眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

クリスマスドリーム

2014-12-25 19:04:10 | クリスマスの折句
 追われなければどこにも進めないことがわかったので、引越しの準備に追われることに決めて部屋中の整理を進めているとすぐにそれは容易なことではないことに気がつきました。引き出しを開けると書きかけの漫画が出てきました。それは昔、まだ筋書きという言葉の意味もわからなかった頃に書いていた短い漫画だったのです。ああして、こうして、そうなって、これはこれで、それでこういうわけで、あの時考えかけて、途中まで考えていたのに、結局最後まで行き着くことができなかった筋書きが、今更だけど気になって、私は手を止めて少しだけ考えてみることにしたのです。してしまったのです。ああして、こうして、これこれこれで、そうなったら、こうなったで、これならこうだけど、それはどうも、そういうわけで、つまらないことです。そういうわけだから容易なことではありませんでした。長年放置しすぎた空間に、昔の自分が置いていった忘れ物が多すぎたからです。戸棚を開けると作りかけのレシピが出てきました。それは当時夢中で取り組んでいた創作料理の1つだったのです。あれこれかけて、醤油を足して、こうしてそうして、混ぜて合わせて、固めてから一晩寝かせて様子をみる。フライパンを大きく振って、蜂蜜を加えたら、それからとっておきのエッセンス……。けれども、その秘密の部分が破れていて何かわからないのでした。これではせっかくの傑作料理も完成することができません。完成しなければ、誰かに食べさせて感想を聞くこともできなければ、自分自身の空腹を満たすことだってできません。もう昔のことだから。そうして私は正しい現在地を取り戻しては作業を進めるのでした。


作業を進めるにつれそれはとても容易なことではないのだということに、ますます気づかされます。洋服箪笥を開けると弦の切れたギターと書きかけの楽譜が入っていました。すぐに弦をつなぐと音を調節して作曲を再開しました。それは遠い昔、どこかで聞いたことのあるような曲でした。風が吹いて木が揺れています。開いたカーテンの隙間から夜が入り込んでだんだんと暗くなってしまった後でも、木は影となってより一層の激しい振りで風の豊かさを表現しようとしている。そのような曲でした。けれども、あるところまでやってくると突然空気が異様な変化を示して、指にかかった弦を断ち切ってしまうのでした。何度つなぎ直したところで、結果は同じことでした。もう2度とそこに触れることはやめておこう……。


 私は本当は漫画家になりたかったし、本当は料理人になりたかったし、本当にギタリストになりたかったのです。
そのようなことが思い出される夜、私は引越し用のロケットに僅かな荷物と一緒に乗せられて、天上まで運ばれていくのでした。遠くに映る星々が夢粒のように、生まれたり消えたりしていく様子を眺めていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

