そこであなたは暮らすことにしました。
あなたは、今までのところ一人で、今も一人でした。
あなたの家はどんな間取りですか?
そうです。あなたの住むのは2階です。
あなたの家には天井はあるけど、壁はありませんね。
とっても風通しがよい作りです。
視界を遮るものは何もなく、どの方向だって見渡すことができるのです。
あなたは、その借家がとても気に入ったのですね。
物が落ちないように、安定的な配置を心がけなければなりません。
あまり端の方に置いて、落ちてしまったら大変です。
勿論、あなただって、あまり端の方で眠って万が一落ちることがあったりしたら、あなたは死んでしまうでしょう。
常に緊張感を持って生活することは、きっとあなたの望むことでもあったのでしょう。
時々、鳥たちが羽根を休めに、あなたの家にやってきます。主に、あなたがいない時にやってきますが、だんだんあなたがいても鳥たちはかまわないようになってきました、あなたは徐々に受け入れ始めているのでしょうか。
あなたは強い風と、横殴りの雨をとても恐れています。これからやってくる冬のことも……。
天井だけは、何の支えもないのに不思議と落ちてくることはありません。
あなたの家の下の方には、古い作りの家があり、瓦屋根が見えています。
広い庭、褐色の縁側、軒先からぶら下がっている干し柿を、犬が背伸びしてくわえようとしているところを、あなたは一度見たことがあります。
特にそのつもりはなくても、下の家はあなたの目に自然に映る家でした。
気をつけていたのに、あなたはとうとう落としてしまいます。
転がり始めたスーパーボールはとめどなく転がり続けて、下の家の庭の方へてんてんと落ちていきます。
赤や青や緑や黄色やピンクや水色や水玉や黄緑や紫や半透明のスーパーボールは、まるで向日葵の作り出した影の下で水浴びをするうさぎのように陽気に弾んでいき、あなたはそれを手で止めようとするのだけれど、あなたの手が触れたのはその時夜の方向から射し込んできたような優しく赤い光の橋だったのです。
どれくらいそうしていたかわからない時間、あなたは赤い帯に触れながら、とめどないスーパーボールの流麗なジャンプを見送る人でした。
スーパーボールは、あなたの本棚の一番上の高く見えない場所から途方もなく、打ちひしがれたシャムネコの涙のように湧いてきました。
その時あなたはまだ大丈夫でした。
てんてんと庭中に転がったスーパーボールをババアがあなたの顔面に投げ返してきます。
あなたの手は夕焼けに捕獲されたままなので、あなたは顔だけでそれを避けなければなりません。
ババアは、正確にあなたの顔面に狙いを定めて投げつけてきます。危険。危険。
あなたは、右へ左へ顔を振ってスーパーボールを避けます。紙一重のところでかわしています。
けれども、ババアの投げつけるそのスピードに、その間隔の短さに、あなたは徐々に気圧されていきます。
右へ左へ顔を振って避けても避けても、正確な攻撃は少しも停滞することもなく、それどころかババアの投げつけるスーパーボールは、魔法がかったハンターのように喜々としてあなたの面を求めて迫ってくるようです。
ババアは、きっと見開いた目をあなたに向けて、その動作には一切のよどみもありません。
あなたはもう息もできません。
いつ終わるとも知れないババアの攻撃の中で、あなたの中に芽生えた後悔は何ですか。
あなたは目を閉じてしまいました。
*
「ねえノヴェル。天井は、上から吊ってるのかな?
壁がまるでないなんて、大変な家だね。
ねえ、ノヴェル」
マキは、ケータイの中に映る間取りを覗き込みながらつぶやいた。
「あなたは住みたいですか?」
無言を貫き通していた猫は、その時、寝返りを打った。
あなたは、今までのところ一人で、今も一人でした。
あなたの家はどんな間取りですか?
そうです。あなたの住むのは2階です。
あなたの家には天井はあるけど、壁はありませんね。
とっても風通しがよい作りです。
視界を遮るものは何もなく、どの方向だって見渡すことができるのです。
あなたは、その借家がとても気に入ったのですね。
物が落ちないように、安定的な配置を心がけなければなりません。
あまり端の方に置いて、落ちてしまったら大変です。
勿論、あなただって、あまり端の方で眠って万が一落ちることがあったりしたら、あなたは死んでしまうでしょう。
常に緊張感を持って生活することは、きっとあなたの望むことでもあったのでしょう。
時々、鳥たちが羽根を休めに、あなたの家にやってきます。主に、あなたがいない時にやってきますが、だんだんあなたがいても鳥たちはかまわないようになってきました、あなたは徐々に受け入れ始めているのでしょうか。
あなたは強い風と、横殴りの雨をとても恐れています。これからやってくる冬のことも……。
天井だけは、何の支えもないのに不思議と落ちてくることはありません。
あなたの家の下の方には、古い作りの家があり、瓦屋根が見えています。
広い庭、褐色の縁側、軒先からぶら下がっている干し柿を、犬が背伸びしてくわえようとしているところを、あなたは一度見たことがあります。
特にそのつもりはなくても、下の家はあなたの目に自然に映る家でした。
気をつけていたのに、あなたはとうとう落としてしまいます。
転がり始めたスーパーボールはとめどなく転がり続けて、下の家の庭の方へてんてんと落ちていきます。
赤や青や緑や黄色やピンクや水色や水玉や黄緑や紫や半透明のスーパーボールは、まるで向日葵の作り出した影の下で水浴びをするうさぎのように陽気に弾んでいき、あなたはそれを手で止めようとするのだけれど、あなたの手が触れたのはその時夜の方向から射し込んできたような優しく赤い光の橋だったのです。
どれくらいそうしていたかわからない時間、あなたは赤い帯に触れながら、とめどないスーパーボールの流麗なジャンプを見送る人でした。
スーパーボールは、あなたの本棚の一番上の高く見えない場所から途方もなく、打ちひしがれたシャムネコの涙のように湧いてきました。
その時あなたはまだ大丈夫でした。
てんてんと庭中に転がったスーパーボールをババアがあなたの顔面に投げ返してきます。
あなたの手は夕焼けに捕獲されたままなので、あなたは顔だけでそれを避けなければなりません。
ババアは、正確にあなたの顔面に狙いを定めて投げつけてきます。危険。危険。
あなたは、右へ左へ顔を振ってスーパーボールを避けます。紙一重のところでかわしています。
けれども、ババアの投げつけるそのスピードに、その間隔の短さに、あなたは徐々に気圧されていきます。
右へ左へ顔を振って避けても避けても、正確な攻撃は少しも停滞することもなく、それどころかババアの投げつけるスーパーボールは、魔法がかったハンターのように喜々としてあなたの面を求めて迫ってくるようです。
ババアは、きっと見開いた目をあなたに向けて、その動作には一切のよどみもありません。
あなたはもう息もできません。
いつ終わるとも知れないババアの攻撃の中で、あなたの中に芽生えた後悔は何ですか。
あなたは目を閉じてしまいました。
*
「ねえノヴェル。天井は、上から吊ってるのかな?
壁がまるでないなんて、大変な家だね。
ねえ、ノヴェル」
マキは、ケータイの中に映る間取りを覗き込みながらつぶやいた。
「あなたは住みたいですか?」
無言を貫き通していた猫は、その時、寝返りを打った。