時々カレーを作りたくなる。適当な肉と玉葱、それに人参と何かのキノコでもあれば申し分ない。その時は袋に3本入った人参の内の2本だけを使い、残りの1本は冷蔵庫に戻した。鍋が大きくて余裕があったら、そんなことをせず、全部使い切りたいところだが、鍋は十分に大きくはなく、下手をするとあふれ返ってしまう。玉葱や人参は半分すり下ろし、残りをタジン鍋で煮込む。それから電子レンジを使い粉末のルーと一緒に加熱する。適当なところで出して混ぜてルーをとかし、もう一度加熱する。やはり自分で肉や野菜を入れて作ったカレーは、自分で作ったということもあって、レトルトよりも数段上手く感じられる。一度作れば、2、3日何も考えずに食べ続けられるのもよい。作ったカレーを全部食べきってしまう頃、間を置かずにカレーを作りたくなる場合もあるが、それはよほど脳がカレーモードになっている時だ。普通はそのようなことにはならず、いくらかの間が空くことになる。この前、カレーを作ったのは、いつだったか。1週間前か、10月のはじめだったような気もする。あるいは、9月のことだったかもしれない。日記をつけていれば、こんな時に日常の細かいことを振り返り思い出すこともできるのだが、そういうまめな習慣はなかった。
日に何度も冷蔵庫を開ける。一番多く触れるのお茶やペットボトルのスポーツ飲料などで、一口飲んではすぐに戻す。カレーを作った日から、何度も冷蔵庫を開けて、肉や野菜等を取り出したり戻したりして、適当な食事を作った。決して整然としてはいない冷蔵庫の中から消費期限の決まっているものは、その日付に注意しながら消費していかなければならない。豆腐、納豆、ヨーグルト……。みんなそれぞれに期限が記されている。人参にはそれがなかった。
(人参なら大丈夫だろう)
他の野菜に比べても、人参は大丈夫。どこかにそんな過信があったかもしれない。存在をまるで忘れていたというのとは違う。何かを取り出す度に、冷蔵庫の隅っこに横たわっている濃い色を一瞬認知することはあったのだ。カレー以外のアイデアが豊富だったら、眠らせたままにすることはなかっただろう。
最後の1本は萎れ黒ずみ、人参らしい強情さは既に損なわれていた。
「ああ、悪かったね」
人参はゴミ箱の底に沈み、何も言い返してはこなかった。