横断歩道の前に立ち止まったおじいさんを無視するように、車はスピードを落とすことなく走りすぎた。
「透明人間かい」
おじいさんは、自身の存在に哀れみを重ねみた。その時、おじいさんの体は無意識の内に走り出していた。エンジンは燃えるような怒りだ。目にもとまらぬ速さで車道を突き進むと交差点を4つ越えた先で、ついにその標的を捕らえた。車体にとりついたおじいさんの姿を見ると、ドライバーは驚いて窓を開けた。おじいさんは、すかさず先の横断歩道の件について問い詰めた。
「渡る意思を確認できなかった」
男は苦しげに答えた。元から確認する意思などなかったからだ。
おじいさんは、免許証を取り上げると男の車をひっくり返した。おじいさんにとっては、それが今日のちゃぶ台だった。