眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

急激なターン

2025-01-31 23:59:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに時間を持て余したおじいさんとおばあさんがいました。仕方ない、山に芝刈りにでも行くか。そう言っておじいさんは山に芝刈りに行きました。何を隠そうおじいさんは芝刈りの達人。知る人ぞ知る芝刈り名人だったのです。おじいさんと同等の実力を持つ者は、その辺の街にはいないとされていました。仕方ない、川に洗濯にでも行くか。そう言っておばあさんは川に洗濯に出かけました。おばあさんは山よりは川の方を愛していました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 おばあさんが一休みしていると、小舟に乗って桃が流れてきました。

ペッ♪

 おばあさんは、川につばを吐いて不満を表しました。桃はそのまま下の方に流れていきました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 続いて小舟に乗ってキャベツが流れてきました。

ペッ♪

 おばあさんは、またもやつばを吐きました。キャベツにしても、おばあさんの望むようなものではありませんでした。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 今度は小舟に乗ってメロンが流れてきました。小舟全体が黄金の光を纏っているように見え、おばあさんは思わず川から身を乗り出しました。ついにおばあさんの願うものが流れて近づいてきたのです。

「そうそうそれよ。もっとこっちにおいで」

 その時、小舟は小刻みに振動し始めました。あと少しというところで急激にターンすると、対岸に向かって進んでいきました。
おっとっと♪
 おばあさんよりももっと強く望む力が、向こう側から働きかけたのかもしれませんでした。おばあさんは我に返って洗濯を続けました。

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川辺の紙芝居

2025-01-31 00:39:00 | 桃太郎諸説
 昔々、まだテクノロージーが発達する以前の惑星には、おじいさんとおばあさんがいました。宇宙がはじまってまもなくすると、おじいさんは山に芝刈りに行きました。そこは昔らしく機械に頼らない手作業が必要で、大層体力を必要としていました。その頃、おばあさんは清く正しく川に洗濯に出かけていました。
 川辺にはおばあさんよりも先輩のおばあさんがいて、紙芝居の最中でした。周りにはたくさんの子供たちが集まって、紙芝居ばばあの声に耳を傾けていました。おばあさんは、紙芝居の邪魔にならないように、少し離れたところで洗濯を始めました。

「カメは真っ先に動き始めました。他の誰よりも早く動き出さないと勝負にならないとわかっていたからでした。ウサギは慌てることなくまずは準備運動から始めました。自分の力を出しさえすれば勝てるのだけれど、そのためには入念な準備運動が大切とわかっていたからでした。入念な準備運動の途中、ウサギはうとうととしはじめ、ついには眠ってしまいました」

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 その時、上流から流れてきた桃に気づく者は誰もいませんでした。
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河童の助け

2025-01-13 22:21:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに芝刈りに熱心なおじいさんと健やかなおばあさんがいました。おじいさんはいつものように山に芝刈りに出かけなければなりませんでした。わしの他に誰が芝を刈る者がおろうか。わしの他にいったいどこの誰が刈るじゃろうか。しばしおじいさんは考えてみましたが、おじいさんはわしをおいて他にないという結論に行き着くのでした。わしが芝刈りに費やした時間や努力といったものは、その報酬に見合うものだったろうか。とおじいさんはまた別の自問自答を抱えながら芝刈りに出かけて行きました。おばあさんは清く正しく川に洗濯に出かけました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 おばあさんが川で洗濯をしていたところ、上流から何やらかわいげなものが流れてきました。それはみるみる近づいておばあさんの足下にまでやってきます。まるで近づきたいという意志を持っているようでした。その時、対岸から小舟に乗った鬼が、まるでアスリートのような猛スピードでおばあさんのところへやってきたのです。

「わしが落としたものを知らん?」

 おばあさんは、咄嗟にそれを洗濯板の下に隠していたのでした。鬼が何かを落とすなどという話は、聞いたこともありませんでした。

「流れてこんかったと?」

「ええ、何も」

「本当と?」

 鬼は魔神のような形相でおばあさんを睨みつけました。その時、川底から突如出現した河童が鬼の足をさらいました。鬼はいなくなりました。おばあさんは心安らかに洗濯板の上にかわいげなものをのせました。