熊さんは
理想のパパの
スタイルで
窓辺を占めて
スピノザを読む

 歌は、夕べみた怪獣とアップルティーの夢のようにあっけなく飛んでいきました。





「人間ってかわいいなあ」
 人間だった頃には、少しも気づかなかったのに……。
 私はしばらく天上に篭る間に、人間たちの物語でも書いてみようと思い始めました。


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クリスマスループ

2014-12-22 03:34:42 | クリスマスの折句
 遅かったねと少年は言いました。1度も見たことも会ったこともない少年でした。約束なんてした覚えはないと私は言いました。少年は胸に大事そうにボールを抱えていました。
「待っていました」
「誰を?」
「約束なんてしていなかったから、僕はずっと待っていました。約束なんてしていなかったけれど、あなたはやってきました」
 ボールを土の上に下ろすと私に向かって右足を振りました。私は右足で受けて、少年に向けて蹴り返しました。少年は右足で受けて、右足を真っ直ぐ振りました。ボールは真っ直ぐ私に向かって、ちょうどよいスピードで飛んできました。私はそれを右足で受けて、今度も右足で蹴り返しました。理由のないパス交換が始まりました。今度は少年は左足を振りました。ボールは右足で蹴った時と同じような正確さで、私の方に飛んできました。今度は左足で受けましたが、ボールを少し弾いてしまい、小走りになって追いつくと右足でボールを蹴り返しました。ボールは大きく逸れて、少年は闇の中に消えていきました。
 突如、雲の切れ目から月が顔を出しました。休みなく体を動かしていたので、少し息が切れるのを感じました。月夜の中に、しばらく私は立っていました。冷たい12月の風が首から胸元にかけて入り込んできました。木々を揺らし、土を乱し、落ち葉を躍らせる風は、やがて灰色の雲をかき集めて、月を引っ張り込んでしまいました。
「待っていてくれたんだね」
 闇の中から少年の声が聞こえ、輝くボールが地を這って戻ってきました。
「約束なんてしていなかったのに、待っていてくれたんだね」
 少年は左足を振りました。ボールは真っ直ぐ私に向かって飛んできました。私はそれを右足で受けて右足で蹴り返しました。一度始まったパス交換には、もう深い理由は必要ありません。来たボールを返す。待っているとまた、やってくる。互いにただそれを繰り返すばかりです。
「もっと強くていい?」
 少年は右足を振りました。正確にコントロールされたボールは、ちょうどよいスピードで私の方に向かって真っ直ぐ飛んできます。
「もっと強くてもいいよ」
 私はそれを左足で受けて、右足で蹴り返しました。少し強めに蹴ったのですが、ボールは少年の左足に難なく納まって、少年は左足を振りました。少し速いボールが真っ直ぐ飛んできて、私はそれを右足で止めると、今度は左足で蹴り返しました。少し強めに蹴ったボールは大きく逸れて、少年は闇の中に消えてしまいました。
 突如、雲が散って空の中から月が顔を出しました。ずっと動いていたせいで、冬だというのに体は汗ばみ、節々に微妙な違和感を感じました。しばらくしても少年が戻らないので、この機に乗じて逃げ帰ろうと思いました。けれども、なぜか月がすぐ傍で見張っているような気がして、その刺すような光が私の足をこの地に釘付けにするのでした。
「やっぱり、待っていてくれたんだね」
 背後から声が聞こえました。それは月が雲々に捕獲されると同時でした。
 少年が意気揚々と左足を振り抜くと、輝くボールが真っ直ぐ私の方に向かって飛んできました。私は右足で受け止めて右足で蹴り返しました。
「頼りなくてごめんね」
 少年は左足で受け止めるとすぐには蹴り返さずに、そのままボールを左足で踏んでいました。
「僕はすぐに見失ってしまうから」
「そんなことはないよ」
 少年の左足から返ってきたボールを右足で受けて、少し強く少し慎重に右足を振りました。ボールは真っ直ぐ少年の中心に向かって飛んでいきました。少年は右足で軽く受け止めて、右足を真っ直ぐ振りました。少し強めのボールが真っ直ぐ飛んできました。私は左足で受けるとボールは少し前に弾みました。一歩前に踏み出して私は左足を振りました。ボールは大きく逸れましたが、それよりも早く動き出していた少年の足先が失われるはずだったボールを巧みに絡め取りました。
「もしも僕がシュートを打ったら……」
 何事もなかったように、少年はパスを返してきました。私は右足で受け止めて右足で蹴り返しました。
「どうなると思う?」
 少年は右足で軽く受け止めるとすぐには蹴り返さずに右足で踏みつけました。中に含まれる空気を足の裏で味わうように触れながら言いました。
「どうなるの?」
 強く正確なシュートが想像されました。幾度も繰り返されたパス交換が、シュートの弾道を導き出していたからでした。私は決してそれを受け止めることはできないと思いました。
「虹がかかるんだ」
 少年からのパスを左足で受けて右足で蹴り返しました。徐々に私の蹴り返すボールは勢いを失い、少年の足元に届くまで少しずつ時間がかかるようになっていきました。その僅かに開いた時の隙間で、少年は何か空想を始めている様子でした。
「試してみる?」
 衰えることのない少年からのパスが、変わらない強さと正確さを帯びて、私の中心に飛んできました。少年の表現するところの虹がどんなものか、私はその美しさに憧れながら、一刻も早くこの場から消えたいと思ったのでした。 
 最後の力を振り絞って、私は左足を力一杯振り抜きました。力一杯振ったのに、その速度はあまりに遅く、私は遠く離れた場所で自分の脚が描いた軌道を見送ることができました。それはゆっくりと空に向かって伸びていったのです。もうすぐ月が現れて少年を呑み込んでしまう……。既に影へと変わり始めている少年の形を見つめていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

