眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

曲芸的現代将棋

2024-05-27 23:35:00 | この後も名人戦
「おっと、挑戦者が座布団を一段高く積み上げました。先生これはいったいどういう動きになるのでしょうか?」

「解説しますと、角度を変えて読み直そうという狙いになりますね」

「座布団1枚2枚でそんなに変わってくるものなのでしょうか?」

「全く異なりますね。高段者の視点というのは、非常に繊細なものですから。今、直前に名人の指した手が新手でして、今までの常識からはない手なのですね。そういった手に対しては、同じ角度からの読みでは超えていけない部分もありますから」

「しかし、少し心配なことが。あまり高く積み過ぎると、うっかりバランスを崩して転倒したりという恐れはないのでしょうか?」

「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか」

「現代将棋に精通している棋士が、座布団の1枚や2枚のことでおかしくなるはずがないんですよ。仮に7枚や8枚であったとしても、ここにいるご両人なら大丈夫かもわかりません」

「それは恐れ入りました。バランス感覚あっての現代将棋というわけなのですね」

「そういうわけです」

「一段と高いところから挑戦者は新機軸を打ち出すことができるのでしょうか」

「次の一手が、今後の展開を左右することになりそうです」

「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」







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棋士の危険なおやつタイム

2024-05-26 23:27:00 | この後も名人戦
「あれっ? これは目の錯覚でなければ、挑戦者の駒台の上にシュークリームが置かれているように見えますが、先生あれは」

「錯覚ではございません。おっしゃる通りです」

「駒台にシュークリーム。ということは、いよいよ手段が尽きたということになるのでしょうか?」

「それもないわけではないですが、全くその逆もあり得ますね」

「逆ですか? 手段があふれているのでしょうか」

「解説しますと、棋士あるあるになるのですが。ついつい読みに夢中になるあまり、他のことを忘れてしまうことがありまして。現状では、食べている途中でシュークリームの存在を忘れた可能性がありますね」

「そんなことがあるのでしょうか? 私などは何があっても絶対に忘れない自信がありますが」

「局面の切迫度から言って、十分あり得る話です」

「それだけ難解な局面ということなのですね」

「そういうわけです」

「今、記録の少年が指をさして指摘したようです」

「いい記録係ですね」

「なかなか横から言いにくいところを、勇気を持って指摘するのは偉いですね」

「シュークリームもかたくなってしまいますから」

「せっかく美味しそうなシュークリームですものね」

「そういうことです」

「この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」






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君の肩を少し借りよう

2024-05-25 23:50:00 | この後も名人戦
「はっ! 挑戦者の肩に。鳥がとまっています。先生、これはペットの鳥なのでしょうか。挑戦者を応援しているのでしょうか?」

「何をおっしゃいますやら。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか。しかしあれはどう考えれば」

「ペットの鳥なわけないじゃないですか。挑戦者はそんな常識のない人間ではありません。解説しますと、あの鳥は好手を呼ぶ鳥とされておりまして、時折開いている窓から入ってくる観る鳥の一種です」

「そうだったのですね。まさかそういう鳥がいるとは」

「この地方では割と有名です。ですから、対局室の誰も全く驚いたりする様子がないわけです」

「流石ですね」

「研究済みということですね」

「評価値はやや苦しめですけど、この後いい手が出そうだということですね」

「そういうわけです」

「楽しみですね。この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」








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ダンサー乱入

2024-05-24 09:23:00 | この後も名人戦
「これは突然何事でしょうか? ダンサーの方たちが入ってきて踊り始めました。部屋を間違えられたのでしょうか、先生これは」

「いえいえ間違いではなく演出ですよ。今、盤上にダンスの歩という手筋が出たところですから、それに合わせて踊られているわけです」

「これはびっくりサプライズですね!」

「ちゃんと立会人の許可を得て入室されているわけですから、ここは見守るところでしょうか」


「一昔前ではとても考えられないことではなかったでしょうか、先生」

「将棋界も前に前に進んでいるわけですから」

「現代将棋ならではということでしょうか」

「そういうわけです」

「それにしても、ダンスの歩というのは、なかなかお目にかかれないものではないでしょうかね」

「手筋の中でもまさにダンスの舞のように華麗な手筋ですね」

「今日は観る将の方も、とてもラッキーだということですね」

「そういうわけです」

「お楽しみいただけましたでしょうか。この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」







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宇宙対局

2024-05-23 03:57:00 | この後も名人戦
「いよいよ両者秒読みとなりましたね。あれほど時間があったのに、もっと大事にできなかったのでしょうか?」

「何をおっしゃいます。大事にした結果として、今こうして秒を読まれておるわけです」

「50秒から、1、2、と読まれてますけど、もしもそのまま10まで行ってしまった場合、先生その時は、対局者は打ち上げられてそのまま宇宙へと飛び立ってしまうというようなことがございますでしょうか?」