「これはいいデザートができた」
 おじいさんの喜ぶ顔が水面にも浮かんできそうでした。


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ガジガジ流

2024-10-12 21:21:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに山に芝刈りにばかり行くおじいさんと、健やかなおばあさんがいました。おじいさんは、毎日のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈ってばかりでした。これでもかこれでもかと刈り続けられては、普通ならば音を上げるようなところですが、芝はそれでも負けずに逞しく生えてくるのでした。「ほどほどにね」とおばあさんが言うとおじいさんは少し機嫌を悪くしました。「そんなこと言わんでもええ」ぼそぼそとおじいさんは言いました。「駄目とは言ってません。ほどほどに」おじいさんは黙って山に芝刈りに行きました。おばあさんは、清く正しく川に洗濯に行きました。
 おばあさんは、川に着くと洗濯物を広げました。風呂敷いっぱいの汚れ物です。汚れはどれもこれも頑固なものばかりで、まるで凝り固まった大臣のようでした。おばあさんは洗濯板に向かってゴシゴシと汚れを退治しました。ゴシゴシゴシゴシとまるで手を緩めることができません。ゴシゴシまだまだこりゃテコでも勝てんわ。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 その時、上流から何やら桃めいたものが流れてきましたが、洗濯に夢中なおばあさんは、勿論それに気がつきませんでした。

ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪

 気づいてもらわねばなきも同然。桃めいたものはそう思っておばあさんの気を引こうとしました。

どんぶらこ♪
どんぶらだぼーん♪
どんぶらこぼちゃーん♪

どんぶらこ♪
どんじゃらろーん♪
どんぶらじゃーん♪
こっちだどんぶら♪
どんぶらこぼちゃーん♪

どんぶらげ♪
どんぶらざんげ♪
こっちだばあちゃーん♪
どんぶらどろーん♪
どんぶらどんぶらどんぶら♪
どんどんどんどんどんぶーらぶら♪
どんどんどんどんどんぶらーぶらら♪
どんぶぶぶぶぶどんぶらこぼちゃーん♪

 そうしてリズムを変えながら、桃めいたものはおばあさんの注意を引きつけようとしたのでした。

ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪

 しかし、おばあさんは今はそれどころではありません。頑固な汚れ物にガジガジと食いついていました。何があっても決して離れない。強い決意が洗濯板の上に満ちていたのでした。おばあさんこそがガジガジ流の使い手だったのです。






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アスリートの介入

2024-08-17 15:47:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに太っ腹のおじいさんと絵に描いたようなおばあさんがいました。おじいさんは鬼のように山に芝刈りに、そしておばあさんは清く正しく川に洗濯に行きました。おばあさんは、しばし太っ腹じいさんのことを忘れ、洗濯に没頭していました。そうしているとおばあさんは瑞々しい魚のように自分らしくあることができるのでした。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 上流から美味しげなフルーツが流れてきました。りんごかな? いいやそれにしては大きすぎる。ぶどうかな? いやいやそれにしては素朴すぎる。いちごかな? いいやそれにしては生意気すぎる? パイナップルかな? いいやそれにしては不自然すぎる。

「そうだ! あれは桃だ!」

 おばあさんが声に出して叫ぶと驚いた小魚たちが川から飛び上がるのが見えました。一仕事を終えてちょうど小腹も空いてきたところ。こいつは渡りに船だぞとおばあさんは思いました。流れてくるものは、まだ誰のものとも決まっていません。一番先に見つけたものが、それを手にすることが許されるのでした。おばあさんは川から身を乗り出して、虫取り網を伸ばしました。もう少し、もう少し。あと少しで、大きなご褒美に届きそうでした。
 その時、下流から流れに逆らってものすごいスピードで上ってくるものがありました。それはカヌーに乗った鬼でした。鬼は躊躇う様子もなく一気にカヌーを寄せるとあっという間に桃をさらって行きました。おばあさんが間に入るチャンスもない早業でした。

「選手か?」

 明日のメダリストかもしれないとおばあさんは思いました。







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鬼の泥棒

2024-04-18 19:46:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あらゆるところにおじいさんとおばあさんがいました。おかげであるところには、おじいさんとおばあさんがいたと言えました。おじいさんは仇討ちにでも行くように芝刈りに出かけ、しばらく戻ってきませんでした。おばあさんは心を整えて洗濯をします。そこは川でした。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 と上流から大きな桃が流れてきました。伝説の前にいるのかもしれない。おばあさんは不思議な予感を覚えて身を震わせました。今まさに伝説の前に立ち会うのかと思えば、流石のおばあさんも冷静ではいられなかったのでした。匂いを嗅ぎつけて犬がきました。きたか、とおばあさんは思いました。猿がきました。猿もきたか、とおばあさんは思いました。アヒルがきました。アヒルもきたか、とおばあさんは思いました。おじいさんがきました。