クラウチの
離陸に合わせ
凄腕が
的当てをする
ストークシティ

 歌は、緩やかな放物線を描きながら月夜の風に乗って飛んでいきました。

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クリスマスピッツ

2014-12-10 00:22:53 | クリスマスの折句
 夕暮れの並木道を歩いていると見知らぬ犬が近づいてきて私を引っ張り始めました。ぐいぐいと引っ張る途中で、時々私の方を振り返ってはちゃんとついてきているかどうかを確かめました。どこか行きたいところがあるのかと訊いても、犬は黙って一瞬顔を向けるだけでした。
「私は雰囲気で引っ張るタイプだから」
 そのように言いたげな顔でした。
 空き地に着くと老若男女に動物たちが集まって草野球をしていました。満塁のチャンスで、左打ちのおじいさんがバットを一振りすると打球は兎が守るライトを高々と越えてホームランになりました。猫やカンガルーやおばあさんが次々とホームに帰ってきてお祭り騒ぎとなりました。夕日の中から巨人の監督が現れてピッチャーの交代を告げると、少年は悔しそうにグローブを地面に叩きつけました。ゆっくりとリリーフの亀がマウンドに向かいます。その間に町内会の人たちが火を起こして、野戦に備えました。食欲をそそる豚汁のよい匂いが風に乗って私たちのいるベンチにまで漂ってきました。
 どうすればこの者たちの輪の中に入ることができるのでしょうか。私はどうにかして温かい豚汁を体の中に取り入れたいと願いながら、亀の歩みを見つめていました。
 ありったけの土を集めて盛り上げられたマウンドの上に、リリーフ亀は登ろうとしましたが、あまりの険しさに何度もひっくり返ってしまいます。その度に自力で反転して起き上がることを繰り返した後、とうとうこちらに向かってやってきました。
「最近めっきり体力が落ちてねえ……」
 リリーフ亀は言いました。
「若い頃は富士山にも登ったもんさ」
 と言って首を伸ばしました。
「そうですか」
 頂上に立つ亀の姿を思い浮かべました。それは私たちが生まれるよりもずっと昔のことかもしれませんでした。犬は、黙って立ち上がると、救援を待つマウンドの方へ向かって歩き出しました。静かな闘志が秘められた後姿を見つめていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

黒帯の
リストを抱いて
スピッツは
マッターホルンの
裾野におりる

 マウンドの炎に包まれて、間もなく歌は燃え尽きてしまいました。
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クリスマスポテト

2014-10-01 12:09:01 | クリスマスの折句
 通い慣れた散歩道を犬が単独で歩いているように見えました。その後にゆっくりと歩くおじいさんの姿が見え、おじいさんと犬の間が実は長いロープでつながっていることがわかりました。犬、おじいさん、ロープという順序で真実が道の上に立ち現れたと思って間もなく、犬は消えてしまいました。先を行くのがおじいさんで、その後を他人のような距離を取って歩いてくるのは少女でした。おじいさんと少女との間は見えない糸でつながっているように、一定の距離が保たれています。少女は歩きを覚え始めた時より少しだけ成長して、おじいさんからぎりぎりまで離れるという遊びをしていたのでした。
 やがてどこからともなく、犬が跳ね戻ってきた時、おじいさんと少女は手にそれぞれロープの端を持って回していました。犬は招かれるまま楽しそうに縄跳びをしています。

「どうぞ。お入りなさい」
 今度は、私に向かって少女が言いました。
「大丈夫。これはトレーニングモードだから」
「そうとも。思い切って失敗しなさい」
 玩具のような犬の跳躍に、私は躊躇していました。
 彼らは私をだますためだけに、架空の劇団を作ったのかもしれない。
「大丈夫。思ったことを口にするのよ」
「そうとも。思い切り嫌われて、思い切り後悔しなさい」
 大きく弧を描く2人の間で、疲れを知らない犬の跳躍が、おいでおいでと語りかけているような気がして、徐々に私の体は、招待の風の中に引き寄せられていくようでした。
(おいでよ、もっと、おいでよ)
「大丈夫。何が起きても、何も起きていないのよ」
「そうとも。思い切って羽を伸ばして」
「さあ、飛んでごらん!」
「さあ、歌ってごらん!」
 大丈夫。この人たちは、悪い人たちではない。私だけを、待っているのだから。
 意を決して飛び込むと、私は犬の後に続いて跳ねていました。
 こんなにも軽いのは、私の背中で羽が伸びているからかもしれない。私はたった今入り込んだモードの中で、できる限りのことがしたくなりました。愛らしい犬の耳を見つめながら、そのようなことを考えていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

