「言葉というのは常に舌足らずなものですから、必ずそれを補う必要があります。そのために必要なのは何でしょう? さあどんどん意見してください。はい、君」
「雨です」
「その根拠は何ですか?」
「……」
「ないんですか。適当に言ってみたのか。確かに雨は情緒があります。耳を傾けてみたくなる時もあります。でも、だんだん強くなってきますね。傘をさしていても手に負えないような、強い雨。もう、何も聞こえなくなって、みんなかき消してしまう。雨には抑揚が足りません。えっ、椎茸?」
「いい出汁が出ます」
「そうですね。椎茸は非常にいい出汁が出ます。だけど、ちょっと考えよう。言葉を補うには個性がありすぎる。それが大問題。子供が逃げていきます。あなた椎茸が好きなの。へー。はい、次は」
「ギター」
「そうですね。音楽は大きな力を持っています。認めます。ギターが喜怒哀楽を表せるということも知っています。それでもそれは人を選びます。好きな人の胸には深く響くとしても、そうでない人にとっては全く響きません。むしろノイズです。あなたギター弾けるの」
「今、練習中です。日に2時間くらい」
「へー、そう。それで、車?」
「車。どこ行くんですか? 逃げるんですか?」
「口車に乗るとか言うし」
「それはもう悪い方に向かっています」
「電気自動車」
「ちょっとどうでしょうか。何かどんどん離れていっているように感じますが……」
「銃で補います」
「みんな消してしまえって? それはもうあきらめでしょう。デリートキーを連射するようなものです。誰ですか? 今の意見は。帰った? はい。銃では言葉は補えません」
「タヌキ」
「どうしてタヌキだ! どうしたらそうなりますか。騙されますよ。藪をつついて蛇を出すようなもんだ。悪い蛇ばっかりじゃない? 蛇にいいも悪いもありません。人とは違うんです。タヌキは論外!」
「キタキツネ」
「はい。他には?」
「言葉です。言葉で補います」
「そう。その言葉を待っていました。言葉は言葉によって補うもの」
「ラムネ」
「トランプ」
「クマのプーさん」
「チョコバット」