「おじいさんもきたか」

 とおばあさんは声に出して言いました。おじいさんの後ろからいかにも賢そうなカワウソがきました。カワウソもきたか、とおばあさんは思いました。風呂敷を持った鬼が突然現れました。ついには鬼まできたか、とおばあさんは思いました。鬼は大きな桃を風呂敷に包むとものすごいスピードで去って行きました。

「おばあさんあれは?」

 おじいさんは伝説の歪みを見送りました。
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謎の贈り物

2024-04-12 17:37:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに芝刈り好きのおじいさんと、芝刈り好きのおじいさんを好きなおばあさんがいました。ある日、おじいさんは当然のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈りました。刈っても刈ってもおじいさんの好きはなくならず、むしろ膨らみつつあるほどでした。おばあさんは、山と反対に川に行きました。川に行くとおばあさんはいつものように洗濯に励み、汚れ物と向き合う内に自らの魂を清めました。

「お待たせいたしました」
 一仕事終えたおばあさんにどこからともなくおやつが届けられました。

「ありがとう。ウーバーさん」

 おばあさんは、洗濯板の上にフルーツの盛り合わせを広げました。オレンジかな、いちごかな、それともメロンかな。おばあさんは何から手をつけるか迷っていました。キウイかな、りんごかな、それともメロンかな。なかなか決まらずにいると上流から何かが流れてきます。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 それは何やら巨大な贈り物のように見えました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 直前にまで迫ってくるとその巨大さにおばあさんは目を丸くしました。そして、おばあさんは盛り合わせの1つにフォークを刺すとゆっくりと自分の口に運びました。

「遺伝子をわるさした何かだろう」
 どんぶらことあれは遠ざかっていきました。

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謎の流れもの

2024-04-02 17:54:00 | 桃太郎諸説
 昔々あるところに、というのは、元々は何もないようなところでしたが、いつしか草が生え、小さな花が咲き、蝶や猫たちがやってきて、色んなものが生まれていった。そういうところ、それは奇跡のようなところとも呼ぶことができました。そんなあるところに、おじいさんは鬼のような顔をして、おばあさんは仏のような顔をして暮らしていました。
 おじいさんは懲りもせず山に芝刈りに、おばあさんは清々しく川に洗濯に行きました。おばあさんが川に行くと何やら上流から流れてくるものがありました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

「何だろうか?」

 おばあさんは身を乗り出して流れてくるものを観察しました。人か? いいえ人ではありません。獣? いいえ獣でもありません。角度を変えて見ると南瓜のようにも見えました。

「ああいう乗り物か」

 だとしたら舟であろう。一通り推測を終えるとおばあさんは洗濯に精を出しました。

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今日くらいは……

2023-11-13 20:30:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが歩いていました。するとおじいさんとおばあさんのすぐ側をあまりにも歳の離れた人間が通りかかりました。子供たちです。おじいさんとおばあさんは、優しく微笑みかけながら、見知らぬ子供たちに声をかけました。

「気をつけてね」
「仲良くね」
「魚に気をつけて」
「元気にね」
「先生にも気をつけて」
「それじゃあね」

 おじいさんとおばあさんは、子供たちがもっともっと小さくなるまで立ち止まったまま見送っていました。あんな時代もあったねと遠い昔をみつめているようでもありました。

「おじいさん、山は?」
 おばあさんが急に思い出したように言いました。

「今日はええ」
 今日は山はお休みです。

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しばしの別れ

2023-11-06 02:20:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところにいたおじいさんが山に芝刈りに行き、ともにいたおばあさんは川に向かいました。おばあさんがあるところで気づいたのは、おじいさんがお弁当を忘れていったことでした。お弁当の中にはおじいさんの大好きだった卵焼きが入っていましたが、今なおそれを大好きであるかは、おばあさんにはわからないところでした。

「仕方のない人……」

どんぶらこ♪ どんぶらこ♪

 どうやら桃が流れてくるようでした。おばあさんは、構わず洗濯に精を出しました。

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