眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

流れていったもの

2009-04-11 19:04:54 | 忘れものがかり
ポエムが流れます
次々とポエムが流れます
けれども僕は見ていました

雨が降ってきた
けれどもキミは走り出した
けれども僕は何も持たない
けれども光がさしてきた
けれどもそれは声のようだった

キミが誰かにあてたメッセージ
僕はこっそりとそれを
けれども生きる支えにしています
けれどもキミは元気ですか

一つの言葉はとても小さい
けれどもいつか僕の目の前に
けれども大きな木が立っていました

けれどもの向こうにポエムが流れます
けれどもみんなが手をふって笑ってる

何もかもが面倒な時に
最も面倒な作業をしなければならない
そういうことになるかもしれないよ

キミはきっとキミだけじゃない

けれどもだから


一つ一つ紡ぎあって
けれども何かに変わってゆこう


最後のポエムが流れます
けれども僕は落ちました


けれども猫が駆ける天上を
けれども星が一つ流れていきました
けれどもそれは瞳だったかもしれない

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ひとり

2009-04-08 12:32:40 | 幻視タウン
「おひとりさまですか?」
私は、一人かもしれなかった。
けれども、私の隣には夢を折り畳んだペンギンが座っているような気がした。
ベリーニで乾杯をした。
グラスを合わせると、音もなく時が割れた。


シンガーは歌う人だと思う。
歌っている間は、歌が傍にあり、歌の中にあり、歌と共にあった。
歌がすべてであり、すべてが歌だった。
歌の中に世界はあったし、世界は歌に包まれていた。
時々、シンガーは歌を止める。
今まで何を歌っていたの?
今まで誰に歌っていたの?
今までなぜ歌っていたの?
シンガーは自分に問いかける。
夏休みよりも長く深い眠りから覚めた後、無人島で盛大なパーティーをした後、魔女の投げたリンゴをゆっくり見送った後……。
不意にその瞬間はやってくる。
誰か、誰か、思い出させて。私に、歌うことの動かし難い必要性を。
シンガーは世界に訴えかける。
誰も、答えない、誰も、誰も。
時は、何も答えずに許しだけを運んでくる。
とうとうシンガーは、歌い始める。大丈夫、私は大丈夫、と震えながら。
私はシンガーではなかった。
けれども、歌を止めるシンガーのように、時折息が止まりそうになる。


カードを切る音がきこえる。
何気なく選んだかのようにみえるカードも、選ばされているのかもしれなかった。
マジシャンの細い指先に、吸い付くようにカードは戻っていった。
グラタンが焼きあがった時のように、指が鋭く鳴った。
吸収され一般市民と化したはずのカードは、マジシャンの合図で裏返った。
「私が世界でたったひとりのハートのジャックだよ」
ジャックは微笑みながら胸を張った。
空っぽだったはずの、トランプ箱の中から、鳥が現れた。
鳥は、紙でできた鳥のように無表情だった。
それから鳥は、歌い始めた。


  ミラクルな時代は
  ジェットにのって過ぎ去った
  いかなる感傷も
  私には必要ない
  私はただ確認する
  世界が今日も回っていると

  スーパーな人々は
  見上げることも忘れてしまった
  いかなる憂鬱も
  私には必要ない
  私はただ確認する
  私が今日も私ひとりであると

  問いかけることだけが
  私が歌うすべてなのだから


鳥は歌い終えた。
炎に包まれて見えなくなった。
炎が消えると、鳥も消えてしまった。


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ドクター・ミュー

2009-04-06 15:59:05 | 狂った記述他
 「あの、初めてなんですけど」
 女が恐る恐る入ってきた。
 「ようこそ。さあ、どうぞ」
 通訳犬のタロが出迎えた。
 「あの、ここではどんな相談に乗ってもらえるのでしょうか?」
 「はい。ほとんどの相談に応じております。
 中にはどうしても無理な相談というのもありますが、まずはお話を聞きましょう」
 タロは、診療室に女を通した。

