Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

卯の花3 69

2020-11-10 12:02:13 | 日記
 さて、階段に1人取り残された形になった私は、父に言われた上に祖父に迄も言われたのだと、ふうっと溜息を吐いた。そうして、では2階に上ろうかと体の向きを変えて階段の方に私の腹を付けた。

 片手で階段の縁を掴み、もう片方の手を伸ばすと、私は上の段に手を載せ、自分の足を踏ん張ってみる。そうやって一足毎に階段を上がって行く体制を整えた。上の段に片足を上げて見る。その足に力を込めてうんと踏ん張ると私の体は上の階に上がった。[良かった。』、私は思った。何となく、台所から始まって自身の体の不調を感じていたが、これで思い違いだったのだろうと私は考えを変えた。私は元気だ、疲れていたのだろう。

『やれば出来るじゃないか!』

これこの通り。そう自分自身納得しながら、私は次の2段目に取り掛かった。足に力を入れると、こちらの階もクリア出来た。私は更なる自信を深めた。では、3段目に…。

 そう思っていた矢先、「大丈夫なのか。」と祖父の声が私の身近でした。あれっと思い、私が声の方向に顔を向けると、そこには如何いう物か祖父の姿が有った。先程と同様だ。私の横、階段に祖父は彼の身を持たせかけていた。全く先程と同じ彼と私の間合い、状態になっている。時が戻ったのかと私は錯覚したくらいだ。

 私はおやおやと意外であり不思議に思うのだが、この現在の状態にさして大した考えは浮かんで来なかった。

「智ちゃん、大丈夫かい?。」

そう祖父が私の顔を見詰めて尋ねて来るので、私は反射的に「大丈夫。」と答えた。大丈夫じゃないと思うがなぁと祖父。そうして彼は、私にお前具合が悪いんだろうと訊くので、私は具合は悪くないと答えた。すると祖父は極めて深刻な顔付きをした。

 「いや、お前は具合が悪いんだ。」

祖父は言うと、危ないなぁと呟いた。どこか痛むかい、頭は?と真面目な顔で祖父が言う物だから、私は彼が酷く取り越し苦労をしていると思った。私は唯階段を上っているだけなのに、祖父は何をそう深刻に心配しているのだろう。そこで私は、「嫌だなお祖父ちゃん、私は元気だよ、具合は悪くない、階段を登っているだけだよ。」と言うと、彼は落ちただろうと言った。

 「お前階段から落ちただろう。」

そう、彼が私には腑に落ちない事を言うので、私はやだなぁと彼の真面目な様子を可笑しく感じた。お祖父ちゃんはまた冗談を言っているのだ、と私は思い、にこやかにはははと笑うと、「唯階段を登っていただけなのに、具合が悪くなるなんて、そんな事無いよ。」と言うと、私の声は妙に口の中にこもり、頭の中に反響する様に感じた。祖父の顔が更に眉を寄せるので、私は彼を安心させ様と、はははははと闊達に元気に笑った。私の頭の中にもう1人自分がいて笑っている様な感じだ。すると祖父は口を閉じた。

 絶句した彼の目は、私には普段より小さく見えた。小さな目をした儘で、祖父は私を見詰めた儘後退るようにして数歩階段を降りた。が、私が静かに見つめていると、彼は思い立ったという様な顔付をして頷き、私に対して軽く会釈をすると、数歩覚束な気に足を動かした。そうして緊張した足取りでそろそろとまた私の傍迄登って来た。この時の私は、祖父の会釈した顔付や雰囲気が、私の父のそれと似ているなぁと、そんな事をぼんやりと感じていた。

卯の花3 68

2020-11-08 16:56:55 | 日記
 「お祖父ちゃんは…、長く生きて来て、…商売も上手いし…。」

如何いったらよいのだろうか、私は未だ自分の言いたい事がよく分からず悩んでいた。

 「お金だって沢山儲けたんでしょう。」

思わずポツリと言ってしまった。その為私は言い訳の様に、祖母がそう言っていたと付け足した。

「お祖母ちゃんだって、お金を沢山持っているし、…。」

美人だし…。そう話を続けながら、私は頭の中で自分が本当は何を言いたいのかその答えを見つけようとしていた。そうして答えが見つかったなら、何とか自分の話を上手く纏める方向へと導いて行きたかった。

「お祖父ちゃんは、良いお嫁さんを貰って、…。」

しかし話すに連れ、私の話は益々収拾が付かなくなってしまった。私は思わず瞼を閉じるとげんなりした。我ながら顔に出たなぁと感じた。

 祖父の方はと言うと、あれがそんな事を、お前にね、話したのかいと、おやまぁという様な、やや意外そうな顔をしたが、彼は落ち着いていた。そうして、やや間を置いてから未だ話の筋道が立たない私に、あれは今は、…そう持ってもい無いと思うがなぁ。と感想めいて言った。

「そう、あれは、お祖母ちゃんはもう金持ちじゃないと思うが。」

そう祖父は、はにかむような笑顔を私に注ぐと優しげに語りかけた。私にはこの祖父の言葉は意外だった。祖母が私に嘘を吐くとは思えなかったからだ。そこで、えっと驚くと、でも、お祖母ちゃんは私にそう言っていたと祖父に訴えた。

