眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

悪意のワンシーン

2013-07-31 20:50:25 | 夢追い
 ランドセルの中は空っぽだった。必要なものはすべて引き出しの中に入っているからだ。軽々とランドセルを下ろすとそこに自分でない名前が記してあった。1日誰とも話さなかったし、1度も立ち止まらなかったのにいつの間にすり替えられてしまったのだろう。何者かが一瞬の隙をついて、空っぽのランドセルを空っぽのランドセルとすり替えてしまったと考えられた。失ったものは何もなく、不気味さだけが残された。
 翌朝になると、ランドセルはやはり空っぽのままで、ちゃんと自分の名前が書いてあった。

 歩道に布団を敷いて眠った。車道に近く、人目に触れやすい場所の方が安全だと考えた。布団の下に財布を隠していたが、眠ってしまえば誰か悪意のある者が現れた時に、易々と盗み取られてしまうのではないかと思われた。隠し場所としては、ありきたりすぎるのだ。いっそ枕の中に隠し込んだ方がよいと考えたが、今度は勘の働く悪意のある者が現れた場合、枕ごと持ち去ってしまうことが想像された。眠っている人間から枕を引き抜くことなど、悪意を持った者からすればあまりにも容易い動作に違いない。
 気がつくと開店前の玩具屋の中に眠っていた。
「大丈夫?」
 自分でもよくわからないことを言った。女は黙って頷いた。
「どこから来たの?」
「どこにも行くところがなくて、元の場所は今は思い出せません」
 テーブルにつくと軽い朝食をいただいた。
 2人の子供が手に千円ずつを握り、黙って差し出してくれた。
「ありがとう」
 子供たちは階段を駆け上ると持っている水鉄砲で踊り場の蜂の巣を退治した。暴れ狂う蜂の群れに刺激されて、子供たちは成長して立派な兵士になった。今、手にしているのは本物のマシンガンだ。

 映画のワンシーンのために気だるい夜の中を歩いた。誰もいない道、何もない壁、星のない空、主にフィルムに収まるのはそうした静かなものたちだった。交差点を通り抜けると突然巨大な扉が映し出される。ゆっくりと扉が開くと、更に次の扉が現れる。繰り返し扉が開き、ようやく赤い男が現れた。赤い男は自分の腹の肉を手で千切って首の下にくっつけると突起を作った。
「ふふふ」
 また腹の肉を千切ると少し間を置いて突起を作った。
「ふふふ」
 千切ってはくっつけて、笑う。狂っているのか、自慢しているのかわからない。等間隔に突起を作ることにも飽きたのか、赤い男はより深く自らの体を傷つけ改造し始めたように見えた。
「1つの恋が終わった時、その痛手を糧にして次の恋へ乗り移る」
 破壊者は失恋についてを語り始めた。
「だが、私は違った!」
 男の顔は虹に吼えるライオンで、体は星を這う鰐だった。
「黙れ!」
 名刀フサンキラーを振り下ろし魔物を退治すると、冷凍倉庫に詰め込んだ。
 冷蔵庫の奥には期限が切れておかしくなった納豆のパックがたくさん出てきた。今年の内に捨ててしまわなければならなかった。ゴミ箱に放り込もうとするところ、噂を聞きつけた邪魔師がシャツを引っ張って邪魔をする。仕事の邪魔をする奴は懲らしめなければならない。納豆パックの角を邪魔師の頭目掛けて振り下ろす。一転して逃げ惑う邪魔師。みんなの冷たい視線がこちらに向いていることが感じられる。本当に悪いのは邪魔師なのに、今この瞬間だけは、僕こそが悪者に見えているのだろう。それもすべて邪魔師の企みの中に組み込まれているのだった。そんな奴は懲らしめなければならない。はまっているとわかっていても、もはや憎しみが止まらないのだった。