くだらない
理由をつけて
拗ねている
街は冷たい
スイートポテト

 犬、おじいさん、少女の順で消えてゆくと、最後に歌がロープを渡って逃げてゆきました。


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クリスマスクルー

2014-05-02 20:38:06 | クリスマスの折句
 捨てたはずの過去を誰かに見透かされているような気がして怖くなった私は、少し小さな旅をして見知らぬ駅で降りると聞いたことのない名前のファーストフード店の中に逃げ込みました。店内はお昼時でもないのにいっぱいで、治安の悪い宇宙酒場のようにごった返していました。注文カウンターは横に広々と伸びて幾人ものスタッフが大きな声で手を伸ばしながら、客を誘っているのが見えました。その手は、皆宇宙人のように長く、少々の栗や柿ならば道具を使わず素手で掴み取ることができるように見えました。

「こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらへどうぞ!」
「こちらにもどうぞ!」
「いえいえ。こちらへこそどうぞ!」
「ようこそ。こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらにもどうぞ!」
 こちらと思えば、こちら、またこちらかと思えば、こちら、という風に、あちらこちらから手が伸びる様は、この店の特色なのか、非常に活気にあふれ、まるでゾンビ酒場のように魅惑的に思えました。
「こちらへどうぞ!」
「いえいえ。こちらにもどうぞ!」
 私は白く伸びた指先に導かれて、カウンターの前に立っていました。
「秋の青空バーガーはいかがでしょうか?」

 空は、もう捨てたのに……。

「お客様へのおすすめになっております」
「いいえ。それは昔の話です」
「ご一緒に翼のポテトはいかがでしょうか?」
 空は、もう捨てたのだ……。
「あなたにお似合いの……」

 1階には空席がなく、私は24番の番号札を持ったまま半乾きのセメントの上を恐る恐る歩いて、2階お化け座敷に上がりました。
 私以外はみんなお化けで、お化けたちはそれぞれにバーガーを頬張ったり、ストローをくわえたりしながら、夏の催しについて会談をしているのでした。
 ここでは私は見えない存在かもしれないと思いながら、私はただ彼らの話を聞いていました。
「化けられるのは今の内だよ」
 突然、お化けの1人が私の方を向いて言いました。私は驚いて何も言い返せませんでした。
「いつになったら話が煮詰まるのですか!」
 風格のあるお化けが言いました。けれども、お化け共のアイデアは出尽くすどころか、ますます斬新なますます人間離れした、あたかも未知の惑星、未知の種を探すように果てしなく広がって行くようでした。声が声に被さり、被さった声にまた別の声が噛み付いて賑やかなことこの上ないのでした。
 ようやくセメント臭を漂わせながら店の人が上がってきて、私の番号を探し当てました。
「お待たせいたしました。秋の青空バーガーと翼のポテトでございます」
 身に覚えのない注文を、男は大きな声で読み上げました。
「違う! 私はもう足を洗ったんだ!」
 その瞬間、固まった沈黙と共に一斉にお化けたちが私の方を振り返りました。
 テイクアウトすればよかった……。静寂の中に生まれた後悔の中から、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

