「40万!」
「45万!」
「250万!」
「3万!」
「80万!」
「90万!」
「32万!」
「落札!」
その辺のおばさん作『値引きを待つ三毛猫』を落札したのは、ビジネスマン風の男だった。オークションはすぐに再開される。
「100万!」
「150万!」
「2000万!」
「3000万!」
流石は人気アーティストの作品だ。価格があっという間に跳ね上がった。
「5000万!」
「800万!」
「300万!」
「260万!」
「落札!」
一時は夢のように跳ねたが、結局は落ち着くところに落ち着いた。神出鬼没の近代画家ウェルチェ・ジョンソンの作品『通り雨と壁際の魔術師』は260万で取引が成立した。
「15万!」
「落札!」
謎のモダン・アーティストとして人気のトミー作『ジャズピアニストの覚醒』が即決した。いよいよ僕の作品の出番だ。
「200万!」
「250万!」
「400万!」
商店街の外れで開かれるゲリラ・オークションは誰でも参加することができる。高ければ必ず落とせるというものではなく、運営が相応しいと決めたところで落札が決まる。そのシステムは謎のベールに包まれている。瞬間的とは言え高い値がつけられるのは、作者の立場としては悪くない気分だった。
「1000万!」
(ここで決まれ!)
そう思う瞬間は、だいたいあっさり過ぎていくものだ。
「1300万!」
「750万!」
「200万!」
「5000万!」
「お~!」
(決まれ!)
「900万!」
「50万!」
「55万!」
「55万5千!」
「55万6千!」
「55万7千!」
「300円!」
「落札!」
『微細な喜び』の落札が決まった。わかっていたこととは言え、なぜここなんだという気持ちがしばらくは尾を引く。もやもやと共に新しい作品の中に身を投じる以外にすべきことは見当たらない。他人の評価と運によって浮き沈む。それが今を描くという生き方だった。