 翌朝になるとまたランドセルには自分ではない名前が記してあった。今度は家を出る時からすり替わっていて、疑いの目は内側にも向けなければならなかった。空っぽのランドセルの持ち主が僕以外にもいるのだろうか。
「どちらもあなたです」
 おばあさんの声が聞こえた。

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遅咲きの罠

2013-07-29 19:59:17 | ショートピース
いくつもの海を越え、長い飛行の末ついに求めていた色を見つけた。甘い香りに誘われるまま、羽を降ろすと欲望の限りに密を吸った。二千年後、「ひっかかったな!」花は毒のある舌で獲物を引きずり込んだ。「既に十分よくしてもらったさ」一瞬の裏切の前には壮大な幸福が広がっていた。#twnovel

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ラスト・メッセージ

2013-07-25 23:46:19 | 気ままなキーボード
カウンターの上で一息ついていると誰かが私を見つけた。すぐに出された命令に少し慌てながら、一番下の女の子は新聞紙を丸めて即席の凶器を作った。まさかそれで上手くいくとは、最初から考えていなかったような顔をして。けれども、私は既に機敏な動作ができる状態ではなかった。その一撃は私の息の根を止めた。光沢のあるカウンターの上に醜く潰れた私を、重ねたティッシュでさっとすくった彼女は、そのままゴミ箱の中に落とし入れた。
「アホ!」
紙くずたちに交じって、私は自然と落ちていった。

「丸めてから捨てろ! そのまま捨てるな!」

女の子は、その朝ずっと怒られ続けているのだった。私の出現が、またその原因を生み出してしまったようだ。
「アホ!」
私が最後に聞いたのはおじいさんの強い言葉だ。あるいは、私は聞いてはいなかったのかもしれない。私はずっと虫であったし、その時は既に虫でもなくなっていたのだから。

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時間旅行

2013-07-24 07:41:48 | ショートピース
1つ1つは小さな仕草だった。小刻みに人参を切ったり細かいパスをつないだりする内に大きな時間が奪われていた。「もう行かなくちゃ」僕にはまとまった時間が必要なんだ。「種は持ったの?」そう、そんな優しさが届かない場所が僕の行き先だ。「向こうに行ってから探すよ」現地でね。#twnovel

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シロ

2013-07-23 16:26:03 | 夢追い
 ブロックの向こうにシロの鼻先が見えた。覚えていたんだね。よくここがわかったね。どうみても無理なのに、シロは僅かな隙間に鼻を滑り込ませようとしている。駄目だ。挟まってしまう。来ちゃ駄目だよ。
「誰かいるの?」
 その時、継母の声がして、シロは鼻先を離すと身を引いた。間もなくシロは姿を消した。

 ムチ師は馬や猪や犬を追いかけながらムチを振った。恐る恐る窺いながら近づくと、ムチ師は足を止めて振り返った。何秒か僕を見つめて、確実に人間であると認めた上で、接近してムチを振った。咄嗟に身を引くが、ムチの先が伸びて腿に当たってしまう。大丈夫、耐えられる。何度か接近を繰り返し、ダメージを受けながらもムチ師のスピード、ムチを繰り出すタイミング、ヒットした時のダメージの大きさを探った。
 ムエタイのスターと棒のおっさんがやってきた時、ついに僕らは攻撃に転じた。犬が猪を追って駆ける時、馬は遠くを見ながら油断させ、その隙に僕は暴言を吐きながらムチ師をおびき寄せた。怒り狂ったムチ師は、横殴りにムチを振り回してくるが、既にそのスピードは見切っている。僅かに腿に当たったくらいで、背後から回り込んだスターのひと蹴りによって、ムチ師は滅びたのだった。
 激闘を終えて空を飛んだ。スターも並んで飛んだ。棒のおっさんにはそうした能力はなく、棒を激しく回転させながら、大草原を駆けている。
「上手く方向を変えられる?」
 ずっと悩んでいた問題を、横を飛ぶスターに思い切ってぶつけてみた。
「膨らんでしまうんだ」
「そんなの当たり前じゃないか」
 少し拍子抜けするような答えだった。
「飛行機の歴史を考えてみろよ」
 真っ直ぐ飛ぶのと曲がるのとではまるで違うとスター言った。
 駅ビルの角を曲がる時にやはり膨らんで、もたもたとした。何かかっこわるいな……。
(本当にそうかな)
 まだスターの言うことに納得はいっていなかった。
 僕らは自分の意思で飛ぶのだから、飛行機とはわけが違うのでは。
「ターンか……」
 機内にかけてスターは思い出したように言った。
「えっ?」
「これはシャンパンがうまいぞ」