「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか。大丈夫でしょうか」

「ドリフのコントじゃないんですから。そんなことは起こり得ません」

「では、もしも10まで読まれたとしたらその時は……」

「その時はほぼ訪れないと言っても過言ではありません」

「ほー、どうしてでしょうか?」

「9まで読まれた段階で、指が自動的に動きますから。1秒というのは、案外長いものなんです。59.9でも間に合ってますからね」

「棋士の指というのはすごいのですね」

「盤上は宇宙ですから」

「宇宙は身近なところにあるのですね」

「そういうことです」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」











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鬼の対局室

2024-05-21 19:03:00 | この後も名人戦
「今、ねじり鉢巻をした人が入室されて席に着きましたが、桃太郎でしょうか?」

「何をおっしゃいます。桃太郎がねじり鉢巻してましたか?」

「はっ! だとすると祭り男でしょうか、先生」

「桃太郎でも祭り男でもございません。あれは観戦記者の方ですよ」

「それは大変失礼いたしました。ねじり鉢巻がとても印象的で……」

「いいじゃないですか。そこは別に。共に戦っているという証左に他なりません。真剣勝負の場ですから。盤の前でも机の前でも、そこは何1つ変わらないというわけです」

「そうですね。私も見習わなければなりませんね」

「読むか書くかの違いだけですから」

「誰もが戦っていらっしゃるのですね」

「そういうことです」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」






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対局室の野生

2024-05-19 22:43:00 | この後も名人戦
「ただいま対局室に狸が入ってきたようです。ご両人は全く動揺する様子がありませんが、先生これは流石に保護した方がよろしいですよね」

「何をおっしゃいます。そんなことをしたら駄目ですよ、田辺さん」

「先生、どうして駄目なのでしょう?」

「保護するも何もあれは見届け狸ですから」

「見届け狸? これは大変失礼いたしました。てっきり道に迷ってどこかから紛れ込んだものと思ってしまいました」

「ちょっと迷ったくらいでたどり着けるような場所ではございません」

「ほほほほっ、おっしゃる通りですね」

「応募者多数の中から厳正なる抽選の結果、見事にその座を射止められまして、こちらまで来ていただいているということです。指し手の善悪はともかく、一生懸命見届けて帰られます」

「それだけこちらは自然が豊かな場所にあるということですね。将棋を愛するのは、人間だけではありません」

「そういうことです」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」








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歩切れに泣いた人

2024-05-18 16:57:00 | この後も名人戦
「歩切れに泣いているのでしょうか。挑戦者の視線が下の方に落ちていますね。そう言えば先生、駒箱の中には確か歩が数枚余っていたと思うのですが、これを使えば問題は解決するのではないでしょうか?」

「何をおっしゃいます。そんなことできるわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうだったでしょうか」

「それはあからさまな反則行為です。即失格の上に次戦より3試合出場停止になってしまいます」

「では先生、駒箱の中にあったあの歩は何だったのでしょう?」

「余り歩といって駒箱の中で休んでる駒ですね」

「余っているのに使えないというのは何か不思議な気もしますが」

「歩というのは将棋の駒の中でも一番酷使されて疲れが溜まるわけです。ですから順番に箱の中で休んでもらって、言わば充電されているわけですね」

「ということは出てくるのは次の対局以降ということですね」

「そういうことです。足りないからといっていきなり出てくるようなことはないですね。棋士はすぐわかりますし、勿論記録係も発見します。カメラにも全部映っているわけですから、そんなおかしなことは元からできっこないんです」

「ほーっ、大変勉強になりました。やはり、将棋は歩からなのですね」

「そういうことです」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」







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強風対局室

2024-05-10 00:43:00 | この後も名人戦
「ゴミ箱が倒れてしまいました。幸い何もあふれてはいないようですが、ものすごい風です。もしも盤上の駒が吹き飛ばされてしまったら、戦力不足に陥ってしまうことが懸念されますね。先生、そういった心配はないのでしょうか?」

「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか。かなり強い風に思えますが」

「今は換気のために開けなくちゃならないからそうしているわけです。ゴミ箱は風をまともに受けて倒れたようですが、駒の方は大丈夫です。吹かれて飛ぶようなそんな作りをしてませんから。駒職人の方が魂を入れて掘ったり埋めたりされているわけですから、全く心配する必要はございません」

「ほほほほっ、これは大変失礼いたしました。街に嵐が来ようとも、駒たちはびくともしないということで、安心ですね」

「そういうわけです。定跡の本にもちゃんと書いてますから」

「風にも負けずということで、お二人の気合いが感じられます」

「勝負はまだまだこれからですから」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」










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みんなのおやつ

2024-05-09 00:05:00 | この後も名人戦
「両対局者に続いて、記録係の少年も食べ始めました。しかし、食べることに夢中になって、うっかり記録し忘れたりしたら、大変なことになってしまいますが、先生そのような心配はないのでしょうか?」

「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか。だといいのですが……」

「今は昭和や平成とは違って、記録の方も進歩しているわけです。ですから、いちいち手で記録しなくても、棋士が指したらAIが認識してそれを自動的に記録するようにちゃんとなってるんです」