靴付けた
領土はほんの
数分間
まるでドライブ
スルーのように

 クリスマスになってしまうよとお化けの1人が言いました。

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クリスマスピリチュアリティ

2014-03-27 15:57:47 | クリスマスの折句
 いつものように目薬をさして長めに眼を閉じているといつの間にか眠ってしまい、目を開けた時にはまだ5時前だったので、もう1度眠ることにしました。再び眼を開けた時には、時計の針はまだ5時前で、私はさっきと同じようにもう一眠りすることにしたのでした。次に眼を開けた時、部屋の中はまだ薄暗く、時計の針は5時前を指していました。またいつもの停滞が始まってしまった。そこは魔の時間帯、その中に捕らわれてしまうとゼロに達することができず、永遠にそこから先に進むことができなくなるのでした。針は必死に動こうとして揺れているけれど、ちょうど進んだ分だけ後ろに戻ってしまうのです。ここは私が少し手を貸してあげなければなりません。
「デジタルの世話になんかなる
もんか!」
 素直に礼を言う代わりに、針はいつもそう言って強がるのです。もうみんなすっかりと、デジタル世界の中の住人だというのに、自分だけは不変の時の中に守られていると信じ込んでいるようです。苦しんでいた5時の山を越えると、あとは失われた時を取り戻すように、針は駆け足で進んでいきます。私はそれに歩調を合わせて夢の中を清算し新しい自分を再構築しなければなりません。占いによると夜には別の自分が見つかるとのこと。
 隣の町に向かう最短ルートの地下道を避けて、私は遠回りして踏切の音を聴きに行きました。長い長い列車が1本通り過ぎても、踏切は開きも鳴り止みもしません。延々と続く踏切の音に聴き入っていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

唇で
流氷に触れ
彗星と
交わる夜の
スピリチュアリティ

 遮断機の前で立ち尽くす間、歌はずっと足踏みを続けていました。
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クリスマスクッピー

2014-03-18 14:30:36 | クリスマスの折句
 先日、予定の時間より少し遅れて病院に行ってみると待合室はどこもかしこも人でいっぱいで、座る場所を探すのにも一苦労する有様でした。目覚まし時計はちゃんとセットしていたし、しっかりと鳴りもしたし、私はその音と同時に起きもしたのでした。そして、そつなく準備を済ませると予定の時間よりも少し早く家を出発したのでした。天気もよく、道行く信号機はみんな青でした。このままでは予定よりも早く着きすぎてしまう。そう考えた私は、いつもより歩くペースを3分の1遅くしたのでした。
 見たところ席は1つしか空いてなく、隣にはとても大きな熊が近寄り難い雰囲気を醸し出しながら座っていました。恐る恐る近づいていく内に、私は既に近づき過ぎたことを悟りました。今更引き返すには、私の体は空席を探し、空席に近づき、空席を探し当てて、空席に身を沈めようとする雰囲気を多分に醸し出していたからです。軽く頭を下げながら、私は熊の隣に座りました。
(早く熊がいなくなりますように) 
 私はただそれだけを祈りながら、まるで頭に入り込まない活字の海を手の中に広げて耐えていたのでした。3分の1でなく4分の1くらいならばよかっただろうか。突然襲い掛かってきたらどうしよう。そう考える1分はとてつもなく長く感じられ、私は私の時間が訪れるより先に倒れてしまうかもしれないと思いました。
 呼ばれたのは熊の隣に座っている女の子でした。
「お母さんも一緒に入られますか?」
「はーい!」
 熊は元気に返事をしました。熊はお母さんだったのです。
 そうとわかると今まで自分が密かに抱いていた恐怖が、おかしくて仕方ありませんでした。身勝手な想像を悔い、反省していると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

クッピーの
領地におりて
水牛は
曲がり角から
水車を睨む

 緊張から解かれたせいか、歌はそれからとんとんと浮かびました。

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クリスマスクジラ

2014-02-11 14:28:02 | クリスマスの折句
 先日、道を歩いておりますと偶然にも同じ方向に歩く人がいました。奇妙な出会いがあるものだとすっかり意気投合して2人並んで歩いている内に、すっかり仲良くなっていつまでも同じペースで歩いている内にすっかり打ち解けて、帰る家も忘れてすっかり話し込んでしまいました。話せば話すほどに2人の間にはこれという接点もなく、まるで趣味が合わないことがわかったのでした。
「何1つ合わないとは!」
「奇妙な偶然ですね」
「趣味が全然合わないや!」
「あなたは人間ですか?」
 という最後の一言が私たちの間をすっかり断ち切ってしまいました。
 翌朝、テレビをつけると人がニュースを伝えていて、世界が滅びていないことを知りました。
「クジラは地球のお母さんです」
 とアナウンサーが言いました。世界が存在していることに感謝しながらうとうととしていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