 西に回り込んだシロは新しいブロックの隙間を見つけた。隙間は前よりも大きく開いていた。鼻先を先に潜り込ませると同時に顔と体が続いて、シロは無事にそこを通り抜けてこちらにやってきた。真っ直ぐこちらに飛び込んでくるシロと抱き合って共に喜んだ。ブロックの障壁はもはや取り除かれた。残る問題は政治だけだ。日を改めて公の場に立つ。僕から言おう。
「結婚してくれ!」
「ちょっと待て!」
 ブローカーが現れて、部署を変わってもらうと言った。
「遥かに優秀な犬がいるのだから」

 完全にブロック塀が解体されると友達の犬もやって来て、家の中を普通に歩き回るようになっていた。
 今日はまた庭から青い犬がやってきて、絨毯の上に上がり込もうとしている。
「お父さん!」
 押し返しても押し返しても、青い犬は帰っていかない。
「この犬だけ駄目というのもな……」
 父はわかっていないのだ。シロと僕がどれだけの仲だったのか。

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星の手品

2013-07-22 16:49:06 | ショートピース
「絶え間なく惑星たちを照らし続けること。契約は40億年。20億年以内に解約した場合は違約金が発生します」熟読の上、星はサインをする。その瞬間、宇宙の片隅で甲と乙の間の正式な契約が交わされるのと同時に契約書は燃え上がった。その中から姿を現したのが私たちの祖先である。#twnovel

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ゲスト

2013-07-19 17:25:07 | 夢追い
 酔いつぶれたゲストを抱えて運んだ。広間は先人たちでいっぱいで、こんなはずじゃなかったのに、落ち着く隙間も見当たらなかった。ごめんな。窓が開いている。ここの人たちは暑いの? この人は寒そうだよ。先人たちの空気を読まなければならず、せめてと思い網戸にした。種々の弁当を抱えた弁当売りが、広間にやってくるとみんなが選ぶのを待っていた。あれこれ迷っている内に、僕は蓋を開けてミートボールを1つ食べてしまった。支払う前に、行ってしまったから、もうこれは僕のものになったのだという気がして、遠慮なく食べた。

 自分で適当に組み立てたパソコンは、コードや水道管がむき出しになっていて、傍目にも不恰好だった。
「正規のサンプル品があるのに」
 そう言って他の子たちが、責めるが、それは後から気がついたのだから仕方がなかった。注意書きを読むと、長時間使用すると稀に水蒸気が発生するので注意とのこと。階段などで使用すると、水蒸気が立ち込めて、上り下りに支障を来たす恐れありとのこと。
「貸しなさい!」
 横から母がリモコンを取って、遠くに持っていった。
「たまには電話してきなさい!」
 今はそれどころじゃないので、それどころではないのだった。みんなの中で、少しでも自分の居場所を見つけて、ここでやっていかなければならないのだから。本当はもっと目立ちたかっただけかもしれない。