 「ドクター・ミュー。初めての方です」
 ドクターは、大柄な猫であった。
 「どうしましたか?」
 「先生、私はどうしようもないのです」
 女と猫の会話を、タロは正しく訳してそれぞれに伝えた。タロはベテランの通訳犬であった。
 「どうしたというのですか?」
 「先生、本当に私は……」
 女は言葉に詰まったようだった。タロの通訳がストップする。ドクター・ミューは犬に向かい続けるように促した。タロは患者を落ち着かせようと、落ち着くようにと優しく言った。
 「私はね、着ると暑いし脱ぐと寒いのですよ」
 「ふむふむ」
 ドクター・ミューは、しきりに自分の首の下を舐めながら相槌を打った。

 「それは誰でもそうではないでしょうか」
 「私の場合はそれがひどいのです」
 タロは垂れ下がった大きな耳を更に傾け続けた。
 「着たり脱いだり着たり脱いだり着たり脱いだりもう大変!」
 女はだんだんとヒステリックになっていく。タロは同じ言葉を何度も訳さなければならないのであった。
 「もう服ズレができてしまって大変なのですよ。
 昨日なんて着たり脱いだりしているだけで一日が終わってしまったのですよ」
 一気にしゃべり続けて一息つくと、ようやく女は少し落ち着きを取り戻したようだった。
 「移ろい行く季節の中であなたは悩んでいらっしゃる。
 悩むということは、生きている証しです。
 だからこそ私のような猫もいるのです」
 タロは猫の言葉をそつなく人間に伝えていった。その口ぶりは洗練された職人芸であった。

 「この翻訳犬はとても役立つ犬です。
 けれども四六時中一緒にいるとね、どうしようもなくうっとうしくなることがあるのです」
 犬は、ドクター・ミューの言葉を患者の様子を窺いながら伝え終えた。
 それから猫に向かってウォーウォーと吠え掛かった。猫は、犬に向かって襲いかかった。ドクターと通訳犬は、激しく叩き合いつつき合い蹴り合いながら診療室を出て行った。

 静かになった診療室の中で、女はセーターを一枚脱いでドクター・ミューの座っていた椅子に置いた。しばらくの間、戻ってくるのを待ち続けていたがしばらく待っても、誰も戻って来ないのであった。診療室の時計を見たが、時計はおかしな時間で止まっていた。腕時計も何もつけていない手首を、もう一方の手でさすった。
 遠くの方で、蛇が唸るような声が聞こえた。女は、再びセーターを手に持った。
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遠い道のり

2009-04-04 09:38:00 | 幻視タウン
 太陽を抱きしめるほど、私の肩幅は広くはなかった。
けれども、私は仲良しの犬でさえ並ぶことのできない細い散歩道を通ってやってきたのだ。
 短い春が終わると、寒い冬が大名行列のように訪れた。
 温もりが欲しかった私は、それ以上に疲れてもいたのだ。エスプレッソを混ぜながら混ぜながら、私はエスプレッソに見とれてしまった。深く眠った私の奥で優しい声が聴こえてくる。家族の声が聴こえてきた。カフェのママが、私の代わりに本を読み始めたのだ。朗読の時間だ。
 ママの声が聴こえてくる。



   *


「ここまで来たんだから行こうじゃないか」
「わざわざ、ここまで来ることはなかったじゃない」


「でも、来てしまったものはしょうがないじゃないか」
「こんなに遠いのなら来なかったわよ」


「前は、もっと近かったような気がしたんだよ」
「どこが近いのよ。もう足がつりそうだわ」


「でもまあ、せっかく来たんだから行こうじゃないか」
「パパに賛成!」
「ここに来るまでに、色々な店があったでしょう。
 そこでも良かったんじゃないの。
 別に、ここまで来る必要なんてなかったじゃないの」


「でもまあ、今はここにいるんだから」
「それはあなたのせいでしょ」
「パパわるい!」


「まあもうそろそろいいじゃないか」
「帰りはどうするの? また歩かなくちゃならないわ」


「歩いて来れたんだから、歩いて帰れるさ」
「あなたはいいけどね、一緒に歩かされる方の身にもなってよ」
「あたしは歩く!」


「今日は、いい天気じゃないか」
「その内暮れるわよ」
「そんなことはないだろう」
「あるの」


「さあ行こうじゃないか。ここまで来たんだから」
「なんか納得がいかないわねえ」


「人生そんなもんだよ」
「あなたは何でもそれで片付けようとするわね」
「そんなことはないよ。さあ、さあ」
「全く、仕方がない人ねえ」
「まあ、そんなこと言わずに。
 ここまで来たんだから、行こうよ」