クジラから
リリースされた
捨て猫は
街の外れを
すみかに決めた

 浮かんだ歌を枕元に置いて、もう1度眠ることにしました。

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クリスマスマミー

2014-02-03 23:47:05 | クリスマスの折句
 先日、歩道の上を歩いておりますとちょうど同じ頃、亀も私の隣を歩いていました。甲羅に小さなリュックを背負って着実に進む亀は、私の歩くペースよりも少しだけ遅く、私の少し後を少し遅れながらついてくる形でした。けれども、私が何かに気を取られている間に、気がつくと亀は私を追い抜いて私の前に出て歩いているのでした。
(寝かせておく)という言葉を覚えてから、色んなものを寝かせておいた。寝かせておくということは捨てずに取っておくということだ。それが後に必要とされたり再評価された時に寝かせておいた自分を誇りに思うために。多くのお菓子は、寝かせておける時間の感覚を誤ったためにカチカチになったりパサパサになったりして、ただ自分を愚かに思わせることが多かった。
 そんなことがあったなと思った後、正気を取り戻すと私は再び亀を追い抜いて、亀の前に出ました。私だって、私なりのリュックを背負っている。歩くことは、頭の回転をよくするのだ、と父が言っていた。それは本当なのかもしれない、と少し思いました。
もう話すこともできないのだと思っていて父が、突然起き上がってテレビを見るために悪戦苦闘したり、リモコンを持って延々とチャンネルを変え続けたり、夕食がくるとベッドから抜け出して私の隣にやってきてパイプ椅子に座った。動いた。立ったり歩いたりもできるのだ。売店が閉まるぞ、と教えてくれた。薬を開けてくれ、と頼んでくれた。明日は何日だ、と訊いてくれた。
 祝日か水曜日かと思っていると、その間に亀が前を歩いていました。再び現在に戻ってきた私は、すぐに亀を追い抜いて、亀の前を歩くだろう。これは長いレースになるのだ。歩みのぶれない好敵手と張り合っていく覚悟を決めていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

9時前の
隣人ちょんと
座っては
マミーの傍で
ストローを持つ

「どうしてそうなる?」
 父の声が聞こえてくると歌は12月の先頭を向いて歩いていきました。

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クリスマスステイ

2014-01-28 17:15:08 | クリスマスの折句
 先日、夕暮れの公園通りを歩いておりますと足元にボールが飛んできました。優しく蹴り返すとその優しさにつけ込むように再びボールが飛んできて、再び優しく蹴り返すと優しい噂が瞬く間に広がったのか、色々なところからボールが飛んでくるようになりました。
「ここはミックスゾーンだよ」
 とフランス人は言って、気がつくと私もフランス語で気さくに応じているのでした。
「ボールは国境も軽々と越えますね」
「やさしいことね」
 と狐は言って、私はあらゆる言語を理解してる自分に気づき、あらゆる方向から飛んでくるボールを負けじと蹴り返しました。夢中で蹴っている間に、私は家に帰ってテレビを見ることも忘れ、ミックスゾーンと呼ばれる公園の中で未知の仲間たちと戯れているのでした。徐々に闇がゾーンを包み込み、足元に入るボールを視野に捉えることも難しくなっていきました。
「ああ、面倒だ」
 狐の声が聞こえました。
「面倒なくらいなら死んでしまいたい」
「馬鹿なことを言うな!」
 何を馬鹿なと私は間違いを正したつもりでした。
「今のは私の声じゃないよ」
 と狐は言いました。
「ここはミックスゾーンと跳ね返りゾーンの共有ゾーンなんだ」
 と狐は声のからくりを説明してくれました。
「誰かの声が、君に跳ね返って私に届いたというわけか」
「だけど、試しに私に言ってごらん。運がよければ届くかもよ」
 と狐はいい加減なことを言うのでもうわけがわかりません。
「もうすぐクリスマスじゃないか!」
 そう言って力を込めてボールを蹴ると、思った以上にボールは浮いてしまいました。ゾーンを越えてしまうかもしれない、と心配していると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