「そうだったのですね。それは大変失礼しました」

「ああ見えて、記録も大変頭を使う作業ですから。頭を使うと腹も減るんです。対局者がチキンラーメン食べてるんやったら、記録係も負けずに食べたらいいじゃないですか。もう3時なんですから、みんなでチキンラーメン食べるのも当然の一手とも言えるわけです」

「チキンラーメンはみんな好きですものね」

「そういうことです」

「よろしければ、みなさんもご一緒にいかがでしょうか」

「ぜひともそうしていただきたい」

「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」









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稲妻対局室

2024-05-08 02:57:00 | この後も名人戦
「大変なことが起きました。落雷の影響による停電でしょうか。たった今、対局室の明かりが消えていました。タブレットの光によって辛うじて様子がわかるほどでしょうか。先生、このままでは対局の継続が危ぶまれますでしょうか。もしも回復しない場合は、対局延期になってしまうのでは?」

「何をおっしゃる。そんなおかしなことにはならないですよ、田辺さん」

「そうでしょうか」

「説明しますと、棋士というのは誰しも脳内将棋盤といって頭の中にちゃんと鮮明な局面が映ってるわけなんです。ですから、たとえ部屋の中が真っ暗だろうが、特に何も問題はないわけです」

「これは大変失礼しました。取り乱してしまいました」

「正着は指が指し示してくれますし、いざとなれば符号を告げることもできますから。むしろ、これくらいでちょうどいいとさえ言えます」

「ムードがあって、これはこれで素敵にも思えてきました」

「万一回復しないとしても、何の心配もありません」

「素敵な夜戦になりそうですね」

「そういうことです」

「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」








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記録係の修羅場

2024-04-30 00:51:00 | この後も名人戦
「かなり揺れてますが、大丈夫でしょうか。机に頭をぶつけなければいいのですが」

「ランチの後は仕方ないですね。記録係も人間ですから」

「もしや目の前の指し手が緩すぎて眠くなってしまったということはないのでしょうか?」

「何をおっしゃる。そんなことあり得ないじゃないですか、田辺さん」

「そうですよね。これは大変失礼しました」

「横で見ているというのも結構大変なんですよ。皆こうした修羅場を乗り越えて強くなっていくわけですから。でも、きっと大丈夫ですね」

「大丈夫でしょうか」

「次の一手できっと目が覚めますよ」

「それはどういった理由からでしょうか。王手飛車か何かかかるのでしょうか」

「今にわかります。もう指されますね。今の彼には強いショックが必要なんです」

「それはハンマーで殴られるようなショックでしょうか」

「今に出ますから。ビシッと指されますから」

「楽しみですね。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」
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絶望に遠い姿勢

2024-04-24 03:28:00 | この後も名人戦
「脇息にもたれかかって、このままでは地の底の方に沈んで行きそうですが、先生これはやっぱり、現局面に絶望感を持っていて、投了も間近と考えられますか?」

「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか。あの様子では、かなり苦しげかと」

「今は限界点を超えて読み耽っているわけですから、当然通常の姿勢とはまた異なるわけです。ああいったかっこうが普通とも言えますし、勿論希望を持って読んでるわけです」

「そうでしたか。苦しんでるわけではないのですね」

「苦しみもまた楽しみということです。読むというのはそういうことです」

「よく理解できました。みなさんも安心して応援することができそうですね」

「勝負はこれからですから」

「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」

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封じられたメッセージ

2024-04-14 17:36:00 | この後も名人戦
「立会人の先生が、今慎重に鋏を入れて、封筒から何やら取り出されましたね。これは遠い故郷よりの手紙でしょうか。それをこれから読み上げて、朝の対局室をハートフルな空間へと導くのでしょうか、先生」

「何をわけのわからんことをおっしゃってるんですか。そんなはずないじゃないですか、田辺さん」

「はっ、そうでしょうか」

「ちゃんと説明しますと、あれは封じ手と言いまして、名人の次の一手が入っていて、それを立会人の先生が取り出して読み上げ、そうすることによって名人が次の一手を着手するということです。指されました」

「はい。封じ手は44銀でした」

「これは驚きました。目の覚めるような一手が飛び出しました」

「この手はどういった狙いなのでしょうか?」

「わかりません。さっぱりわかりません」

「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」

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虫の行方

2024-04-08 23:51:00 | この後も名人戦
「何か対局者が気にされてますが、これは虫でしょうか。盤の周辺を飛び回っているようです。これは大変な事態となりました。まさかタイトル戦でこのようなことがあるとは。虫対策までは研究が行き届いていなかったということでしょうか。このままでは対局の中止も危ぶまれてしまいますが、先生」

「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」

「そうでしょうか」

「そうですよ。虫なんてものは、ほっといたらその内どっか行くんですから。そう大げさに考える必要はないんですよ」

「でも先生、危険な虫だったりすることはないんでしょうか」

「大丈夫です。見たらわかります。あの程度は大した虫ではありません」

「流石は先生。虫の方も大変お詳しいということで」

「やめてください。別に詳しくはないですよ」

「えへへっ、それは大変失礼いたしました」

「見てください。もう落ち着いてきてるでしょう」

「よかったですね。この後も名人戦生中継をお楽しみください」

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