ様な面持ちでいた顔付きや、会釈して礼などする様が、父のその様な顔付の時の、彼がした挙動と重なったのだと答えた。祖父は苦しそうな、眉間に皺を寄せた顔付をしていたが、

「お前、嫌な事を言うなぁ。」

と、嘆息めいて言った。

 「私が、あそこで佇んでいた時にかい。」

祖父は自分の行動を思い出そうとしたらしく、私から視線を外すと、階下の先程自分がいたらしい位置を見下ろした。

「お前の傍に行こうとして、実はお祖父ちゃんは足が竦んでいたんだよ。」

如何にも足が動かなくてな、漸く動いたと思ったが、お前が身動きしないで、…お前の動かない目だけがこちらを見ていたものだから…、祖父は身震いして言い淀んだ。

 「そう、あれだよ。」

「もう、その、息が無いのかと思ってね。」

一寸はにかんだような感じで、祖父は頬を染めて無理に笑顔を浮かべると言った。

 『息が無い。』。幸か不幸か、私はこの言葉を知っていた。私の小さな交際範囲の中で、金魚が、小動物が、もう息が無い。そう聞く事が数回有ったからだ。そこで私は、この時祖父の言葉を理解出来たのだ。

「嫌だな、お祖父ちゃん、」

私は眉根に皺を寄せて言った。

「生まれて間もない私だもの、未だ死ぬには早いよ。」

ほんとに冗談が、お祖父ちゃんの方が過ぎるよと。祖父が全く冗談を言っているのだと私は思っていた。祖父が未だ微笑んでいたので、私も彼に合わせてふふふと笑った。

 すると祖父は、目を瞬かせておやっという様に身じろぐと口を開いた。「お前」、そうかと頷くと、これも冗談なのかと彼は言った。いやぁ、参ったなと彼の様子は一気に緩んだ風情になり。その場の空気が軽く和んだ事を私は感じ取っていた。


卯の花3 69

2020-11-10 12:02:13 | 日記
 さて、階段に1人取り残された形になった私は、父に言われた上に祖父に迄も言われたのだと、ふうっと溜息を吐いた。そうして、では2階に上ろうかと体の向きを変えて階段の方に私の腹を付けた。

 片手で階段の縁を掴み、もう片方の手を伸ばすと、私は上の段に手を載せ、自分の足を踏ん張ってみる。そうやって一足毎に階段を上がって行く体制を整えた。上の段に片足を上げて見る。その足に力を込めてうんと踏ん張ると私の体は上の階に上がった。[良かった。』、私は思った。何となく、台所から始まって自身の体の不調を感じていたが、これで思い違いだったのだろうと私は考えを変えた。私は元気だ、疲れていたのだろう。

『やれば出来るじゃないか!』

これこの通り。そう自分自身納得しながら、私は次の2段目に取り掛かった。足に力を入れると、こちらの階もクリア出来た。私は更なる自信を深めた。では、3段目に…。

 そう思っていた矢先、「大丈夫なのか。」と祖父の声が私の身近でした。あれっと思い、私が声の方向に顔を向けると、そこには如何いう物か祖父の姿が有った。先程と同様だ。私の横、階段に祖父は彼の身を持たせかけていた。全く先程と同じ彼と私の間合い、状態になっている。時が戻ったのかと私は錯覚したくらいだ。

 私はおやおやと意外であり不思議に思うのだが、この現在の状態にさして大した考えは浮かんで来なかった。

「智ちゃん、大丈夫かい?。」

そう祖父が私の顔を見詰めて尋ねて来るので、私は反射的に「大丈夫。」と答えた。大丈夫じゃないと思うがなぁと祖父。そうして彼は、私にお前具合が悪いんだろうと訊くので、私は具合は悪くないと答えた。すると祖父は極めて深刻な顔付きをした。

 「いや、お前は具合が悪いんだ。」

祖父は言うと、危ないなぁと呟いた。どこか痛むかい、頭は?と真面目な顔で祖父が言う物だから、私は彼が酷く取り越し苦労をしていると思った。私は唯階段を上っているだけなのに、祖父は何をそう深刻に心配しているのだろう。そこで私は、「嫌だなお祖父ちゃん、私は元気だよ、具合は悪くない、階段を登っているだけだよ。」と言うと、彼は落ちただろうと言った。

 「お前階段から落ちただろう。」

そう、彼が私には腑に落ちない事を言うので、私はやだなぁと彼の真面目な様子を可笑しく感じた。お祖父ちゃんはまた冗談を言っているのだ、と私は思い、にこやかにはははと笑うと、「唯階段を登っていただけなのに、具合が悪くなるなんて、そんな事無いよ。」と言うと、私の声は妙に口の中にこもり、頭の中に反響する様に感じた。祖父の顔が更に眉を寄せるので、私は彼を安心させ様と、はははははと闊達に元気に笑った。私の頭の中にもう1人自分がいて笑っている様な感じだ。すると祖父は口を閉じた。

 絶句した彼の目は、私には普段より小さく見えた。小さな目をした儘で、祖父は私を見詰めた儘後退るようにして数歩階段を降りた。が、私が静かに見つめていると、彼は思い立ったという様な顔付をして頷き、私に対して軽く会釈をすると、数歩覚束な気に足を動かした。そうして緊張した足取りでそろそろとまた私の傍迄登って来た。この時の私は、祖父の会釈した顔付や雰囲気が、私の父のそれと似ているなぁと、そんな事をぼんやりと感じていた。