昔々、あるところにつじつまを合わせるのが上手な若者がいました。人々は彼のことを、つじつま合わせのよっちゃんと呼んで、頼りにしました。
ある日、街で難事件が発生してたちまち大混乱に。どんな名探偵も手に負えないという事件でした。手がかりは1つとしてみつからないのに、容疑者ばかりが多すぎるのです。そこによっちゃんが駆けつけると、ぴたりとつじつまが合いました。
「さすがはよっちゃんだね!」
「よっちゃんが来た途端につじつまが合うんだから」
「よっちゃんがいてくれてよかった」
よっちゃんにしてみれば、そんなことは朝飯前でした。
ある日、街で大喧嘩があった時のことです。どんな力自慢の男がいたとしても、まるで喧嘩を止めることができません。発端がわかってないことに加え、あまりに声が大きすぎて近寄ることも困難だったのです。そこによっちゃんが駆けつけると、ぴたりとつじつまが合いました。
「やっぱりよっちゃんは違うね!」
「簡単につじつまが合うなんてね!」
「よっちゃんありがとうね!」
よっちゃんにしてみれば、ただ普通のことをしただけです。
ある日、街で山火事があった時のことです。街の消防団だけでは手に負えず、隣の街、隣の隣の街から次々と応援が呼ばれました。けれども、三日三晩経ったあとも、まるで火の勢いは衰えることがありませんでした。そこによっちゃんが駆けつけると、風向きが変わってぴたりとつじつまが合いました。
「よーっ! 待ってました!」
「さすがは千両役者!」
「あなたの貢献を称えます」
ある日、街に大きな熊が出た時のことです。熊は大きな口を開けて不満を訴えていました。この野郎英語がしゃべれるのか? フランス語もしゃべってるぞ! 人々は熊の言うことが理解できず、押すことも引くこともできずおろおろとしていました。そこによっちゃんが駆けつけると、熊は訴えを取り下げぴたりとつじつまが合いました。
「またしてもよっちゃんだ!」
「よっちゃんにかなうものなしだ!」
「よっちゃんおつかれ!」
よっちゃんは、人々のために自分の才能を使うことを、少しも惜しみませんでした。そんなよっちゃんも、忙しい日々の中で、旅をして、友を作り、人並みに恋をすると、天国まで手を取り合って生きていく約束をかわしました。
結婚式の日、大きな会場にはよっちゃんを慕う大勢の街の人々が集まっていました。けれども、いつまで待ってもよっちゃんは現れません。そして、とうとう会場が閉鎖する時刻が近づいてきました。
「ちくしょーっ!」
「どうしてなんだ? よっちゃん……」
「他人のつじつまばかり合わせやがって自分はほったらかしかい」
人々は待たされすぎて取り乱していました。よっちゃんの不在に乗じて心ないことを言う者もいました。あきらめかけた人が席を離れようとしたその時でした。巨大なスクリーンによっちゃんの顔が映し出されました。
「みなさんこんにちは!」
人々は驚いてよっちゃんの言葉に耳を傾けます。
「これはあなたのみている夢です」
「えっ? 何?」
「どういうこと?」
突然の告白を、誰も容易に受け入れることはできません。つじつまにしがみつきたい人は、画面の前で固まってしまいました。
「私は独り独りの夢の中にいます!」