眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

梅雨入り修業

2013-08-29 08:06:06 | 気ままなキーボード
 何かの数字が先頭に立つ日には何か良いことがあるように作られていて、それを計算して出かけることはないにしても、たまたま隣に座った人と誕生日が重なってしまったというように、たまたま良き日に行き先が重なることがある。けれども、そこにたどり着いた時には既に手遅れで、どの中もどの中もみんな先に訪れた人々によって摘み取られてしまったあとだった。その人たちが、前々から計画を練って数字に合わせてやってきたとするなら、それは正しい報酬ではないかという気がする。3つ並んですべて空っぽになったプールの底を覗き込んでみても、古代ローマの神殿は眠ってはいなかった。
「なんだせっかくきたのに……」
 きっとそれは、僕の言うべき台詞ではないのだ。代わりにポテトチップスでも買おうか。けれども、他の荷物に交じって、家に帰る頃にはつぶれて粉々になってしまうかもしれない。1度は手にしたポテトチップスを戻すと、魚の缶詰を手に取った。


 目的地は上の方に見えているのだけれど、なかなかそこに行くための正しいルートが見つからない。エスカレーターに乗るとそれは頂点に達したところで降下を始め、また元の敷地の少しだけ向こう側へと着地するにすぎなかった。それらしいエスカレーターを見つけては挑戦してみるが、何度も同じことを繰り返しているばかりで、目的の上階へとたどり着くことはできず、いくらゆっくりして欲しいといってもこのように空しいトラップをあちこちに仕掛けているとは、なんて優雅な百貨店なのだろう。いくつもの迷子が生まれて彷徨い親切な人々の助けによって笑顔を取り戻す頃になって、ようやく山折でない正規のエスカレーターを見つけることができた。上り切ったところは人溜まりが通路を塞いでおり、まるで興味もない帽子やサングラスをしばらくの間観察するためにまた無駄な時間を使わなければならなかった。
 最初に履いた靴は踵に親指一本がちょうど入るくらいのJリーグシューズだ。
「お菓子は食べてもいいんですか?」店員さんを捕まえて、医療相談をしているのはどこのどいつだろう。
「いいんですよ。お菓子くらいは食べても平気ですよ。一食にするくらいの量でなければ問題ありません」
 というような夢を記録しているのは天空にある硝子張りのカフェだった。土砂降りの雨から逃れようとした裏通りのカフェはみんな夕方6時には閉まってしまうという事実を、入り口に置かれた看板に刻まれた文字が繰り返し教えてくれた。
 どうしてこんなにもぬるいのだろう。
 まるで常温のようなアイスティー。もっと氷を! と叫びたくなるような心地の悪さ……。氷の大部分が溶けかけているというのに、決して冷たいと言えるものではない。どこに行っても、いいところとよくないところがある。


カチッ
 完全禁煙だと思われた店の隅っこからその音は聞こえてくる。確かにあの音に似ている。明らかには見ないようにしながら、周辺視野で隅っこの様子を感じ見る。確かにあの指の動きは、間違いなくあの動きに違いない。あの音とあの指の動きが合わされば、もう直視しなくても真実は導き出されている。完全と思わせながら密かに隅の2席だけは除外されていたのだった。
 近い将来の話、遠い未来の話、不確かな金の話、腐った組織の話、不都合な真実の話、恋する人の恋人の話……
 忍び寄る煙は、聞きたくもない話と入り交じってあなたの体内に侵入して少しずつあなたを傷つけていく。(少しずつなら構わないとでもいうのか)あなたはそこから逃げ出すこともできるけれど、どうしてあなたが逃げ出さなければならないのだろう。あなたは我慢強く、忍耐力を養う修業の1つのようにそこに留まったまま、明日も黙って偉い人たちの話を聞くだろう。


 ページの上では21時までになっているのに、終着駅を知らせる英語に続いて、まさか蛍の光が流れ出すなんて。ぬるティーを一気に胸の中に流し込んで、まだ来てから1時間にもなっていない店を出ることになった。エスカレーターで地上に向かう。外はどこを歩いても水溜りの中を歩いているようで、恐れをなし夜通し開いているファーストフード店に駆け込んだ。誰もいない2階に上がるとそこは震えるほど寒く、窓の外のベランダでは若い修業僧が6月の滝に打たれ修業に励んでいた。