「誰のせいでここまで来たのよ?」
「誰のせいって……」
「ママしつこい!」



   *


 私はスプーンを手に持ったまま、空っぽのエスプレッソを混ぜているのだった。
 私が目を閉じていたのは、ほんの一瞬だったのだろう。ほんの一瞬の間にいくつかの声が駆けた。どこかで聴いたことのある声と、私自身の声も交じっていたような気がする。それでもエスプレッソが、蒸発してしまったのは誰のせいなのだろうか……。カフェの中の誰もが、怪しい人間たちに思われ、おかげで私はまだ人間の途中にいるのだった。
 コーヒーカップが、耳障りな音を立てる。誰のせいか、私にはわからない。

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猫を探しています

2009-04-01 16:48:19 | 猫を探しています
 こちらへどうぞ、と無数の手が伸びている。
 手の招く方へと僕の足は伸びていき、そのまま引き込まれてしまうのだった。僕の握った手は、雪のピアスのように冷たかった。
 大通りの真ん中で石とイワシが闘っていて、巻き込まれないように用心して歩いた。石がやや押しているように見えるが、イワシも頑張っていて勝敗の行方は不透明だった。声援の大きさではイワシの方が少し上回っているようだったが、あるいは石と言っているのがイワシに聞こえているという可能性もあった。石がゴツゴツと音を立てんばかりに襲いかかれば、イワシはひらひらと軽やかに流れて石の思い通りにはならない。石が剛だとすれば、イワシは魚のようだった。
 雨がスライムほどの勢いで降っていた。
 僕はしばらく足を止めて、二人の対戦を見守っていた。自分自身それほど興味があるわけではなかったが、大勢の人が夢中になって応援している様子を眺める内に、人々の関心が自分に移っていくようだった。それは流されているのかもしれなかった。
 石は今度はムシに変わっていて、イワシの方はチャカシに変わっているのだった。石を応援していた者はそのままの流れでムシを応援するのが主流であったが、中にはチャカシの華麗さに魅せられて寝返る者もあった。けれども、応援者の態度は気まぐれで、最初からあちらについたりこちらについたりとふらふらしている者もあれば、どちら側にもつくことなくただ応援しているという態度の者も見受けられた。

 「ゆでたてのタコはいかがかな?」
 頭にタンバリンをはめた青年が、突然勧めてきたのでもらうことにした。青年は300円と言い残し消えてしまった。
 雨はとっくにスライムに変わって降っていた。
 僕の隣には、腕立てをするデコがいたのだ。
 「どうです? 速いでしょう」デコの腕立てはどんどん速さを増して、その内に静止しているように見え始めた。
 ムシはあらゆる科学者たちの言葉に耳を貸さない優雅さで立ち回ると、チャカシは笑ったり怒ったり聞いていたり聞いていなかったり、踊ったりピョンピョンしたり、そうかと思えばこれはどうかと思える動きをしたりと、あらゆるまやかしをも凌ぐ華麗さでムシを幻惑しにかかるのだった。そして、ムシはその強い耐性で持って凌いでいても、観客の何人かはその幻惑にかかりその場で気を失って倒れるのだった。ムシについている者たちがより多く倒れているようだった。

 「ムシの勝ち! 決まり手は出ずっぱり」
 デコがしゃしゃり出ながら、決まり手を告げるとすぐさまチャカシが反論した。
 「俺もずっと出てたじゃないか」
 みんなの拍手と、強まったスライムにチャカシの声はかき消されてしまった。気立てのいいデコの言葉には、誰もがみな賛成するしかなかったのである。ただ一人僕だけは、ゆでたてのタコを食べていないということが気にかかり、公共広告機構に持ち込むことを決めていた。
 拍手は、いつまでも鳴り止むことはなかった。鳴り止む前に僕は歩き出したのだ。

 「猫を探しています」
 動物案内所の窓口で、居眠りをしている受付を起こして尋ねた。
 「ここは動物でねえ。
 猫というとまた別なんですねえ」


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