「ホットモットでキックイン!」

 大きな声で合言葉を唱えたが、後から誰もついてこない。面白いのに、みんなどうした? みんなはむしろうるさいといった様子で非難の目をこちらに向けている。歌が聞こえないって? 誰がこんな時に歌なんて歌っているんだ。
 逃げるように階段を下りる。このまま下り切ったら負けのような気がして、途中で立ち止まってロープの結び方を研究した。もしも、今から水蒸気があふれて前途多難となったら、窓からロープを下ろして逃げ延びるのだ。その時、ようやく僕はヒーローになるのだろう。そうしている間に、もう楽しいことは終わったのか、次々とみんなは階段を下りてきて、僕の横を迷いのない足取りで通り過ぎていくのだった。どうして、みんなそんなに迷わないのだ……。誰も僕の努力に関心を向ける者などいなかった。静かになった踊り場で窓を開けて、地上を見下ろした。
「もう使えないってよ」
 運動会が終わったので、もう長くはいられないといって酒飲みたちが慌てていた。
「もっといられるように考えなさい!」
 女はもっと知恵を搾り出すように、強く求めた。

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ロスタイムノベル

2013-07-18 20:11:33 | ショートピース
「行ってこい!」監督が背中を強く押し出したが今更何ができるというのか。中盤がぽっかりと空いていた。ちょうどいい。広大なスペースに落ち着いてノートを開いた。頭上をロングボールが時を惜しみながら通過していく。僕は今からレギュラーをかけた短い物語を書かなければならない。#twnovel

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冷夏

2013-07-18 17:56:20 | 気ままなキーボード
「ごゆっくりどうぞ」と言葉では言っているけれど、とてもゆっくりできるような環境ではないことが徐々にわかってくる。天井からは、冷たすぎる風が機械仕掛けとは違う生身の肉体に向かって容赦なく吹き付けてきて、「とっとと帰れ、とっとと出て行け」と言っているように聞こえてくる。鞄の中に隠し持った長袖シャツを着てもまだ震えるほどに寒いから、更に奥深く隠し持っていたジャージを引っ張り出して着込むけれど、それでもまだまだ十分すぎるくらいに寒い。ほんのちょっとやってきて留まるような人にはまだいいのかもしれないけれど、とてもゆっくり過ごすなんて無理だ。どうしてマフラーくらい持ってこなかったのだろう。できるだけ早く出窓の向こうのあたたかい世界に脱出しなければ、おかしくなってしまいそうだ。アイスティーは、まだ半分くらい残っていて、ここに来てからもうすぐ2時間が経つ。

プレイリストが消えてしまったあとだから、7月にクリスマスソングがかかったとしても仕方がない。

レジに着くまではわからなかったのに、その時籠の中をふと見るとすべてが麺類だったということがある。カップ麺、パスタ、冷凍うどん……。決して意図したわけではないのに、何らかの力が働いて、1つの籠の中に種々の麺類を呼び集めたのだ。あたかもそれは、歴代総理がみんなギタリストだったという状況に似ていた。

ただ遅くまで開いているという理由で、こんな煙まみれの場所までやってきてしまった。マフラーも持たずに、こんなところまでのこのことやってきた自分の愚かさに嫌気がさす中で、アイスティーはまだ半分ほど残っている。どうして自分はこんなにも愚かで、アイスティーはこんなにも減らない生き物なのだろうか。そうだ氷のせいだ。飲んでも飲んでも氷が溶けるせいで、どんどん量が増えてしまうのだ。どこまでも恐ろしく、冷たい氷よ。我にもっともっとアイスティーを与えるがよい。「ごゆっくりどうぞ」と口では言っておきながら、天井からは、まだ完全に機械仕掛けではない生身の肉体に向けて、冷え冷えとして風が吹き出してきて、「さあ出て行け、もう出て行け」と訴えかけてくるのだった。言われなくても、そうするよ。ここはちょっとお茶でも飲むような場所で、とても長く暮らしていけるような場所ではないんだ。

最近めっきり夢をみなくなりました。みてはいるのだろうけれど、脳になじまないというか、整理がつかないというか、印象が薄いというか……。昨日もまるでつまらない夢をみた。つまらない夢みている暇があったら、ちゃんと眠ればいいのに。