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モトカノ

2013-08-28 09:00:10 | ショートピース
深く落ち込んだので原点位置まで返って詩人の家の扉を叩いた。回復に必要な言葉を選び取って、いつかのように詩人の手元に預けようとした。「もう詩はやめたんです」ごめんねと女は言った。「3年前に」冷たく突き放すのではなく、温かく包み込むような微笑の中に3年の歳月が流れる。#twnovel

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豆腐蛙の跳躍

2013-08-27 21:15:39 | 夢追い
 外に人のいる気配を感じながら新しい関心が芽生えるまでチャンネルを変えていると突然襖が開いた。
「何をしている?」
 おばあさんは、怒ったような声で言った。
「休んでいるんだ」
 答えが気に入らないようでおばあさんは散々文句を言ってから、忘れ物を置いて出て行った。昼間からなんだ!いい若い者がなんだ!テレビなんか見てなんだ!という調子でおばあさんは一方的に責めて、こちらからの意見を拒絶していた。忘れ物のこん棒を持って追いかけると、おばあさんはまだ入り口の近くを歩いていた。
コツン!
 手渡すだけでは物足りなく思え、おばあんさんの頭をコツンとした。
「こいつめ!」
 おばあさんは激しい怒りを体全体で表し、このままで済むとは思うなよと捨て台詞を吐いて、こん棒を握り締めて帰っていった。後悔の念が押し寄せてくる。人の恨みを買うような真似だけはすまいと心がけていたのに、ついつい憎らしくなって……。ノックもしないおばあさんの方にだって少しの非はあるのだ。けれども、一旦恨みを買ってしまった以上、どんな罠や仕返しを仕掛けられるかもしれないし、凶悪な援軍を引き連れて戻ってくるかも知れず、この場に留まるわけにはもういかなかった。
 都会を離れ観光地に逃げ延びると、薄暗いファッション館の中では外国人観光客たちが既に店の中にあるクールで未来的な洋服を購入してそれぞれ自在に着こなして歩いている。上の階に行くには、ロープを掴んで腕の力だけで行かなければならなかった。滑り止めの粉を両手にまぶして一気に上る。
「いらっしゃいませ」
 フロアにたどり着くとすぐに占いの館になっていて、青いドレスを着た蝶の妖精のような占い師が笑顔で出迎えてくれた。その奥は本屋になっていたが、更に奥に進むと古いビデオテープや懐かしいカセットテープがワゴンの中に並んでいた。何となく目を落としながら、家の中の地図を開いて再生できる機器があるかを探していた。
「何かお探しでしたら……」
「見世物に来ただけです」
 咄嗟に出た言葉に、自分自身が驚かされた。

「もう電池が切れる」
「じゃあ、かけ直してよ」
 彼女はそう言って電話は切れた。突然、彼女の電話番号がわからなくなった。記憶も飛んでしまったし、探し方も思い出せないのだった。
 歯磨き粉じゃないと言って、兄が騒ぎ出した。そう言われてみれば、僕の口の中もいつもとは違う、得体の知れないフルーツのような匂いが残っているし、宝石が詰まったように口の中が硬くなっているような気がしてきた。騒いでいる内に、近所の田村さんから電話がかかってきて、お宅の母がずっと朝から泣いているから、いい加減にそろそろ迎えに来たらと言う。父の部屋を訪ねると父は絨毯の上に図鑑を広げ、虫眼鏡を手に顔をくっつけて覗き込んでいる。研究の途中で話しかけても、少々のことでは届かないと予想された。

「今から会おうよ」
 電話がつながらないので、直接彼女に話しかけることにした。
「マクドナルドで朝ごはんでも食べようよ。久しぶりにね」
 再会した彼女と並木道を歩いていると道端で豆腐の形をした蛙を見つけた。豆腐蛙だ。
「かわいいね」
「うまそう!」
「食べるつもり?」
 手の平に載せた拍子におしっこをかけられたが、悪気のない顔つきを見るとかわいさが増してきた。
「つれて帰ろうか?」
 犬と仲良く暮らしていけるだろうか……。
 背中に豆腐蛙を乗せて街中を散歩する風景、珍しい獲物として庭の隅から隅まで追い回される豆腐蛙。反する風景が同時に浮かんで、決断を鈍らせていると、ついに豆腐蛙は最大跳躍を見せて、枝の上に飛び移ってしまった。