「お祖母ちゃんが嘘を吐く事は無いでしょう。」

しかも孫の私にと。だから彼女はお金が有るのだ、それも彼女の言葉を借りると、膨大にだ。「膨大」な、「蓄え」、そういった言葉を祖父に伝えてみる。すると祖父は喜ぶどころか顔を曇らせた。お前にそんな事を言ったのかい、あれがと、彼は機嫌を損ねた雰囲気になった。祖父は一旦私から顔を背けて、向こうを向き何か考え込んでいる風だったが、再び私に向き直ると、祖父の眉間には青筋が立ち、目も尖らせていた。

 私にはこの祖父の顔に現れた感情の変化もまた意外だった。祖母の難しい言葉を覚えて話した事や、商売人である祖父に蓄財が多くあるという話題は、彼に喜ばれ、その話自体が孫の私の彼に対する追従になると思っていたからだ。

 『今は無い』、そう言えば、お祖母ちゃんもそう言っていたかなと、如何やら私はここで肝心な事を思い出した様だ。そこで祖父にそう言うと、ほれごらんと祖父は微笑んだ。

 でも、昔は有ったんでしょう、お祖母ちゃんにも。そう私が話を蒸し返すと、祖父は再び機嫌を損ねた様子で、もうこれ以上はあれの話はいいと一言いった。

「お前それだけ口が回るなら、心配する事は無いな。」

祖父はそう言うと、「2階に行って寝なさい。一人でも大丈夫だったな。重たくなって、私はここまでお前を運んでくるのがやっとだった。」そう言うと、後は姉さんに任せるよと言い捨て、彼は階段から離れ居間へと向かって行った。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-11-08 16:38:14 | 日記

うの華 94

 こんな返事が戻って来るとは、親が自分の子を嫌いだなんて!。この時の私は確かに驚いた。「私が嫌いなの?!。」私にとっては、自分が人に嫌われているという事自体が思いも掛けない......

 今日の日曜日は、まぁよいお天気でした。青空が覗く時もあり、気温もそう寒く無く過ごしやすかったです。
 昨日からカニが店頭に並び始め、私も今日買ってきました。カニ殻を剥くのが大変、昼前に買って来て、昼食後に茹でて、1杯剥くのに今まで掛かっていました。ラジオを聞きながらのんびり作業していましたが、ラジオの話題はコスプレの話。ハロウィンから今日迄、仮装を引きずっている感じです。今はやりの鬼滅の刃や、古今の人気アニメの話題が多かったです。ニュースはアメリカの大統領選の話題等。
 もう夕刻、この後は晩御飯の支度が待っています。もう少し一休みしてからかな。努力の結晶の、剥いたカニが楽しみです。若者はお肉ね。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-11-07 11:43:54 | 日記

うの華 93

 「お前なんか、…。」母は憮然として言って言葉を切った。彼女はそのまま言葉を飲み込んだ儘黙って私から顔を背けた。 裏庭に向き直った母は不機嫌な様相で黙りこくっていた。そ......

 曇り空の土曜日。午後は雨になりそうです。寒くなりそうですね。

 さて、外の様子を眺めると、もう雨が降ったようです。道路が濡れています。今の時期は時雨の時期という物でしょうか、一雨ごとに寒くなるのでしょうね。11月は晩秋という事でしたから、のんびり散歩できる日もあと少しでしょうか、段々と外気の冷えを感じる侯ですね。

 こんな時節、何年も前に母と姪の学校祭に行きました。お天気は晴れから曇りといった感じでした。日差しが途切れると冷えて寒く感じました。その後、再びお日様が出ても、私には直ぐに暖かさを感じられませんでした。歳だなぁと思ったものです。
 大学の学校祭だけに若者が多く、熱気あふれる場所でした。それでも私には寒く感じる時があり、濡れた枯れ葉の香り、足元の湿り気に晩秋の季節を感じたものです。冬も近いなぁと、あまり冷え込まない内に駐車場の車に戻り、帰り道の車中で日差しを感じると、ほっとして、(学際)よかったねと母と共に帰宅して来たものです。

卯の花3 67

2020-11-06 09:53:15 | 日記
 この世界に生まれ出て未だそう間もない私だもの。この世を長く過ごして色々な経験を持った大人の祖父や父、他の我が家の家族やこの世の中の様々な人々は、当然こういった祖父の物言いや遣り取りに、さも当然、当たり前の様に何かを察する事が出来るのだろう。

 そう考えると私は、階段の上で1人疎外感を覚えるのだった。私というちっぽけな存在は、この世で未だその生活に馴染め無い。私はぽつんとした塊のような個としての自分を感じた。私の目の前に存在する、水の流れる様な流体として感じる世界、この世での流れの中で、様々な経験を経て、この水の流れに慣れ、馴染み、すっかり溶け込んで、流体の中に違和感なく存在している祖父や大人の人々を感じると、私はその未だ塊として溶け込んでいない自分と、無常な世の流動的な強者達、今その代表として私の目の前にいるのは祖父だが、その差や隔たりを、私は自分の目の前の祖父との空間に感じ取った。何時しか私の胸の内には虚ろな洞窟が穿かれ、そこに吹き込む清涼感を私は1人感じていた。私は階段の木の板の上に腰かけているのだ。己が尻の下の材質を感じその木肌を想像しながら、私は1人この階段に腰かけている自分の姿を連想した。

 「お祖父ちゃんは、この世に馴染んでいるね。」

私はおずおずと言った。

「私は未だこの世に馴染んでいないから…。」

自分でも自分の言いたい事がよく分からなかった。自分は何を祖父に言いたいのだろうかと思った。

『私は何が言いたいのだろうか?。』

そう自ら自問した。