 明かりも少ない夜の街で、ずっと信号を待っていた。信号はなかなか変わらなかった。雨は降っていないのに、通りすぎる車はみな雨を引きずっていくような音がした。信号が変わらないのは、あまりに霧が深いためかもしれなかった。僕は熱いうどんを冷ますようにして霧を吹いて、一歩一歩見通しをよくしていった。ふーっ。ようやく交わりの向こうに青い光が見えた。
 未完成の倉庫は冷たく、人の気配が感じられなかったけれど、近づいて中を覗き込むと多くの人が床に雑巾を当て土下座しながら走り回っていた。彼らは身内の者なのか、それとも中に入ったら自分もあの作業をしなければならないのかわからず不安になった。皆同じようなリングを腕に巻いていた。僕が中に入っていくのと入れ替わりで、大勢いた人のほとんどは皆帰る準備を始めた。22時になるとどうやら囚人は帰らなければならないようだった。
「島では偽医者だって当たり前なんだぞ」
 市長は無責任なことを言って議員たちが寄せ集まると早速責任問題集が出されることになったが、それに対して今度は市長権限によって教科書を全部作り直すぞと宣言した結果、会見場の空気が一変、そうなっては面倒くさいぞということになって、憧れは世界基準へと変容していくのであった。
 結局、相手は見つからず観戦に回ることになった。暇そうに見ていると、同じような人がいて、誰からともなくやればいいじゃないという声がかかったので、じゃあやりましょうということになった。僕は進んで駒箱を開けた。1枚1枚力を込めて駒を配置する。
「振り駒の結果、と金が2枚です」
 と相手に報告すると女は、ふーんと言った。
 指が震える。わかっていてもどうにもコントロールできない。最初の一手で角道を開ける。
 あっ。歩が、飛んでいく。待ってくれー。

煙の作り手は長い長い話を終えて帰っていった。ゆっくりしたペースではあったが、アイスティーも徐々に細い管を通して、僕の体内に取り込まれて、あと少しで底から3センチの辺りへたどり着けそうだ。体はすっかり冷え切っており、ここを出たら、何かあたたかいものでも食べて帰ろうと思う。麻婆豆腐か麻婆ラーメンか……。チャンポンでもいい。「ごゆっくりどうぞ」そんな言葉を聞いてからもうすぐ3時間が経とうとしていた。窓の外、モーニングと書かれた緑の旗が揺れている。

この夏、この場所には2度と来ないことに決めた。マフラーを持ち歩くのは面倒だ。

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カードバトル

2013-07-17 08:15:38 | ショートピース
俺が古株だ、俺が年長だ、いや俺が1番上手い、俺が1番人気がある、俺が人望が厚い、いや俺こそがカリスマだと個々が主張する内に守備が崩壊してゴールを決められてしまうと主審はキャプテンに向けレッドーカードを出した。「俺のカードだ!」カードは新しい火種を作り出してしまう。#twnovel

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積み上げ作業

2013-07-16 17:31:45 | 夢追い
「今日はたくさんやることがありますよ」
 それというのも3年分がまとめてやってきたというように、飴玉が大量に入荷したからだった。
「店長、品出しは悪ですよ。店が汚れます」
 堂々と自分の意見を言って、飴玉袋を積み上げた。古い飴玉袋を手前に運び、新しい飴玉を奥へと追いやる一貫的な作業。それもこれも古い飴玉を早々と人々の口に放り込み、新しくやってきた飴玉を人目につかないような場所に隠しておくためだった。そうした作業を怠ってしまっては、たとえ飴玉と言えども新しく作られた飴玉ばかりが人々の口に入り、古い飴玉はどんどん古くなるばかりで、いつの日か食べることを禁じられた飴玉に成り下がってしまうことが懸念されるためだった。積み上げた飴袋の数によって、収入が決まるのではなく、積み上げるために縛られた時間によってのみ決まるのだから、作業を急ぐことは飛んだ愚か者のすることだった。ゆっくりと着実に作業に集中していると飴棚の下から見覚えのある黒いTシャツが出てきた。数年前に着ていたものだったが、まだ着れるだろうか。
「時間が空いたので地下のバーに行ってきます」
 従業員の1人が店長に報告して作業を抜けた。そんなところを見ても、人が余っているという状況がわかる。彼はいつだって、1日中酒を飲んでいて、朝刊が届いた時などには配達員を捕まえては大騒ぎをするので、いい近所迷惑になっているという男だった。いくらゆっくり作業したところで、結局は終わってしまい、僕も抜け出して神社の階段を駆け上がった。