 木の下にライオンの親子は身を寄せて暮らしていて、母が食物を持ち帰ってくると決まって先に子供に与え、母は木から1メートル離れたところで子供が食べ終わるの待っているのだった。
 もしも木そのものから食物が発生したら? 木と食物が一体化した時、母ライオンはどう動くのか? というのが博士の考えたテーマだった。博士は実験のために人工の木を作り、母が何もしなくても食物が出てくる仕掛けを作った。
 先に気がついたのは母ライオンだった。母ライオンは食物の存在に気づくとためらうことなくそれを食べ始め、その内に木と一体化してしまった。母ライオンは木となり食物となり、その間、子ライオンが入り込む余地はまったくないのだった。しかし、ある程度まで食べたところで、突然母ライオンは食べることをやめ、木との契約を解消するといつものように木から1メートルの距離を取るのだった。その時、母は少し照れたような顔をする。その小さな表情の変化を、博士は重視している。恐らくそれは、次のテーマにつながる何かだと思われた。
「なるほど。そうなるか」
 母はいつものように、少し離れた場所から、子供が食物を食べ始めるのを待っていた。

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夏のあかり

2013-08-26 11:55:13 | ショートピース
全ての取り扱いを終え何人も招くことのないATMの光に吸い寄せられやってきたカブト虫は、夏の残高を照合しようと透き通る壁に張り付いた。「ずっと待っていたよ」微かな角の動きで少年は目を開いた。「君は僕の最後のカードになるんだ」少年の網が甲冑の王を捕らえようと近づいた。#twnovel

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気配は猫である

2013-08-21 08:07:20 | ショートピース
瞬時に本質を見極めることは難しい。猫は置物のように自分を消して固まることができるし、置物も猫のように愛らしくポーズをとることがあるからである。しばらくしても動かないのでこちらから話しかけてみる。「ねえ君、名前は?」猫または置物に近寄って様子を窺う。返事はまだない。#twnovel

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ベガーズ・バンケット

2013-08-19 20:36:21 | 夢追い
 文具セールの通知がメールで届く。1300円のセットが780円に下がっていたものが、ついに0円になったとのこと。
「それにはちゃんとからくりがあるのよ」
 姉を中心とした家族が、うまい話に乗ってはいけいなと僕をセールから引き離してしまう。姉の説明を聞くと納得するが、少し間を置いて考えてみるとまたわからなくなる。とにかく0円なのだから、一旦手にしておけば、後で買うことを思えばその分だけ得であるように思えてくるのだが……。
 夜の間はおとなしくしていなければならず、PCを開くこともできなかったので家を出て行くことに決めた。店の前に座り込んで、ベガーズバンケットを抱いていると、見知らぬ男が近づいてきて僕のすぐ傍に座った。僕は意地でも動かない。そうしていつまでも店の前で場所取り合戦をしていると、とうとう店主か出てきて、僕にベガーズバンケットを譲ってくれた。歩きながら中身を確かめると、大きなレコード盤は既に傷だらけで、とてもちゃんとした音を出すとは思えなかったけれど、それに重ねるようにして透明な再生用のレコードが入っているのを見つけた。けれども、既に父は亡くなってしまい、レコード針を扱える者もいないのだと思うと、余計に空しくなるような気がした。

「曜日によって犬が来ますから」
 新しく空き家を使うという親子に、介護に来る犬の説明をした。
「火曜の犬には特に注意してください」
 それはまだ人間に完全に慣れていない犬で、人の物を勝手に盗んだり壊したりするので、本当はメンバーに入ってはならない犬だったけれど、急な欠員が出たため、仕方なく採用された問題のある犬だったのだ。ちょうどロケットが飛ぶ日に、僕は空港に向かって歩いていたのだった。
 青い風船ロケットが、ゆっくりと街の上を横切っていく。あまりにもゆっくりとした様子には、何か不穏な空気が漂っていて、上昇するというよりも大地に引かれているという感じに見えた。だんだんと高度を落とし、もう少しで工場の屋根の裏に消えてしまいそうだった。風船の頭から薄っすらと黒鉛が上がっているようにも見えた。
「ゴーン!」
 屋根に当たって、大晦日の鐘の音のように鳴った。こんなことは今までにあったことがなく、何か不吉な予感がして、家に引き返すことにした。



