微かに空気の残ったボール
壁からのターンを受けて
吸い着くようなドリブルを
あの頃の俺は
抜け出すだけの
フットボーラーだった
得点の匂いをかいで
いつだって裏に抜けた
だけどあいつは
よこさなかったな
40℃のピッチの上
立っているだけで苦しいのに
ボールに触れると少し元気になった
何もかもが上手くいかない時も
ボールならば
オアシスを生み出せる
微かに空気の残ったボール
「まだ生きているよ」
壁に向かって打ちつける
俺はロッカールームのフットボーラー
まっすぐ打てばまっすぐ返す
壁は裏切らない
キーパーからのロングボール
ダイレクトで落とした夜
あいつフリーでシュートをふかしたね
もう一度俺に返してもよかったのに
あの頃の俺
できたてのチームの中では
中心にいるしかなかった
助っ人の加入と充実
サイドから脇へ
脇からベンチへ
そして俺は芝を離れた
俺の好きだったチーム名
今では誰も覚えてないね
微かに空気の残ったボール
壁からのターンを受けて
吸い着くようなドリブルを
俺はロッカールーム・フットボーラー
誰もボールを奪いにはこない
壁の間をすり抜けて
夜の出口を探してる