眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

アスリートの介入

2024-08-17 15:47:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに太っ腹のおじいさんと絵に描いたようなおばあさんがいました。おじいさんは鬼のように山に芝刈りに、そしておばあさんは清く正しく川に洗濯に行きました。おばあさんは、しばし太っ腹じいさんのことを忘れ、洗濯に没頭していました。そうしているとおばあさんは瑞々しい魚のように自分らしくあることができるのでした。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 上流から美味しげなフルーツが流れてきました。りんごかな? いいやそれにしては大きすぎる。ぶどうかな? いやいやそれにしては素朴すぎる。いちごかな? いいやそれにしては生意気すぎる? パイナップルかな? いいやそれにしては不自然すぎる。

「そうだ! あれは桃だ!」

 おばあさんが声に出して叫ぶと驚いた小魚たちが川から飛び上がるのが見えました。一仕事を終えてちょうど小腹も空いてきたところ。こいつは渡りに船だぞとおばあさんは思いました。流れてくるものは、まだ誰のものとも決まっていません。一番先に見つけたものが、それを手にすることが許されるのでした。おばあさんは川から身を乗り出して、虫取り網を伸ばしました。もう少し、もう少し。あと少しで、大きなご褒美に届きそうでした。
 その時、下流から流れに逆らってものすごいスピードで上ってくるものがありました。それはカヌーに乗った鬼でした。鬼は躊躇う様子もなく一気にカヌーを寄せるとあっという間に桃をさらって行きました。おばあさんが間に入るチャンスもない早業でした。

「選手か?」

 明日のメダリストかもしれないとおばあさんは思いました。







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鬼の泥棒

2024-04-18 19:46:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あらゆるところにおじいさんとおばあさんがいました。おかげであるところには、おじいさんとおばあさんがいたと言えました。おじいさんは仇討ちにでも行くように芝刈りに出かけ、しばらく戻ってきませんでした。おばあさんは心を整えて洗濯をします。そこは川でした。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 と上流から大きな桃が流れてきました。伝説の前にいるのかもしれない。おばあさんは不思議な予感を覚えて身を震わせました。今まさに伝説の前に立ち会うのかと思えば、流石のおばあさんも冷静ではいられなかったのでした。匂いを嗅ぎつけて犬がきました。きたか、とおばあさんは思いました。猿がきました。猿もきたか、とおばあさんは思いました。アヒルがきました。アヒルもきたか、とおばあさんは思いました。おじいさんがきました。

「おじいさんもきたか」

 とおばあさんは声に出して言いました。おじいさんの後ろからいかにも賢そうなカワウソがきました。カワウソもきたか、とおばあさんは思いました。風呂敷を持った鬼が突然現れました。ついには鬼まできたか、とおばあさんは思いました。鬼は大きな桃を風呂敷に包むとものすごいスピードで去って行きました。

「おばあさんあれは?」

 おじいさんは伝説の歪みを見送りました。
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謎の贈り物

2024-04-12 17:37:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに芝刈り好きのおじいさんと、芝刈り好きのおじいさんを好きなおばあさんがいました。ある日、おじいさんは当然のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈りました。刈っても刈ってもおじいさんの好きはなくならず、むしろ膨らみつつあるほどでした。おばあさんは、山と反対に川に行きました。川に行くとおばあさんはいつものように洗濯に励み、汚れ物と向き合う内に自らの魂を清めました。

「お待たせいたしました」
 一仕事終えたおばあさんにどこからともなくおやつが届けられました。

「ありがとう。ウーバーさん」

 おばあさんは、洗濯板の上にフルーツの盛り合わせを広げました。オレンジかな、いちごかな、それともメロンかな。おばあさんは何から手をつけるか迷っていました。キウイかな、りんごかな、それともメロンかな。なかなか決まらずにいると上流から何かが流れてきます。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 それは何やら巨大な贈り物のように見えました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 直前にまで迫ってくるとその巨大さにおばあさんは目を丸くしました。そして、おばあさんは盛り合わせの1つにフォークを刺すとゆっくりと自分の口に運びました。

「遺伝子をわるさした何かだろう」
 どんぶらことあれは遠ざかっていきました。

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謎の流れもの

2024-04-02 17:54:00 | 桃太郎諸説
 昔々あるところに、というのは、元々は何もないようなところでしたが、いつしか草が生え、小さな花が咲き、蝶や猫たちがやってきて、色んなものが生まれていった。そういうところ、それは奇跡のようなところとも呼ぶことができました。そんなあるところに、おじいさんは鬼のような顔をして、おばあさんは仏のような顔をして暮らしていました。
 おじいさんは懲りもせず山に芝刈りに、おばあさんは清々しく川に洗濯に行きました。おばあさんが川に行くと何やら上流から流れてくるものがありました。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

「何だろうか?」

 おばあさんは身を乗り出して流れてくるものを観察しました。人か? いいえ人ではありません。獣? いいえ獣でもありません。角度を変えて見ると南瓜のようにも見えました。

「ああいう乗り物か」

 だとしたら舟であろう。一通り推測を終えるとおばあさんは洗濯に精を出しました。

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今日くらいは……

2023-11-13 20:30:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが歩いていました。するとおじいさんとおばあさんのすぐ側をあまりにも歳の離れた人間が通りかかりました。子供たちです。おじいさんとおばあさんは、優しく微笑みかけながら、見知らぬ子供たちに声をかけました。

「気をつけてね」
「仲良くね」
「魚に気をつけて」
「元気にね」
「先生にも気をつけて」
「それじゃあね」

 おじいさんとおばあさんは、子供たちがもっともっと小さくなるまで立ち止まったまま見送っていました。あんな時代もあったねと遠い昔をみつめているようでもありました。

「おじいさん、山は?」
 おばあさんが急に思い出したように言いました。

「今日はええ」
 今日は山はお休みです。

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しばしの別れ

2023-11-06 02:20:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところにいたおじいさんが山に芝刈りに行き、ともにいたおばあさんは川に向かいました。おばあさんがあるところで気づいたのは、おじいさんがお弁当を忘れていったことでした。お弁当の中にはおじいさんの大好きだった卵焼きが入っていましたが、今なおそれを大好きであるかは、おばあさんにはわからないところでした。

「仕方のない人……」

どんぶらこ♪ どんぶらこ♪

 どうやら桃が流れてくるようでした。おばあさんは、構わず洗濯に精を出しました。

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