 妹がパジャマのまま屋上に駆け上がっている。
「とめろ!」
 母も、姉も、兄も、あたふたとして、何もできないでいた。それは一見して紛れもない異常行動に違いなかった。
「抱きしめろ!」
 飛び降りでもしたらどうするんだ。僕は遠くから必死で訴え、その声にようやく応えた姉が駆け寄って妹を抱きしめた。
 抱きしめていると小さな妹は姉の手の中でむくむくと成長して、巨大な男となり姉の体を弾き飛ばした。代わりに兄が駆け寄ってなんとかしようとするが、凶暴化した弟の手足によって返り討ちにされてしまう。顔も形も突然変異したそこにもはや可愛い妹の面影は1つもなく、完全な別人であったけれど、僕らの中の現実を捉え切れない何かが、彼を弟として認めさせていたのだった。それはもはや助ける対象ではなく、むしろ家族が団結して戦うべき相手になったように見えた。弟は筋肉質の裸体を真昼の月にさらけ出しながら、狼のように吼えた。

「サッカー一筋なんて、みんなうそだったのよ!」
 姉は、突然できた弟の歴史を振り返って責めた。
 兄は肘を押さえながら壁を背にして立っていて、そのすぐ近くで母と姉は身を寄せながらしゃがみ込んでいた。
「柔道でやっつけてやろうか」
 壁に向かって、兄がつぶやく。
「まだそこにいるよ!」
 生まれたての弟が振るヌンチャクが風を切る音が間近に聞こえていた。
「構わんよ」
 兄は、短く言った。

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死語感想文

2013-08-19 11:56:52 | ショートピース
あなたは誰ともしゃべらなかった。あんなにも大勢の人の中にいて、勿論それはあなたが死んでいたから。あなたはすぐに書かなければなりません。時間が経つと生身の熱がすっかり冷めてしまいますから。もう冷たくなっているですって? 心配は要りません。生まれ持っての資質ですから。#twnovel

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馬鹿者

2013-08-15 21:49:33 | 拝啓お客様
拝啓 お客様

申し訳ございませんが、
お客様、それはできない相談でざいます。
料理を頼まずにセットを頼むことは、できもしない注文でございます。
私にできることと言えば、ただ謝ることでございます。
申し訳ございません。
昨日はできたとおっしゃられますか、お客様……。
重ねてお詫びを申し上げねばなりません。
昨日はできていたことが、今日はできなくなっている。
とても恐ろしいことでございます。

しかしながら、お客様、
恐れながら申し上げさせていただきますと、
昨日は昨日、そして、人間はみな馬鹿者でございます。
お客様も含めてみな大馬鹿者でございます。
私たちにできること、
それはただ辛抱強くあることばがりでございます。
さて、ご注文をどうぞ。

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アイス・マウス

2013-08-08 21:07:29 | 気ままなキーボード
 扉が開くと中から明るい光が射し込んで来て、そこは初めて私がみる世界でした。みんな緊張した面持ちで、静止したまま自分の出番を待っているようでした。トマトは少し頬を赤らめ、チーズは不自然な姿勢を保ったままチーズであり続け、大柄なウーロン茶だけは、少し波打ちながら胸の内を隠し切れない様子でした。水っぽいレタスと、ごつごつとしたじゃが芋の間に、ご主人様はそっと私を置きました。その時、誰1人言葉を発することのできるものはいなかったけれど、私の周りではざわざわとした葉触りのようなものが湧き起こっていたのでした。扉が閉まるとそこは完全に暗闇で、ご主人様の背中で揺られている時のように真っ暗で、けれども、そこは冷え冷えとした世界でどこか地の底の方からブーンという音と振動が伝わってくるのでした。きっと、ご主人様は誤ったのです。私と私に似た何かを取り違えて、私をここに入れてしまった。私をここに残しておいてしまった。いったい誰と、いったい誰と……。私はその間、誰とも話さなかったし、誰とも仲良くなることもなく、ただ私であり続けました。たいした罪もなく、大きな意味もなく、私はただいつもより少し冷たくなって、元の場所に帰ることになりました。
 ご主人様の手の中で踊りながら、ご主人様の目の前に広がる世界の中で、ただ1つの現在地を知らせるために、時に物静かに時に忙しなく動き回り、私は私に与えられた本来の仕事に全力を尽くします。
 そして、時には突然、ご主人様の意思に逆らって一切の命令を無視する時があります。その時、私はあの瞬間のことを思い出しているのかもしれません。あの扉が開き、閉じられた瞬間のことを……。
 水っぽいレタスと、ごつごつとしたじゃが芋の間に、ご主人様はそっと私を置きました。

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長々とした男 (やまとなでしこ)