くちばしに
良心こめて
巣作りの
窓辺で愛が
Stay している

 私は種々の反響をおそれ、こっそりと声を殺して歌いました。

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クリスマスアップル

2014-01-21 00:00:37 | クリスマスの折句
 眠り時とされる時が訪れ、眠りを迎え入れるすべての形を整えても当の眠り自身が訪れませんでした。
「おーい。こっちだよ」
 誘ってみてもまるで駄目でした。それはあまりにも策のない誘い方だったからです。どれほど魅力的な夢の筋書きが待っているからとか、夢の国にかつてないほど美味なパンが焼きあがっているからとか、それなりに引きつけられる題材が必要なのだけれど、私の声はただ私のいる方向を示しただけで、工夫のかけらもないものだったからです。けれども、いつまで経っても誘うことに慣れませんでした。私は私自身に話しかけているような気がして、工夫を凝らすことが恥ずかしいことだと思っていたせいです。
 仕方なく他人の日記やつぶやきの中に潜り込んで、挫折感を紛らわすことにしました。関心はどこまでも薄く、一字一句を噛み砕くことなどできません。ただ筋力を使わないジョギングのように、傷つくことのない真夜中の獣道を、幻の風を感じながら下りていくのです。どこかで眠りを持ちわびながら、幾度も繰り返される更新。やがて、それにも終わりの時が訪れて、私は足を止めなければなりません。時の行き止まり。それが私の現在地。私は呆然と真っ白い壁を見続けています。
「誰も訪れませんよ」
 私の枕元に跪いて、忍者が言いました。
「待っていれば、誰かが訪れるはず」
 あるいは人ではない、何かが……。
「時代が終わったのです」
 無情に忍者が言いました。人の目を見ず、膝小僧を見つめています。
「そこに何があるのですか?」
 私はそこに秘密の抜け道があるのかもしれないと考えました。
「ご注文をどうぞ」
 注文はとっくの昔に通したと私は答えました。
「ご注文をどうぞ」
 私は新しい注文をひねり出さなければならない必要に迫られたのでした。そして、迫られていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

首筋に
林檎をつけて
ストリート
マップの中の
スイーツを追う

 忍者の膝小僧を見つめる内に、私は徐々にうとうととしてきました。

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クリスマスピロー

2014-01-14 00:51:03 | クリスマスの折句
 先日、通い慣れた道を歩いておりますと心地よい調べに誘われて、足が自然と心地よい調べの方に歩いていきました。道端のピアニストは心地よい調べを武器にたくさんの聴き手を集め、散歩途中の愛犬家や取引先に向かう営業マンや買い物帰りに買い物袋を抱えた奥様方をみな虜にしているのでした。ピアニストは熱演の後、1曲毎にその指を止めしばし瞑想に耽るように無になっていました。盛大な拍手が鳴り止んだ後も、しぱらくの間、ピアニストはじっとして動かないままでした。その間も、人々は辛抱強く足を止め、次の演奏が始まるのを楽しみに待っているようでした。大勢の聴き手に交じって、私も長い間足を止めて、心地よい調べに聴き入っていました。長い長い1曲が終わり、いつものようにピアニストは指を止め目を閉じて動かなくなりました。拍手が終わって、随分と長い時間が経ってもピアニストは動きませんでした。
(これが本当の終わりなのかもしれない)
 無言の会話が人々の間を駆け抜ける頃、ついに1人の聴き手がその立場を放棄して去っていきました。続けて1人、もう1人、一度流れができるともう止まりませんでした。人々は突然、日常に目覚め、自らの義務を思い出したようでした。私はまだ疑い深く、まだ残る数人に交じって目を閉じて、もう少しもう少しと待ち続けていました。余韻が余韻から離れて静寂へと帰って行きます。私は立ったまま眠りに落ちました。夢の中でピアニストは海を渡り、猛獣使いになりました。再び目を開いた時、辺りには誰もいませんでした。
 けれども、ピアニストが忘れていった音符の1つが、鉄柱に巻きついて、夜風を受けてそよいでいました。
「みんなもういったよ」
 音符は言いました。とっくの昔に、いってしまった。
 聴き手がみんな立ち去ってから、ピアニストも行ってしまった。あるいは、ピアニストが立ち去って、聴き手もみんな去ってしまった。どちらが正解なのか、私にはわかりませんでした。そして、みんなというのは調べのことなのかもしれませんでした。
「きみはいかないの?」
 私は訊き返しました。
「どこにもいかないよ」
 小さな体を夜に向かって伸ばしながら、音符は答えました。
「まっているだけ」
 一段と強い風、体が何かあたたかいものを欲している……。
 何か、何か、そう考えていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