「みんな走りに行ったの?」
 向こうから気づかれるのが嫌で、屋根の上から声をかけた。
「女子だけ」
 屋根の上で休んでいると神社の人に見つかって、注意されてしまう。
「休むならあっちで」
 男が指差す方向は、バーのカウンターを抜けた向こう側の広場だった。酔っ払いたちの背中を通過していくしかないとは、何という構造的な欠陥だろうか。忠告を無視して大回りすると、滑り台を滑って広場に降り立った。勢い余って、肘を強打しそうになるが、咄嗟に重力をコントロールして事なきを得た。店長は大丈夫だろうか……。

 置いてきた店長のことが思い出されて、神社を駆け下りると浮遊した。腕を使いスピードを調整するが、飴玉作業の疲れが残っていて難しい。速過ぎる。このまま行くと海を越えてしまう。着陸した場所はギャンブル場の前で、カップ酒を手にした男たちが黒い煙を吐いていた。
「外科医が15万出したらしいぞ」
「100万積んだかもよ。外科医なんだから!」
 通りすがりに余計な口を挟むと、もう浮けなくなっていた。何度やっても離陸できず、ちょうど縄跳びの練習をしている時の気分を思い出した。
「ちょっと手伝ってやろう」
 見知らぬ男に抱えられて浮き上がるところを助けてもらい、どうにか地上を離れることができた。ふわふわと頼りなく、早くこの場所を離れたいのに、体は思うように重力をコントロールできなかった。また、パワーが切れたのか。これでは小学生の操る虫取り網にも、軽々と捕まってしまうだろう。落ちるにしても、誰にも見えなくなってから落ちたいと思った。店はどこだったか……。
「ありがとう!」
 強がって大きな声を出すと、少しだけ浮力が蘇った気がした。


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ミスタッチ

2013-07-10 07:48:43 | ショートピース
「私に作れないものなど何もない!」かみさまがそう思った瞬間、キーは外れ、詩情にまで達することができなかったものが地上へ降り注いだ。不完全なものたち、生命の誕生だった。「かみさまありがとう!」天空に広がる星々を見上げながら、私たちはかみのおごりに感謝のキスを投げた。#twnovel

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おかしな招待 (やまとなでしこ)

2013-07-08 11:52:57 | アクロスティック・メルヘン
野生の鹿が入ってくる心配もないので
窓をいっぱいに開けておいたら
飛び込んできたのは虫でした。
長い羽を持った虫で、
手に取ってみていると
静かな森の夜の木が思い出されて、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やだなあ。これって」
「ママの格好おかしくない?」
「トリケラトプスみたい」
「なんで呼ばれたんでしょう?」
「てんとう虫を歌うの?」
「知らない人ばかりなのよ」
「香典はどうするの?」

野生の猪が入ってくる心配もないので
窓をいっぱい開けておいたら
飛び込んできたのは風でした。
長いメッセージを持った風で、
手に取ってみていると
萎れた感情に支配されてきて、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やっぱり、おかしくない?」
「ママは心配しすぎじゃない」
「トカゲの尻尾みたいじゃない?」
「なりきってしまえばいいのよ」
「手前味噌って言われない?」
「神妙な面持ちをしなくちゃ」
「こんな感じ?」