2013-08-07 08:44:49 | アクロスティック・メルヘン
山道を越えて新しい村に着いて、
まだ右も左もわからないので、
通りがかった人に道を訊こうとすると、
長々とした男が歩いてきました。
手も足も胸も頭も長い男はとても
親切そうに見えたので、
この機会を逃すわけにはいきません。

宿の場所もわからなければ、
マクドナルドの場所もわからなければ、
時計屋さんの場所もわからなければ、
生菓子屋さんの場所もわからなければ、
手作りパン屋さんの場所もわからなければ、
試験場の場所もわからないので、
この機会を逃すわけにはいきません。

「宿はどこですか?」
「マチュピチュカチューシャじゃん」
突然そんな風に答えられても、
何のことかわかりません。
手も足も胸も顔も長い男はとても
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
「マクドナルドはどこですか?」
「戸締り掃除何の用じゃん」
なんて答えられても、
手に負えません。
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
「時計屋さんはどこですか?」
「なつこはがさつじゃん」     
手がかりはまるで掴めません。
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
問えば問うほどわからないなんて
「生菓子屋さんはどこですか?」
「手の中のおかずとんかつじゃん」
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
問えば問うほどわからないなんて
長々とした男だというのに
「手作りパン屋さんはどこですか?」
「自然にうちなしうちでのおせちじゃん」
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

奴はついには何も訊かない内に叫び始め、
「ママー!ママー!ママー!ママー!ママー!ママー!」
父さんは肩から我が子を下ろしました。
長々とした男の頭は長々とした間、子供の
天下にあり、今ようやく解放されたのでした。
「試験場はどこですか?」
「この道を真っ直ぐ行って時計屋さんの隣、マクドナルドの中にあります」

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ブラック・アンド・ブルー

2013-08-06 19:51:44 | 夢追い
 もうすぐ着くというのであたふたとして、バスタオルの柄が気になったので風呂場にいると、彼らはいつの間にか密かに存在する裏口から家の中に入っていたのだった。両親でも親戚でもない、実家の近所に住む親子だった。
「遠方から大変だったでしょう」
「都会の暮らしはどうだ?」
 僕は借りていた本のタイトルを出して、ちょうどそのような感じだと言った。
「どんな内容だね?」
「うーん……」
 まだ全部読み切っていなかったのだ。
「伝えるには、まだ早いんですよね」
 それから3人で黙々とお茶を飲んだ。


 目印に置いていた前方の車は曖昧な位置にいた。器用なドライバーが隙をつくように追い抜いていく。やがて目印はローカルな道に折れる。その手前では、数台の車が不吉な貼紙を目にしたように急に停止してはターンしていった。パトカーが脇をかすめるようにして追い抜いていった。はっとする。
「一方通行?」
 そうではなかった。何か不吉な気配がし引き返すことにした。横道に頭を突っ込んでバックした。サイレンをつけたパトカーが仲間をつれて戻ってきた。周りを囲まれたので、車を降りた。1人が僕の胸元を指差した。
「シートベルトなし。逮捕します」
 すぐに僕は逮捕され、みんなの前を歩いた。心構えをする暇もなく、涙が滲んでくる。

 怒れ! 怒りで涙が凍りつけ!

 調理室の前を通過する。どうか母が出てきませんように。僕はそれだけを祈った。
 どこにも逃げられはしないのに、先生は犬を引っ張るように僕を引き獣道を歩いた。やり場のない反抗心が、道に高く伸びた植物の先に僕の手を伸ばした。引き千切ろうとしたのだ。
「何を取ったの?」
 後ろから女子生徒の声が聞こえた。
 何も取っちゃいないよ。取れないんだから。取りたかったけど、取れなかったんだから……。

 どうして僕がこんな目に……。
 黒い水の溜まった神殿の中に先生を突き落とした。先生は真っ黒に汚れながらも、威厳を失うことはなかった。
「私の汚れはすぐに落ちる。すぐに誰にだって会えるわ。あなたの犯した罪は、一生消えることはないでしょう」
 誰にでも会えるという自由が、強く胸を打った。
 みんなから遠く離れた場所で、とうとう涙があふれ始めた。

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エンドレスロール

2013-08-05 10:37:51 | ショートピース
超大作の上映が終わると間もなく立ち上がって出て行く人もあったが僕は目を見開いていた。主演に続いて名のある役者たち、そしてオール人類の名が流れる。1人、1人と。「あなたが出てくるのはずっと先ですよ」見え透いた嘘までついて現実に引き戻そうとする、あなたは誰でしょうか。#twnovel

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