苦とともに
リトライをした
数年も
枕の上に
睡魔はこない

 ほんのひと時、あたたかい感触を置くと歌はすぐに道の向こうに去っていきました。

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クリスマスマネキン

2014-01-12 20:28:40 | クリスマスの折句
 先日のこと、街の中で喧騒に包まれていると、最初はすごく心地よかったものが突然不安に思われてきて、喧騒と自分を断ち切ってしまわなければ自分自身が喧騒の中に落ち込んでそこから戻れなくなってしまうと思われました。ちょうど去年の夏くらいから絡まり始めたイヤホンの無残な輪の中に指をすり込ませて1つ1つ解していくと、ようやく元の1本筋の通った道を見つけることができたのでした。張り詰めた夜の隅っこに、真っ直ぐ伸び切ったイヤホンの細い橋の上を妖精が渡っていきます。少し緩めるとバランスを崩しそうになって、そんな時は小さな腕を真横に伸ばして姿勢を保ち、再び橋が正常に回復するのを待ちます。綱渡りのような夜でした。何度か緩めたり伸ばしたりを繰り返した後、今度はもっと思い切って緩めるととうとう妖精は地面に落下してしまいました。
「遊ぶんじゃない!」
 妖精は顔を真っ赤にして怒りました。
「遊んでいるのはあなたです!」
 長い時を越えてようやく伸び切った道の上に、勝手に上がり込んできたのは他ならぬ彼だったのですから。その後も一切主張を曲げずに突っ張っていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

首をかけ
竜と戦う
数千の
マネキンたちが
素肌をさらす

 浮かんだと思った歌は、すぐに喧騒の中で凍り付いてしまいました。

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クリスマス相撲

2014-01-10 10:59:04 | クリスマスの折句
 底冷えのする夜の中を歩いているとなぜだかとても温かいものが食べたくなります。私はふと足を止めるとドアを開けて、冷たい風を身にまといながら中へ足を踏み入れました。私の他に来客はありませんでした。
「ちくわと玉子を」
 そう言って待つ間に、口寂しくなってきたので、
「大根とこんにゃくを」
 そう言って待つ間にも、口寂しさは増していくので、
「ちくわと厚揚げを」
 と言ってみると、まだ食べてもいないのに、もう少し空腹が満たされたような気がしたのでした。
「ちくわはさっきも言っただろう!」
 と突然大きな声でマスターは言い、
「ここは交番だ!」
 とおまわりさんは言い、私もつられていっときおまわりさんになりました。
 喧嘩だという通報を受けて、町の盛り場に出てみると即席のステージの周りで酒に酔った男たちの怒号が飛び交っていました。けれども、近づいてみると戦っているのは生身の人間たちではなく、人間に見立てた紙の力士だったのです。それぞれの紙の力士には名前がついていて、男たちは感情を込めてその名を叫びながら熱い声援を送るのでした。紙なら安心と油断していると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

屈強な
力士はみんな
相撲取り
まわしの下は
素足であった

 浮かんだ後で寒々として、またおでんが食べたくなりました。

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クリスマストリート

2014-01-03 18:15:50 | クリスマスの折句
 先日、何の気はなく街を歩いておりますと構想外の空き地の中で構想外の人々が集まって構想外の監督の下に構想外のチームを作って練習をしている風景が目に飛び込んできました。人々の目はみんな構想外の輝きに満ちていて、その動作の1つ1つは、いつか構想内のものたちを打ち負かしてやろうという迫力にあふれて見えたのでした。
「そんなプレーは構想内だぞ!」
 平凡なプレーをした者には、構想外の監督から容赦のない声が飛びます。監督が望んでいるのは、もっと今までにない構想という枠にとらわれない斬新な何かのように思われましたが、それは私などの想像に及ぶものではなかったのでしょう。監督の描く本当の構想とは何なのか、それを理解している者がいるのかいないのか、それは通りすがりの私などにはまるで窺い知れないことであったのかもしれません。
「構想外のプレーを見せろ!」
 監督は繰り返し同じ要求を突きつけていましたが、それに応えることはなかなか大変なことのようにも見えました。留まり守っていたものから離れて、飛び出し破っていくということは、言葉で言うより遥かに難しいことだったのかもしれません。
「どういうことなんだ!」
 ついに構想外の監督に対して、意見がぶつけられました。それは既に監督の構想の中にあったのでしょうか、なかったのでしょうか……。蚊帳の外から1人そんなことを考えていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

黒塗りの
リストを手にし
ストリート
マジシャンたちが
透かし見ている

 浮かんだと思った歌は、すぐに鳩になって西の空に飛んでいってしまいました。

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