野生の虎が入ってくる心配もないので
窓をいっぱい開けておいたら
飛び込んできたのは秋でした。
長い髪の毛を持った秋で、
手に取ってみていると
知らず知らずに巻き込まれていき、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やっぱりこれは変だよ」
窓をいっぱい開けておいたら
「時計がすっかりおかしくなったのよ」
何気にみつめている内に
「天気もおかしくなったのよ」
知らない人の式に呼ばれて
「これは何もかもがおかしいのよ」

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一人を待つ

2013-07-08 11:15:54 | ショートピース
人が近づいてくると尾を振ってうれしそうにするが、すぐに顔を垂れてしまうのは本当に思う人ではないからなのだろう。長く一緒にいるためか電信柱は夏の終わりの夜の中で犬の毛色に染まり始めている。「やあ、待ったかい?」近づくと犬は満面の笑みを浮かべ、私の膝に飛び掛ってきた。#twnovel

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さよなら、おじさん

2013-07-05 16:24:45 | 夢追い
 おじさんはマフィアのボスだった。久しぶりに家に帰ってきているというので、朝早起きして遊びに行った。
「トランプをしよう」
 手渡されたのは熊の絵の入った小さなトランプだった。手の中に入りすぎる小さなトランプは扱いにくかった。すぐ近くに大きなトランプが見えたし、部屋の隅の雑貨入れの中には縫いぐるみやカスタネットなどがあり、他にも種々の小物が埋まっていそうだった。
 おじさんは苦しそうだった。トイレから出てくると唾を吐いて、大きなトランプで包んだ。大きなトランプはそのために置いてあったのだ。僕は、できることなら大きなトランプで遊びたいと思った。けれども、おじさんが唾を吐く度にカードを切ったとするなら、もう数が足りなくなっているのかもしれない。部屋の隅から大きなトランプを見つけたとして、ゲームを始める前に、僕は最初にそれを数えたいと思う。けれども、そのような行為は普通だろうか。おじさんは苦しそうに、蛇口まで行って水を飲んだ。
「さあ、始めようよ」 
 僕はテーブルの上に、熊を並べ始めた。

 おじさんは刑事だった。僕より遥かに先輩にあたる。運転しながら振り向いて、おじさんを撃った。仲間の刑事がみんな心配を装いながらおじさんを見ている。揺れが激しく、上手く当てることができない。もう1度振り向いて、おじさんを撃った。今度は、右の肩に当たった。振り向きざまなので、おじさんは気づいていないだろう。何者かが遠くからおじさんを狙っていると思っているだろう。
「大丈夫? おじさん」
 僕も振り向いて、おじさんを気遣う。おじさんは当たってもいないのに、左の胸を手で押さえ苦しそうにしている。
「おじさん、もうすぐだからね」
 再び振り向いた時、おじさんは左の胸に、予めポケットに忍ばせていたケチャップを塗りつけていた。致命傷を装うことで、追撃の手を緩める作戦なのだ。
 おじさん、お疲れさま。これらすべては、おとり捜査の一環だった。

 おじさんは議員だった。パーティーの席ではみんなが浮かれ、煙草に火をつけた。
「つけちゃいなよ」
 もっとつけちゃえと誰かが言って、ラーメンに火をつけた。
 ハンカチに火をつけ、鉢巻に火をつけ、テーブルクロスに火をつけた。あっという間に火は広がった。
「押しちゃいなよ」
 警報を鳴らすと事の重大さに気がついて、みんなで協力して火を消した。バケツリレーをして水を運んだ。水がなくなると100パーセントオレンジジュースまでも使って、消化に当たった。消防車が来た時には、火は消えていた。
 そんな騒ぎが3日も続いて、総会が開かれるとおじさんは失脚した。すべて仕組まれていたのだった。
「大変でしたね」 
 送別会の席で、父が労いの言葉をかけた。
 僕らはおじさんと目を合わさなかった。

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